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月に愛を

作者: ツチノコ猫
掲載日:2025/10/29

アーサーはイギリス人留学生。日本の文学的表現をもっと知りたくて留学してきた。華とは留学先の大学で知り合い、関わるうちに好きになる。郷に入っては郷に従えという言葉の通り、イギリスにはない告白文化を日本語でやろうと模索中。華はアーサーに対して恋愛感情はなく、日本が好きなら大歓迎スタンス。アーサーとクラスが一緒なので異文化交流ついでによく一緒にいる。

「は、華…」

「んー?どうかした?」

「あ、いや…その…つ、月が…綺麗…だな…」


月も出ていないような昼間から何を言っているのだろうか。不思議に思い顔を上げるもアーサーは別の方向を見ていて顔は見えなかった。月が出ていないことを指摘するとアーサーの顔はこちらを見たが、その顔は驚きを覗かせるもすぐに暗くなる。


あっ、やってしまった。直感的にそう感じた。アーサーの言う「月が綺麗だな」とは昔、夏目漱石がI love youを「月が綺麗ですね」と訳したものになぞらえたものだったのだ。しかし、気づくのが遅く彼を傷つけてしまった。謝ろうにも言葉が見つからず、その日は気まずい空気のまま終わった。


翌日、大学の講義を休む訳にも行かずアーサーと同じクラスに入る。アーサーは既に来ていたようで、こちらに気づくと笑顔で手を振ってくれる。そんなアーサーに対して、昨日の表情が妙に離れず、いつものように隣に座るのを辞めた。──それからもこっちが勝手に気まずいと思って避けるようになってしまい、完全に謝るタイミングを見失ってしまったのだ。


溜息をつきながらクラスへと向かう途中、ムスッとした表情のアーサーに呼び止められる。

「なぁ、俺の事そんなに嫌いか?なんの脈絡もなくあんなこと言った俺も悪いかもしれねぇけど、そこまで避けることないだろ」

「あ、いや…、ちがっ…」

「違わねぇだろ。今も俺と目を合わせようともしねぇ」

図星を突かれたように目線が下がる。

「…あぁっ!別に俺は怒ってるわけじゃねぇからなっ!ただ、お前に避けられんのが…なんか嫌で…」

しりすぼみが小さくなるアーサーに、なんだか可愛いと思えた。怒ってはいないとは言うが声に怒りが混ざっているのには違いがなく、それだけ彼を傷つけていたことを知った。

「っ〜!とにかく、次の週末絶対空けとけよっ!」

押し付けるように渡されたのはテーマパークのチケットだった。


当日、遅れないように集合場所へ向かうと、既にアーサーは待っていた。大学で見るアーサーもかっこいいとは思っていたが、肌寒くなってきたこの季節にコート姿の彼は良く似合うと思った。

「アーサー、ごめん。お待たせ」

「いや、俺も今来たところだ。あ〜…その、来ないかと思ってたから来てくれて嬉しいよ…」

口元を手で隠しながら照れくさそうに言う彼に胸がキュンとした気がするが、気のせいだろうか。

「ううん、こっちが一方的に避けてたのに…アーサー、ほんとにごめん」

気にするなと言う彼は優しいと思う。今だけはこの優しさに甘えることにしよう。テーマパークへ入るとアーサーが手を取り、どこへ行きたい?と自然にエスコートをする。アーサーのおかげで人混みに迷うことも待機列で退屈することもなかった。時間が過ぎるのはあっという間で、頭上にあった太陽がいつの間にか西の方へと消えかけていた。

「はぁ〜、沢山遊んだなぁ。楽しめたのもお前のおかげだ、ありがとな」

「こっちこそありがとう。アーサーが楽しませようと頑張ってくれたからだよ」

紳士的にエスコートする彼がかっこいい分、褒められると照れるところがやはり可愛い。

「なぁ、もう少しだけ俺に時間をくれないか?」

照れ笑いをする顔は西日のせいか赤くなっているように見えた。


最後に2人で観覧車に乗りたいというアーサーの希望で観覧車に乗り込んだ。待機列に並んでいる間に太陽は沈みきってしまったが、夜の静寂に街の灯りやテーマパークのライトアップが映る。

「わ、綺麗」

呟いた声に反応はなかった。間もなく頂上というところで、黙っていたアーサーが口を開く。

「俺が日本に来て、お前に出会えて本当に良かったと思う。そうじゃなかったらこの言葉もずっと共感出来ずにいたかもしれねぇ。だからこそ、言い直させて欲しい。月が綺麗だな、華」

あの日の指摘を後悔しなかったことなんてなかった。アーサーにとってあれは拒絶の意味で捉えられてもおかしくなかった。なのに、アーサーは私を選んでくれた。私を振り向かせようと頑張っていたのを知らないわけじゃない。私の答えは決まっている。

「私の心にも月が浮かんでいるよ」

アーサーは驚いたような顔をすると今度は、はにかむように笑う。文学的表現を勉強しているだけあり、意味は伝わったようだった。


後から知ったのだが、イギリス人は将来を見据えた人にしか「I love you」を言わないらしい。ということは期待してもいい…ということだろうか。

初投稿になります。至らぬ所や気になる所もあると思いますが、楽しんでいただけたのなら幸いです。

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