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【序章】価値を示せ

強欲帝国の城門は、異様なほど整然としていた。


 高くそびえる城壁は、他国のそれと比べても遜色ない。

 だが装飾は最小限で、威圧や権威を誇示する意図が感じられない。


 代わりに、門そのものが巨大な「選別装置」になっていた。


 人の流れは止めない。

 しかし、通過する者すべてが観察されている。


 門番たちは重装ではない。

 それでも無駄のない立ち姿と、鋭い視線が、この国の性質を雄弁に物語っていた。


「止まれ」


 短く、命令口調。


「入国目的を述べろ」


 前に出たヘリオが、即座に応じる。


「依頼の受注と取引だ」


「所属は?」


「今は、どこにも属していない」


 門番は眉一つ動かさず、次の質問を投げる。


「保証人は?」


「いない」


 その瞬間、周囲の視線が一斉に集まった。


 無所属、無保証。

 この国では、それだけで価値は低い。


「では、価値を示せ」


 門番は淡々と言った。


「この国では、それがすべてだ」


 想定していた流れだ。

 僕は一歩前に出る。


「魂術師だ」


 ざわめきが、ほんの一瞬走る。


 珍しい職業。

 だが、それだけでは通用しない。


「成果は?」


 僕は腰の袋に手を伸ばし、魂縛石を一つ取り出した。


 淡い光を内包した結晶。

 近づくだけで、微かな魔力の脈動を感じる。


 門番の目が、はっきりと見開かれた。


「……魂縛石か」


 確認するように、別の門番が一歩寄る。


「本物だな」


 触れずとも分かる。

 国家級資源の気配。


「どこで得た」


「討伐依頼の結果だ」


「単独で?」


「パーティで」


 門番は、アレクシエルを見る。


 剣士としての佇まい。

 騎士の訓練を受けた体捌き。


「……納得だ」


 門番は石を返した。


「入国を許可する」


 思ったより、あっさりしている。


 だが、続く言葉がこの国の本質だった。


「ただし、価値は常に更新される。

 一度示しただけで、安泰だと思うな」


「分かっている」


 ヘリオが頷く。


「それが、強欲帝国だ」


 門をくぐった瞬間、空気が一変した。


 人の密度。

 音の量。

 そして――感情の奔流。


 商人の欲。

 冒険者の野心。

 契約を巡る焦りと期待。


 感情が、視界に色となって溢れ込んでくる。


(……すごい)


 魂術師として、これほど露骨な感情の坩堝は初めてだ。


 だが同時に、危険でもある。

 感情が溢れすぎて、逆に見誤る可能性がある。


「気を抜くな」


 アレクシエルが低く言う。


「この国じゃ、弱さを見せた瞬間に値下がりだ」


「……ああ」


 理解できる。


 ここでは、守られる弱者は存在しない。

 あるのは、利用価値のある存在だけだ。


「まずは拠点を確保する」


 ヘリオが言う。


「情報と依頼が集まる場所だ」


「冒険者ギルドか」


「それも一つだが……」


 ヘリオは、街の奥を見やる。


「この国で本当に力を持つのは、個人契約だ」


 胸が、わずかに高鳴る。


 ここから先は、安全な冒険者の物語ではない。


 価値を示し、

 取引し、

 時には切り捨てられる。


 それでも――


(進むしかない)


 クラウソラス。

 暴食帝国。

 アレクシエル家。


 すべてに立ち向かうためには、

 この国で力を蓄える必要がある。


 強欲帝国。

 マモンの支配する国。


 僕たちは、

 欲望が支配する世界の中心へ、確かに足を踏み入れた。

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