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【序章】勝利の代償と、次の場所

意識が戻った時、最初に感じたのは――重さだった。


 身体が鉛のように重い。

 指一本動かすのにも、強い意志が必要だった。


「……目、覚めたか」


 低い声。

 アレクシエルだ。


 視線を動かすと、ダンジョンの壁際で焚き火が焚かれていた。

 戦闘は、終わっている。


「……どれくらい、寝てた?」


「一刻近くだな」


 その言葉に、内心で息を呑む。


(やっぱり……)


 魂縛を強引に通した反動。

 想定より、深い。


「無茶しすぎだ」


 責める声ではない。

 だが感情は、強く揺れている。


 恐怖。

 失うことへの。


「結果は?」


「勝った」


 アレクシエルは、そう言って視線を逸らした。


「……助かった」


 短い言葉だが、重い。


 少し離れた場所で、ヘリオが石を見下ろしていた。

 魂縛石。

 今回の“獲物”。


「賞金首の正体、分かったぞ」


 ヘリオがこちらに向き直る。


「元は傭兵団の副長だった。

 だが、ある戦争で仲間を全て失った」


 淡々と語る声。


「その後、生き延びるために感情を捨てた。

 恐怖も、怒りも、罪悪感もだ」


 僕は、石を見る。


(だから……魂術が通じにくかった)


「人は感情があるから、人だ」


 ヘリオが続ける。


「それを削り落とせば、

 強くはなるが……戻れなくなる」


 その言葉は、

 どこか自分自身に向けられているようにも聞こえた。


「報酬は?」


「十分すぎるほどだ」


 ヘリオは、賞金証書を見せる。


「だが、それ以上に重要なのは――」


 一拍置く。


「この仕事、裏で糸を引いていたのが誰か、だ」


 空気が、張り詰める。


「……誰だ?」


 アレクシエルが問う。


「暴食帝国の三賢者の一人。

 魂術師――クラウソラス」


 その名前を聞いた瞬間、

 胸の奥がざわついた。


(来た……)


「魂や精神に関わる研究をしている男だ。

 魂縛石に興味を持たないはずがない」


 ヘリオの視線が、僕に向く。


「君は、完全に射程圏内だ」


 女神アリフィカの声が、頭の奥で低く響いた。


『……見つかったわね』


 その声音には、焦りと――どこか楽しげな色。


「この街に留まるのは危険だ」


 ヘリオは、はっきりと言った。


「逃げ道がある」


「……どこだ?」


「強欲帝国」


 その名に、アレクシエルが目を見開く。


「マモンの国……?」


「ああ」


 ヘリオは頷く。


「あそこなら、クラウソラスも迂闊には手を出せない」


 言葉は合理的だ。

 だが同時に、用意されすぎている。


(……導かれてる)


 だが、他に選択肢はない。


「準備をしろ」


 ヘリオが続ける。


「次に動く時は、

 “逃げ”じゃなく、“戦うための移動”だ」


 アレクシエルが、拳を握る。


 感情は、恐怖よりも――決意。


「……零」


「うん」


 もう、後戻りはできない。


 クラウソラスという存在が、

 はっきりと敵として輪郭を持った今。


 この旅は、

 ただの冒険では終わらない。


 それを、全員が理解していた。

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