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【序章】善意の仮面

 夜の街は、昼とは別の顔を持つ。


 酒場から漏れる笑い声。

 路地裏に沈む影。

 そして――意図的に消された気配。


(……来てる)


 魂縛石を換金してから、視線は増えた。

 だが今夜のそれは、質が違う。


 明確な“意志”を伴っている。


「零」


 アレクシエルが、小さく名を呼ぶ。


 彼も気づいている。

 感情が、鋭く張り詰めている。


「宿まで、あと少しだ」


「分かってる」


 あえて、歩調は変えない。

 相手を刺激しないためだ。


 その時。


「おっと、すまない」


 正面から、男が歩み寄ってきた。


 年は三十代後半。

 がっしりした体格だが、威圧感はない。

 穏やかな笑みを浮かべている。


「こんな時間に二人連れとは、物騒だな」


 声も、落ち着いている。


(……感情が、見えない)


 いや、正確には――揺れていない。


 それ自体が、異常だった。


「冒険者ですか?」


 アレクシエルが警戒を滲ませつつ尋ねる。


「ああ。

 ヘリオだ」


 名を名乗る仕草が自然すぎた。


「街の安全を見回っててな。

 最近、物騒だろ?」


 その言葉と同時に、背後の路地が動いた。


 気配が、増える。


(囲まれた)


 だが、まだ殺気はない。


 ヘリオの感情を見る。

 穏やか。

 だが、その奥――底知れない欲が、微かに脈打っている。


「忠告だ」


 ヘリオは、声を落とした。


「最近、この街には“価値のある物”を狙う連中が入り込んでる」


「……具体的には?」


「国家が欲しがるようなものだ」


 その視線が、一瞬だけ――こちらの懐を掠めた。


(魂縛石)


 確信に近い直感。


「だからな」


 彼は、にこやかに続ける。


「君たちみたいな若い冒険者は、

 信頼できる後ろ盾を持った方がいい」


 その瞬間。


 路地から、三人の影が飛び出した。


「ッ!」


 アレクシエルが剣を抜く。


 だが、速い。


 ――いや、早すぎる。


 次の瞬間、三人は地面に転がっていた。


 ヘリオが、拳を下ろしたまま立っている。


「まったく……」


 溜め息。


「言わんこっちゃない」


 男たちは気絶している。

 手際が良すぎた。


「……助けてくれた、のか?」


 アレクシエルが問う。


「当然だ」


 ヘリオは笑う。


「冒険者同士、助け合いだろ?」


 感情は、変わらない。


 だが――


(この人、強い)


 そして、嘘が上手い。


「君たち」


 ヘリオは、僕を見る。


「特に君だ。

 変わった気配をしている」


 感情が、一瞬だけ跳ねた。


 確信。


 だが、それはすぐに隠された。


「よければ、しばらく一緒に動かないか?」


 善意の仮面。

 申し出としては、完璧だ。


 女神アリフィカが、静かに囁いた。


『……危険よ、その男』


 珍しく、即断の警告。


 だが、その声には――

 別の、期待の色が混じっていた。


 この出会いが、

 師弟となるのか、

 それとも――


 まだ、その答えは見えなかった。

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