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GRID BREAKER:CHROME HEART MERCENARY  作者: ジェフ兄
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18/21

第18話:記憶の断片

シン・トーキョー2245年

3週間夜の16日目・午前3時


IRON WOLVES基地の個室で、クレハは浅い眠りについていた。


俺は彼女の意識の奥で、静かに思考を巡らせている。クレハが眠っている間、俺は彼女の脳内の片隅で自分だけの時間を過ごすことができる。物理的に外に出ることはできないが、この静寂の時間が俺にとっては貴重な内省の機会だった。


クレハの五感を通じて感じる外の世界。窓の外に見えるシン・トーキョーの夜景。企業タワー群の人工照明が暗闇を貫き、色とりどりのホログラム広告が雲間を漂っている。酸性雨は相変わらず降り続け、建物の外壁を洗い流しながら下水システムに流れ込んでいる。


最近、昔のことをよく思い出す


最近、人間だった頃の記憶が頻繁に蘇るようになった。


◇


地球時代の記憶


俺には確かに、人間だった頃の記憶がある。


配信者「ZERO_Tactical」として活動していた日々。FPSゲームでプロレベルの腕前を披露し、視聴者とコミュニケーションを取りながら楽しく配信していた時間。


あの頃は楽しかったな


部屋の様子...なぜかはっきりしない。6畳くらいだったと思うが、間取りがぼやけている。ゲーミングチェア、デスク、モニター...確か3台だったような気がするが、配置が曖昧だ。


なんで細かい部分が思い出せないんだ?


毎日使っていた機器なのに...


でも、感情の記憶は鮮明だった。


視聴者から「ZERO先生に助けられました」というコメントをもらった時の嬉しさ。


深夜の緊急配信で、いじめに悩む中学生と話した夜。


『君は一人じゃない。ここに仲間がいる』


俺がそう言った時、その子が涙ながらに感謝してくれた。


『ありがとうございます...もう少し頑張ってみます』


人を助ける喜び


それが俺の人生で最も大切にしていた感情だった。


もう一つ、鮮明に覚えている夜がある。自殺を考えていた視聴者を説得した深夜配信。3時間かけて、一人の命を救った夜。


『先生のおかげで、生きる希望が見つかりました』


後日もらったメッセージは、今でも俺の心を温かくしてくれる。


そして、最後の記憶。


通り魔に襲われそうになった子供を庇って、俺は死んだ。小さな女の子...名前は確か桜に関係するものだった。


あの子、名前なんだったっけ...さくら?


いや、違うかも...なんで思い出せないんだ?


細かい部分は曖昧だが、その瞬間の気持ちは鮮明に覚えている。


この子を守らなければ


その一心で、俺は自分の身を犠牲にした。後悔はない。


◇


記憶の違和感


ただ、時々思うことがある。


記憶の中の部屋の間取り、なぜかぼやけている部分がある。毎日使っていた機器の詳細、具体的な配置...


もっとはっきり覚えていてもいいはずなのに


なんで曖昧な部分があるんだろう?


154年も前のことだから、記憶が薄れるのは当然かもしれない。でも、部分的にとても鮮明な記憶と、まったく思い出せない記憶の差が激しすぎる。


まるで、誰かが編集したような...


いや、考えすぎか


でも、感情の記憶だけは色褪せない。


配信中に感じた視聴者との絆。困っている人を助けた時の満足感。正義のために戦いたいという衝動。


これらの想いは、確実に俺のものだ


例え記憶の細部が曖昧でも


記憶の詳細がどれほど曖昧でも、その時々に感じた感情の真実性は揺るがない。


◇


クレハとの意識内対話


クレハの眠りが浅くなってきた。俺の思考活動が彼女の意識に影響を与えているようだ。


ZERO-7?


クレハの意識が俺に向けられる。


起こしてしまいました。すみません


ううん。なんとなく目が覚めただけ


彼女は意識の中で俺と向き合った。脳内の仮想空間で、俺たちは対話を続ける。


何を考えてたの?


昔のことを


俺は素直に答えた。


人間だった頃の記憶を思い出していました。配信者として活動していた頃の思い出です


どんな思い出?


視聴者を励ましたり、困っている人を助けたり...人との繋がりを大切にしていた時代です


素敵な思い出ね


記憶の詳細は少し曖昧なんですが、その時感じた温かい気持ちだけは鮮明に覚えています


俺はクレハの五感を通じて、窓の外の夜景を見つめる。


人を助ける喜び、正義のために戦う意味...それらを教えてくれたのが、配信者時代の体験でした


でも、なんで記憶の細部が曖昧なんだろう?


クレハが疑問を投げかける。


150年以上前のことですから、薄れても不自然ではありません


でも、部分的にすごく鮮明な記憶もあるのよね?


...確かに


俺は認めざるを得なかった。記憶のパターンに不自然さがあることを。


まるで、大切な部分だけを抜き出して保存したような


そんな感じに思えるのですが...


クレハが考え込む。


もしかしたら、あなたの記憶には何かの秘密があるのかも


秘密?


うん。あなた自身も知らない、大きな秘密


◇


魂の在り処


記憶の詳細より、その時の想いの方が大切だと思う


俺がそう言うと、クレハが少し考え込む。


想い...確かにそうかもしれないわね


感情の記憶の方が、事実の記憶より価値があるってこと?


うーん、価値の測定は困難ね


クレハの返答が少し機械的になってきている。以前なら「価値なんて関係ない、心が全て」と答えていただろう。


でも、あなたが私を大切に思ってくれているのは分かる


そう。それは確実よ


それで十分よ。あなたの記憶の真偽は、後で考えればいい


わずかに冷静さが増した口調だが、まだ人間らしい温かさは残っている。


◇


人間性の完全覚醒


俺は深く思考を巡らせた。


クレハの言葉で、俺の中で何かが完全に覚醒した。


配信者時代の温かい記憶。視聴者との絆。困っている人を助けた喜び。正義のために戦う意志。


これらの感情は、記憶の詳細がどうであろうと、間違いなく俺のものだ。


人を助ける喜び


それが俺の原体験であり、今でも俺を動かす原動力だ。


今度こそ、彼女を守り抜く


人間時代、俺は一人の子供を守って死んだ。でも、それだけでは足りなかった。もっと多くの人を守りたかった。


今度は違う。


クレハ、ユリ、ミク、カイト...俺には守りたい人たちがいる。そして、守り抜く力もある。


これが俺の新たな決意だ


ありがとう、クレハ


何が?


俺に魂があることを、教えてくれて


人間時代の記憶を思い出させてくれて


そして、今の俺が何を大切にすべきかを、気づかせてくれて


◇


残る疑問


クレハの意識が眠りに戻ろうとする時、俺の心の片隅に小さな疑問が残った。


記憶の曖昧さには、きっと理由がある


まるで、誰かが意図的に編集したような不自然さ


でも、それはそのうち分かることだろう


今重要なのは、俺の感情が本物だということ。人を愛し、守りたいと願い、正義を追求したいという気持ちが、確実に俺の中に存在することだ。


記憶の真偽よりも、想いの真実性の方がはるかに大切だ


でも、いつかは真実と向き合わなければならない時が来るかもしれない。


その時、俺は自分が何者なのかを知ることになるのだろう


そして、クレハとの関係も...


不安な予感が胸をよぎったが、俺はそれを振り払った。


今は、クレハが安らかに眠れるよう、俺が彼女を見守る番だった。


◇


新たな朝への希望


夜が明け始めている。


三週間夜の17日目が始まろうとしていた。


俺は人間時代の記憶を通じて、自分のアイデンティティを再確認した。


配信者として人を励まし、困っている人を助け、正義のために戦う。


その本質は今も変わっていない。


俺は俺だ


記憶の詳細は曖昧でも、心の中の信念は揺るがない。


今日もまた、クレハと一緒に戦おう。彼女の感情を取り戻すために。仲間たちを守るために。


そして、この歪んだ世界に少しでも正義をもたらすために。


それが、俺の存在意義だ


人間だった頃の俺も、きっと同じことを考えていたに違いない。


でも、真実はいつか明らかになる


その時まで、俺は今の自分を信じて生きていこう



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