【序章】騎士の価値
依頼内容を見た瞬間、アレクシエル――サミエムは眉をひそめた。
「護衛、か……」
紙には簡潔に書かれている。
交易商団の護送。危険度:低。
報酬も、決して高くはない。
「つまらない?」
俺がそう聞くと、サミエムは鼻を鳴らした。
「いや。むしろ――」
感情を見る。
苛立ち。
そして、微かな焦り。
「名門アレクシエル家の名を出したら、もっとマシな依頼はいくらでも来る」
「出さない理由は?」
「……出したくない」
即答だった。
「俺は、俺として評価されたい」
それは、騎士としては正しい。
だが、現実は残酷だ。
護衛対象は、老人と若い商人の二人だけ。
荷は、日用品と保存食。
道中、魔物の気配は薄い。
(……だが)
感情を見ると、商人の方が落ち着いていない。
恐怖ではない。
不安でもない。
焦りだ。
「予定より、遅れてるな」
サミエムが言う。
「え、ええ……」
商人は視線を逸らす。
「急ぐ理由が?」
「い、いや……」
嘘。
だが、追及しない。
しばらくして、道が狭まる。
岩場。
視界が悪い。
「止まれ」
サミエムが手を上げた。
感情が、跳ねた。
敵意。
殺意。
「……伏せろ!」
次の瞬間、矢が飛ぶ。
商人が悲鳴を上げ、転びそうになる。
サミエムは即座に前に出た。
盾を構え、矢を弾く。
「後ろに下がれ!」
声が、通る。
迷いがない。
三人。
軽装の盗賊。
「護衛が一人だと思ったか?」
剣を抜く音。
サミエムは、正面から踏み込んだ。
技は、洗練されていない。
だが、重い。
一撃一撃が、実戦だ。
盗賊の一人が崩れる。
二人目が、距離を取ろうとする。
だが――
「逃がさない!」
追う。
深追い。
(……甘い)
だが、その甘さを――
サミエムは、盾で補った。
背後からの斬撃。
盾で受け、反撃。
剣が、相手の腕を弾く。
残る一人は、戦意を失って逃げた。
静寂。
商人が、膝から崩れ落ちる。
「た、助かりました……!」
老人が、深く頭を下げる。
サミエムは剣を収め、息を整えた。
感情を見る。
誇り。
安堵。
そして――自覚。
「……俺は」
小さく、呟く。
「守れた、か」
名門の名も。
血筋も。
ここには関係ない。
ただ、騎士として。
依頼を終え、ギルドに戻る。
評価は、並。
報酬も、並。
だが――
「次も、あなたに頼みたい」
商人が、そう言った。
それだけで、十分だった。
帰り道。
「どうだった?」
俺が聞く。
「……悪くない」
照れ隠しのような声。
だが、感情は誇らしげだ。
「騎士ってのはな」
サミエムが言う。
「剣を振るうだけじゃない」
「知ってる」
「なら、なんで俺を見てた?」
「観測者だから」
そう答えると、苦笑された。
「変なやつだな」
その通りだ。
だが――
この男は、確実に“積み上げている”。
後に来る、
帝王。
血。
裏切り。
それらに耐えるための、基礎を。
今日は、
ただの護衛。
されど――
騎士の価値を試される、一日だった。




