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【序章】価値で測られる国へ

地下通路を抜けた瞬間、空気が変わった。


 湿り気を帯びた冷気から、乾いた風へ。

 夜明け前の荒野は静かで、どこまでも開けている。


 背後を振り返ると、街の灯りはすでに遠く、滲むように揺れていた。

 戻るという選択肢は、物理的にも心理的にも消え去っている。


「ここから先が、強欲帝国の領域だ」


 ヘリオが歩みを止め、前方を指差した。


 地平線の先に、巨大な城壁が見える。

 装飾は派手だが、威圧感よりも実用性が際立っていた。


「マモンの国は単純だ」


 ヘリオは淡々と言う。


「すべてが価値で決まる。

 生まれも、身分も、善悪すら関係ない」


 アレクシエルが小さく息を吐いた。


「……金がすべて、ってことか」


「金は分かりやすい指標なだけだ」


 ヘリオは首を振る。


「力、才能、成果、情報。

 そして――使い道」


 その言葉に、自然と胸元の袋へ意識が向く。

 魂縛石。


 魔導具の核。

 封印具。

 国家レベルの資源。


(この国では、確実に通用する)


 だが同時に、

 狙われるということでもある。


 歩きながら、自分の身体の状態を確かめる。

 魂縛の反動は、まだ残っていた。


 視界が僅かに揺れ、足元の感覚が曖昧になる。


「無理をするな」


 アレクシエルが、こちらを見る。


 感情は――心配。

 純粋で、強い。


「一日に何度も使う力じゃないんだろ」


「……ああ」


 魂縛は、決まれば強い。

 だが、その条件は厳しい。


 感情の揺れを見極め、

 最大化した瞬間に呪文を重ねる。


 失敗すれば意味はなく、

 成功しても、身体は削られる。


「魂術師ってのは、面倒な職だな」


 アレクシエルが苦笑する。


「感情が見えなきゃ、ただの役立たずだ」


「その通りだよ」


 だからこそ、

 この力はほとんど知られていない。


 ――知られてはいけない。


「強欲帝国に入ったら、まずは価値を示せ」


 ヘリオが言う。


「身分証も、庇護もない。

 冒険者も商人も、同じ扱いだ」


「試される、ってわけか」


「生き残れるかどうか、な」


 城壁が近づくにつれ、人影が増えていく。

 だが奇妙なことに、視線は敵意よりも計算的だった。


(値踏みされてる……)


 剣。

 装備。

 人数。


 そして――僕。


 その中で、アレクシエルの存在感は強い。

 騎士としての基礎が、立ち姿だけで伝わる。


 対して、僕は。


(魂術師だと、分かったら……)


 どうなるかは、分からない。

 だから、慎重に進む必要がある。


「零」


 アレクシエルが、低く呼ぶ。


「レイサムのこと……」


 言葉が、途中で止まる。


 感情は、不安と信頼が絡み合っている。


「必ず来る」


 そう言うと、

 アレクシエルは、ゆっくりと頷いた。


 やがて、城門が見えた。


 強欲帝国。

 マモンの支配する国。


 ここは、逃げ場ではない。

 試練の場所だ。


 だが同時に――


 魂術師という歪な職業が、

 初めて正当に評価される可能性のある場所でもある。


(生き残る)


 そのためなら、

 価値を示し続けるしかない。


 僕たちは、城門の前に立った。


 帝王たちの世界へ、

 確かに足を踏み入れた瞬間だった。

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