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【序章】差し出される価値

 縁談――その言葉が、この屋敷でどれほど重い意味を持つのか。


 サミエムは、ようやく理解し始めていた。


 応接間は、無駄に広い。

 壁には歴代当主の肖像画。

 どれもが、感情を削ぎ落としたような顔をしている。


 ゴルディムは、長椅子に腰を下ろし、

 淡々と話を続けていた。


「クラウソラスは、暴食帝三賢者の一角だ」


 知っている。


 だが、知っていることと、向き合うことは違う。


「魂術師。

 帝国でも数少ない、真に危険な存在だ」


 その言葉に、

 俺の内側で感情が微かにざわつく。


(……魂術師同士、か)


 ゴルディムは、俺を一瞥した。


 偶然ではない。


 意図的だ。


「娘は一人」


 続けられる言葉は、事務的だ。


「次代の統治に必要な“楔”として、

 適切な家を求めている」


 楔。


 つまり――

 政略結婚。


「なぜ、アレクシエル家なのですか」


 レイサムが、静かに問う。


 感情は、抑制されている。


 だが、覚悟が見える。


「忠誠だ」


 ゴルディムは即答した。


「我が家は、裏切らない」


 その言葉に、

 サミエムの感情が、強く揺れた。


 怒り。

 否定。

 そして、悲しみ。


(……裏切らなかった結果が、これか)


「候補は二人」


 ゴルディムは、二人を見比べる。


「サミエム。

 家を出た落ちこぼれ」


 淡々とした評価。


「レイサム。

 帝国精鋭騎士団副団長」


 こちらも、事実だけ。


「どちらを差し出すかは、

 相手次第だ」


 サミエムが、立ち上がった。


「……俺は、拒否する」


 その声は、震えていない。


 だが、感情は荒れている。


「俺は、物じゃない」


「違う」


 ゴルディムは、否定した。


「お前は、資産だ」


 はっきりと。


 残酷なまでに、明確に。


「アレクシエルの血は、価値を持つ」


 その瞬間、

 部屋の空気が、冷えた。


 レイサムは、俯いたまま動かない。


 彼の感情は、重い。


 忠誠。

 覚悟。

 諦念。


 すべてが、混ざっている。


「話は、これで終わりだ」


 ゴルディムが、立ち上がる。


「数日中に、使者が来る」


 その言葉で、

 場は解散となった。


 部屋を出た後、

 廊下でサミエムが、拳を壁に叩きつけた。


「……くそっ」


 感情が、溢れている。


「選ばれる側に、拒否権はないってわけか」


「ある」


 俺は、そう言った。


 彼が、こちらを見る。


「“選ばれない”という選択だ」


 サミエムの感情が、僅かに動く。


「……逃げる?」


「逃げるんじゃない」


 訂正する。


「壊す」


 その言葉に、

 彼の感情が、一瞬、静まった。


「クラウソラスは、敵になる」


「……ああ」


 だが、

 この縁談が示すのは、それだけじゃない。


 俺は、確信していた。


(この話には、裏がある)


 クラウソラスが、

 “強欲帝”の影を背負っていることを。


 そして――

 この縁談が、

 俺たちを引きずり出すための餌であることを。


 遠く。


 暴食帝国のさらに奥。


 強欲帝の国で、

 誰かが笑っている気配がした。


 駒は、順調に集まっている。


 だが――

 観測者は、

 その盤を壊す側に立つ。

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