【序章】懸賞金のついた獲物
翌朝、街はいつも通りに動いていた。
だが、僕の感覚は昨日とは明確に違う。
人の流れ、視線、気配。その一つ一つに、意図が混じっている。
(完全に、目をつけられたな)
ギルドへ向かう道すがら、アレクシエルも無言だった。
感情は静かだが、張り詰めている。
「昨夜の男……ヘリオだったか」
「うん」
「あの強さ、普通じゃない」
「同感」
感情を読めない人間は、初めてではない。
だが、あれほど“整っている”感情は稀だ。
ギルドに入ると、既にヘリオがいた。
掲示板の前で腕を組み、依頼書を眺めている。
「おはよう」
こちらに気づくと、いつもの穏やかな笑み。
「昨夜は災難だったな。怪我はないか?」
「おかげさまで」
その言葉に嘘はない。
少なくとも、昨日の襲撃者たちから守ったのは事実だ。
「ちょうどいい依頼がある」
彼は、一枚の紙を掲示板から剥がした。
「ダンジョン内に潜伏している賞金首だ。
討伐、もしくは生死問わず捕縛」
金額を見て、アレクシエルが眉を上げる。
「……高いな」
「理由がある」
ヘリオは声を落とす。
「対象は、元傭兵。
最近、魂や精神に関わる品を集めているらしい」
その瞬間、胸の奥がわずかに反応した。
(魂……)
「依頼主は匿名だが、恐らく国家筋だ」
感情は、揺れない。
淡々とした事実の提示。
「君たちにとっても、悪くない練習になる」
「練習?」
アレクシエルが問い返す。
「そうだ」
ヘリオは、こちらを見る。
「君は前に立つ騎士。
そして君は……」
一瞬、視線が深くなる。
「“決め手”を持つ後衛だ」
核心を突かれた気がした。
だが、そこに敵意はない。
「この依頼を受ければ、
しばらく街の外に出ることになる」
つまり、追跡を振り切れる。
(逃げ道を、提示している?)
女神アリフィカの声が、小さく響く。
『……親切すぎる』
「どうする?」
ヘリオは、選択を委ねてくる。
アレクシエルと視線を交わす。
感情は、一致していた。
「受けよう」
そう答えると、ヘリオは満足そうに頷いた。
「決まりだな」
ギルドを出た後、彼は何気ない調子で言った。
「そういえば、俺は古い魔道具店をやってる」
「魔道具店?」
「ああ。趣味みたいなものだ」
その言葉の裏に、わずかな誇り。
「付与系が得意でな。
武器や防具の“可能性”を見るのが好きだ」
アレクシエルの剣を、ちらりと見る。
「……その剣、まだ伸びる」
その一言で、感情が大きく揺れた。
期待。
渇望。
(この人……危ない)
だが同時に、思ってしまった。
――今は、頼るべき存在だと。
ダンジョンの入口が、見えてくる。
この依頼が、
ただの賞金稼ぎでは終わらないことを、
僕たちはまだ知らない。




