表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/28

【序章】懸賞金の重み

 その依頼書は、他と比べて明らかに“重かった”。


 紙の質ではない。

 報酬額でもない。


 感情だ。


 掲示板の前に立つ冒険者たちは、

 誰もが一度それを見て、

 そして――視線を逸らしている。


「……これか」


 サミエムが、小さく呟く。


「懸賞金付き。

 しかも、ダンジョン内単独討伐指定」


 危険度は、中。

 だが、備考欄が異様に長い。


「過去に三度、討伐隊壊滅」

「対象、知性あり」

「魂縛・封印系、効果不明」


(……なるほど)


 感情を見る。


 依頼を貼ったギルド側の感情は、

 焦りと、諦めが混ざっている。


「誰も受けない理由が分かるな」


「でも、ヘリオが目を付けた」


 俺は、そう返す。


 ヘリオは、こういう“割に合わない依頼”を好む。


 金ではなく、

 価値を見るからだ。


 ダンジョンは、街から半日。


 古い鉱山跡。

 内部は崩落が多く、視界も悪い。


「対象は?」


「人型。

 元冒険者の可能性が高い」


 サミエムが、眉を寄せる。


「……厄介だな」


 感情が、揺れる可能性がある。


 魂術師にとって、

 それは最大の賭けだ。


 内部は、静かだった。


 魔物の気配が、薄い。


(……間引かれている)


 進むにつれ、

 違和感が増す。


 罠。

 誘導。

 そして――視線。


「止まれ」


 奥から、声がした。


「……まだ来る奴がいるとはな」


 男が現れる。


 装備は、ボロボロだが、

 構えに無駄がない。


 感情を見る。


 憎悪。

 絶望。

 そして――諦め。


「懸賞金目当てか?」


「違う」


 俺は、短く答えた。


「終わらせに来た」


 男は、笑った。


「終わらせる?

 俺を?」


 感情が、跳ねる。


 怒り。

 だが、それだけでは足りない。


(……まだだ)


 サミエムが前に出る。


「剣を置け」


「騎士か」


 男の感情に、嘲りが混ざる。


「何人殺した?」


「覚えてない」


 その瞬間、

 感情が大きく揺れた。


 後悔。

 恐怖。

 救いを求める声。


(……今だ)


 だが――


 詠唱に入ろうとした瞬間、

 視界が揺れた。


「っ……!」


 頭が、重い。


 魂縛は、簡単じゃない。


 感情を読む。

 揺れを待つ。

 そして――自身の精神を削る。


「零!?」


「……大丈夫だ」


 嘘だ。


 一日数発で昏倒する。

 それが、この力の代償。


 男が、踏み込む。


 サミエムが受け止める。


 剣と剣が、ぶつかる。


 重い。


「早くしろ!」


 焦りが、伝わる。


 感情が、さらに揺れる。


 絶望が、最大化する。


「――魂縛」


 言葉が、落ちた。


 世界が、静止する。


 男の身体が、

 光に包まれ、

 石へと変わる。


 魂縛石。


 静かに、転がる。


「……成功、か」


 膝が、笑った。


 視界が、暗くなる。


「零!」


 サミエムが支える。


「……使いすぎだ」


「一発だ」


「一発が、重いんだよ!」


 正論だった。


 ダンジョンを出る頃には、

 意識が、ほとんどなかった。


 ギルドで、報告。


 懸賞金は、即日支払われた。


 魂縛石は――

 国家資源扱い。


 換金額は、想像以上だった。


「……これで、当分困らないな」


 サミエムが言う。


「その代わり」


 俺は、息を整えながら言った。


「使いどころを、間違えたら死ぬ」


 魂術師は、強い。


 だが――

 強すぎる代償を、常に背負っている。


 ヘリオが、後で言った。


「いい経験だ」


「楽観的だな」


「力を、恐れられるうちはな」


 恐れられなくなった時。


 それが、

 真の地獄だ。


 懸賞金依頼は、終わった。


 だが――

 この一件で、確実に噂が増える。


 観測者。

 魂を石にする者。


 その名が、

 再び、歪んで広がり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ