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【序章】救われた命の重さ

 意識が完全に戻った頃には、施設の中は静まり返っていた。


 崩れた実験器具。

 砕けた薬瓶。

 血と薬品の混じった匂い。


 違法実験施設は、もう機能を失っている。


「……終わったんだな」


 アレクシエルが、周囲を見回しながら呟いた。


 剣は納めているが、緊張はまだ解けていない。

 それも無理はない。


「零、歩けるか?」


「……ああ、何とか」


 身体は重い。

 魂縛の反動は、骨の奥にまで残っている。


 だが、歩けないほどではない。


「救出対象は?」


「奥だ」


 ヘリオが短く答え、先導する。


 奥の部屋は、明らかに“用途”が違っていた。


 研究室ではない。

 檻だ。


 金属製の簡易檻が、いくつも並んでいる。

 中には――人がいた。


「……子ども?」


 思わず声が漏れる。


 十代前半ほどの少年少女。

 痩せ細り、目に生気がない。


 感情を見る。


 恐怖。

 諦め。

 そして、かすかな希望。


 それが、僕たちを見た瞬間に揺れた。


「……たすけ、ですか?」


 一人の少女が、震える声で言った。


 その瞬間、胸の奥が締め付けられる。


(……ああ)


 間違いなく、救出対象だ。


「もう大丈夫だ」


 アレクシエルが、剣を下ろして言う。


「ここから出る」


 鍵を壊す音が、やけに大きく響いた。


 檻が開く。


 だが――誰も、すぐには動かなかった。


 感情を見る。


 恐怖が、消えきらない。


 信じられないのだ。

 “助かった”という状況そのものを。


「……零」


 ヘリオが、静かに呼ぶ。


「来い」


 僕は、一歩前に出た。


 少女の前に、しゃがむ。


 視線を合わせる。


「君たちは、もう“素材”じゃない」


 感情が、揺れる。


 混乱。

 戸惑い。

 そして――涙。


「……ほんとう?」


「本当だ」


 その言葉に、少女は崩れるように泣いた。


 他の子どもたちも、次々と。


 嗚咽。

 すすり泣き。


 感情が、一気に溢れ出す。


(……魂術師にとっては)


 最高の条件だ。


 だが。


(今は、使わない)


 魂縛は、

 相手の魂を縛る力だ。


 それが、救いの場で使われるべきじゃない。


「……契約内容、覚えてるか」


 ヘリオが言う。


「生死は問わない、だったな」


「俺が条件を変えた」


 ヘリオは、僕を見る。


 何も言わない。


 だが感情は、評価に近い。


「この後は?」


「保護だ」


「金にならないぞ」


「構わない」


 即答だった。


 ヘリオは、少しだけ笑った。


「……強欲帝国で、それを言えるのは珍しい」


 外に出ると、朝日が昇っていた。


 光が、目に痛い。


 子どもたちは、眩しそうに目を細める。


「……外だ」


 誰かが呟く。


 その言葉が、胸に刺さった。


 外。


 それだけで、こんなにも重い。


 ふと、腰の袋に触れる。


 中には、魂縛石がある。


 今回、手に入れたものだ。


(これが……成果)


 価値。

 国家資源。

 金。


 だが。


 視線を上げる。


 子どもたちは、互いに支え合いながら歩いている。


(……どっちが、重いんだろうな)


 魂縛石か。

 それとも、この命か。


「零」


 アレクシエルが、横に並ぶ。


「後悔してるか?」


「……してない」


 即答だった。


「ただ」


 一拍置く。


「魂術って力が、少し怖くなった」


「?」


「便利すぎる」


 感情が見えれば、

 魂を縛れる。


 それは、救いにもなるし――

 奪うこともできる。


「だからこそ」


 アレクシエルは言う。


「使うやつが、選ばなきゃいけないんだろ」


 その言葉に、救われた気がした。


 強欲帝国での最初の仕事は、終わった。


 だが――


 この選択が、

 後にどんな波紋を呼ぶのか。


 その時の僕たちは、

 まだ知らなかった。

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