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【序章】魂術の実戦

 違法実験施設は、街外れの地下にあった。


 表向きは廃倉庫。

 だが内部に足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。


 薬品の匂い。

 湿った土の感触。

 そして――抑え込まれた恐怖。


(……いる)


 感情が、壁越しに滲んで見える。


「見張りは三人だな」


 アレクシエルが小声で言う。


「武装は軽め。だが油断はできない」


「うん」


 だが、問題は数ではない。


(感情が……散ってる)


 恐怖はある。

 だが薄い。


 恐怖に慣れた人間のそれだ。


 魂術師にとって、最悪の条件。


「零、いけそうか?」


「……分からない」


 正直な答えだった。


 魂縛は、感情の揺れが最大化した瞬間にしか通らない。

 この程度の恐怖では、石にならない。


 音を立てずに近づく。


 通路の角。


 見張りの一人が、欠伸を噛み殺している。


(焦り……苛立ち……倦怠)


 揺れてはいる。

 だが、足りない。


(賭けるしかない)


 意識を集中させる。


 感情の“底”を探る。


 その瞬間――


「誰だ!」


 気づかれた。


 見張りの感情が、一気に跳ね上がる。


 恐怖。

 怒り。

 生存本能。


(今だ!)


 呪文を重ねる。


 視界が、白く滲む。


 魂が引き剥がされる感覚。


 だが――


「……っ!」


 失敗。


 対象の感情が、瞬間的に散った。


 恐怖が怒りに飲み込まれ、均される。


(まずい……!)


 頭が、割れるように痛む。


 膝が、勝手に折れた。


「零!」


 アレクシエルの叫び。


 剣が閃き、見張りが倒れる。


 だが、その音で――


 施設全体が、ざわついた。


「侵入者だ!」


 叫び声。

 足音。


 感情が、一斉に跳ね上がる。


(……これだ)


 立ち上がろうとして、視界が暗転する。


 身体が、言うことを聞かない。


「無茶するな!」


 アレクシエルが前に出る。


 剣で道を切り開きながら、叫ぶ。


「後ろは任せろ!」


 その言葉に、感情が強く揺れた。


 信頼。

 覚悟。


(……まだ、終われない)


 残る力をかき集める。


 恐怖に支配された研究員が、通路の奥で震えている。


(感情が、最大だ)


 今度こそ、逃さない。


 呪文を紡ぐ。


 世界が、静止した。


 次の瞬間、研究員は石になっていた。


 魂縛石。


 だが同時に――


 意識が、完全に途切れた。


 倒れ込む感覚。


 最後に見えたのは、

 アレクシエルの焦った表情だった。




目を覚ました時、天井が見えた。


 仮設の休憩室。


「……目、覚めたか」


 ヘリオの声。


「一日に何発使う気だ」


 呆れと、僅かな苛立ち。


「三回目だぞ」


 胸が、重くなる。


「……ごめん」


「謝るな」


 ヘリオは言う。


「これは、訓練不足だ」


「魂術は、決まれば最強だ。

 だが、使いこなせなければ自殺行為になる」


 アレクシエルが、横で腕を組む。


「つまり?」


「修業が必要だ」


 ヘリオの視線が、僕に刺さる。


「本格的にな」


 頭が、まだ重い。


 だが――


 はっきり分かった。


 魂術師は、

 才能だけで成り立つ職業じゃない。


 命を削って、

 初めて使える力だ。


 この失敗は、

 その第一歩だった。

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