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騒音は消え去った。あらゆる音――葉のざわめき、仲間の息切れ、金属のぶつかる音――が、鏡に映る水のように消え去った。


アーカーの体は力を失い、あらゆる感覚がゆっくりと消え去り、深く底知れぬ闇だけが残った。彼は落ちていく。いや…浮遊している。重力も、方向も、恐怖も。ただ、出口のない夢のような静かな安らぎだけ。


突然、銀色の光が閃き、深い夜に銀河のように渦巻いた。それぞれの光線が収束し…そして一つの姿を形作った。見覚えのある人影。アーカーは目を大きく見開いた。心臓は…再び激しく鼓動した。まるで、心が反応するよりも先に、光の主を認識したかのようだった。


女は霞んだ空間の真ん中に立っていた。プラチナの長い髪は霧のように、まるでこの世の塵にも触れていないかのように漂っていた。彼女の瞳は、遠くも近くも、静寂の水晶の海を思わせるようだった。


彼女の視線はアーケルに留まった。その視線の優しさと理解力に、アーケルは身震いした。


「リリア……?」彼は、本当のことを言っているのか、それとも夢を見ているのかわからないまま、優しく呼びかけた。


女王リリアはかすかに微笑んだ。その微笑みは、霧の森に差し込む朝日のように輝いていた。彼女は足跡を残さず、まるで光の一部になったかのように近づいた。そして身を寄せ、アーケルの耳元で囁いた。その声は音には響かなかったが、運命のこだまのように彼の心に響いた。


「あなたの内に秘めた力は…ほんの始まりに過ぎません。」


「この世界に深く足を踏み入れるにつれて…私の魂の一部があなたを目覚めさせるでしょう。」


「進め、アーカー。光を奪わせるな。」


アーカーは尋ねたかった。彼女の手を握りたかった。しかし、光は薄れ始めた。リリアのシルエットは銀色の霧の中に溶け込み、心臓がまだ燃えるように激しく鼓動する左胸に、かすかな温もりだけが残った。


-------


鳥の鳴き声がかすかに流れてきた。アーケルは目を覚ました。息を荒くし、パニックに陥って辺りを見回していた。彼はまだ木の下に横たわっていた。ライラが隣に座り、手を握っていた。騎手はケイルに何か話していたが、アーケルから目を離さなかった。


アーカーは飛び上がり、額から汗を流しながら、無意識のうちに叫んだ。「リリア!」


その音に三人はびっくりした。ライラは慌てて水を持ってきて、心配そうな目で言った。「アーカー!?どうしたの? ルリア……誰?」


アーカーの目は一瞬戸惑い、心はまだあの夢の奇妙な響きを響かせていた。しかし、三人の顔に浮かぶ疑念を見て、彼は言葉を止めた。「……誰もいない。きっと…夢なのだろう。」


ライラはまだ疑念を抱いていたが、アーケルは言葉にできない何かに葛藤しているかのように、視線をそらし、沈黙していた。騎士はライラの後ろに立ち、剣の柄に手を置き、アーケルを見つめていたが、何も言わなかった。ライラの心の中の疑念はますます強くなっていった。


ケールはライラにささやいた。「彼は誰かのことを夢で言って、その名前を叫んだが、そこにはいないと言ったのか?どうやら…単純ではないようだな。」


アーカーはそこに座り、無意識に両手を握りしめていた。彼女のささやきが今も彼の心の中で響いていた。「進み続けなさい、アーカー…光を奪われるなよ」


アーカーは膝に手を置き、じっと森の中を見つめていた。誰も口を開かなかった。聞こえるのは、風が葉を揺らす音と、焚き火のパチパチという音だけだった。


ライラは優しくアーカーに水の入ったバッグを手渡した。その瞳には優しげながらも、どこか疑念がにじんでいた。「本当に大丈夫なの?あの…ライリア…」


アーカーはそれを受け取った。温かい革に触れた指はわずかに震えた。彼はライラを見上げた――ためらいがちに、そして静かに首を横に振った。「ただの奇妙な夢だった…本当に。」


ライラは彼をさらに数秒間見つめ、その目は「信じられない」と言っているようだったが、結局それ以上質問しなかった。


ケールはさらに離れた場所に立っていた。腕を組み、木の幹に寄りかかっていた。「夢なのに…あんなに大声で叫ぶなんて?まるで別世界から引きずり出されたみたいだ」声はからかうように聞こえたが、目は予想以上に冷たかった。


アーカーは三人の見知らぬ人々に囲まれ、裸にされたように感じた。孤独、警戒、そして恐怖が彼を取り囲んでいた。リリアについては何も言えないと彼は分かっていた。影の次元で、女神――少なくとも女神によく似た存在――の前に立っていたとは言えない。自分の心臓が世界よりも強大な力と共鳴していたとも言えない。言えない…なぜなら、理解できないからだ。


アーカーは頭を下げ、考えにふけった…出会ったばかりの彼らを信頼すべきか、それとも距離を置き続けるべきか? 騎士は夜のように静かにそこに立っていた。彼はそれ以上何も尋ねなかったが、その視線は…ナイフのように鋭かった。アーカーは分かった。彼は彼を信頼していないのだ。


夜は更けた。ケイルとライラは休息のためにキャンプ地に戻っていた。アーケルだけが残っていた。火のそばに座り、背中を少し前にかがめ、炎を見つめ、まるで何かを読み取ろうとしているかのようだった。彼は眠れなかった。恐怖のためではなく、あの…ライリアという名前が心のどこかでまだ響いていたからだ。


背後でかすかな音が聞こえた。アーカーは驚いて振り返った。騎士はそこに立っていた。まるで習慣のように、剣の柄に手を置いたまま。彼は何も言わず、ゆっくりと後ずさりし、火の向こう側に腰を下ろした。一瞬の沈黙が訪れ、鋭い瞳に反射する炎の光だけがそこにあった。


それから、騎士は非常に静かに言った。「リリア。」


アーカーは拳を握りしめ、不安げな目を輝かせた。「あれは誰だ?……聞いたことあるか?」


騎士は頷いた。「聞いただけじゃない。名前を…読んだんだ」声が低くなった。


「神都古代図書館の地下室に封印された古文書では、彼女はすべての生命の最初の母、原初の光の源、この世界に最初の魔力の流れを創造した存在と呼ばれています。」


アーカーは混乱した。「つまり…彼女は実在するのか?」


騎士は首を横に振った。「誰も確認したことはない。伝説的な名前だ。だが記録には、乾いた血が紙に染み込み、慌てて消し去られた一文がある。『生命力と一体化した状態で定命の者が彼女の名前を叫ぶと、門は再び開く』」


その言葉を聞いて、アーカーは背筋が凍りついた。


騎士はアーケルをまっすぐに見つめ、初めて鋭い声を上げた。「昨日、あの使徒に殺されかけた時……白い霧が立ち込め……魔力が回復していくのを感じました。今でもはっきりと覚えています、その時……あなたは倒れました。あなたの手は……光っていました」


アーカーは黙っていた。心臓はまるで剥き出しにされたかのように、胸の中で激しく鼓動していた。しかし、彼の目には戸惑いと、自分自身への疑念が入り混じっていた。


騎士は軽く頭を下げ、半分脅し、半分探りを入れた。「あなたは、ルリアの親戚……ですよね?」


アーカーはためらった。呼吸が速くなり、無意識にシャツの裾を両手で強く握りしめた。彼の心の中では、夢への信念と、もし声を上げれば異端者、不吉な予兆と見なされるのではないかという恐怖の間で、激しい嵐が巻き起こった。あるいは、もっとひどいことに、神の力を求める者たちの餌食になるかもしれないという恐怖だった。


ついにアーカーは呟いた。「わからない…わからない。自分が何者なのか、どうして彼女を見たのか、本当にわからない。」


騎士は沈黙を守った。苛立ちからなのか、それとも警戒を強めたからなのかは定かではなかった。しかし、彼は頷き、ゆっくりと立ち上がり、アーカーを眠れぬ夜へと導くであろう言葉を放った。「死せる神の光を宿しているならば…使徒に追われるだけではないだろう」


-----


深いジャングルを抜け、凍った小川や危険な崖を越える3日間の旅の後、アーケルの一行はついにエルナールの町の灰色の石壁を目にした。それは荒野を守る静かな要塞のように早朝の霧の中にそびえ立っていた。


アーケルはケイルとライラに比べて歩調を緩め、後ろをついてきた。使徒との戦いの痛みは治まっていたが、一つだけ残っていた。あの夜の騎士の言葉、そして彼の目に浮かぶ表情――冷たく、警戒心が混じり、まるで背後に何が待ち受けているのかを察しているかのようだった。街の門をくぐり抜けると、ケイルは振り返り、衛兵に手を振った。「3日間の調査を終えて戻ってきました。協会に提出する報告書があります。」


兵士はそれ以上何も聞かずに頷いた。重厚な鋼鉄の門が彼らの背後でバタンと閉まった。エルナールの町は相変わらず平和そうだった。小さな木の屋台が並び、朝のパンの香りがそよ風に漂い、広場の中央にある古い噴水のそばでは子供たちが走り回って遊んでいた。


ライラは微笑んだ。「ほんの数日後には…森の中にあんなものが潜んでいるなんて、誰も思わなかったでしょうね。」


ケールは頷いて同意したが、何か言いたげな目でアーケルをちらりと見た。アーケルは答えず、ただ人々、家々、蔓に覆われた壁を見つめていた…奇妙な感覚が彼の中に忍び寄った。まるで自分がもうここに属していないかのようだった。いや、もっとひどいことに…どこにも属していなかったかのようだった。


騎士は森を出てから一言も発していなかった。彼は一行を率いて、町の東端にある王立騎士団の本部へと直行した。そこは、兵士たちが厳重に警備する、古びた黒い石造りの建物だった。


中に入る前に、騎士は立ち止まり、煙のように低い声でアーカーの方を向いた。「報告が終わるまで待ってください。それから…話しましょう。」


森の中で見られたような鋭い視線はもはやなかったが、警戒を緩めることはなかった。アーカーは小さく頷いた。監視されているのか…それとも守られているのか、分からなかった。


ライラはアーカーの手を掴み、優しく引っ張った。「さあ、朝食を食べに行きましょう。まるで風に溶けてしまいそうな気分よ。」


アーカーは無理やり笑顔を作った。流されるがままに身を任せ、それでも心臓は…遠くのこだまに静かに高鳴っていた。リリア…リリア…


ライラとアーカーが青い石畳の道をゆっくりと歩いていると、遠くで教会の鐘が鳴り響いた。真昼の陽光が木漏れ日のように差し込み、茶色のレンガ造りの家々に淡い黄色の筋を落としていた。エルナールは古風な趣があり、大都市のような喧騒はなく、あらゆる動きがゆっくりと穏やかに感じられた。


「お腹いっぱい?」ライラは首を傾げながら尋ねた。束ねた髪が風に優しく揺れていた。


アーカーは頷いた。広場近くの小さなレストランで食べたばかりの温かいスープとトーストの香りがまだ目に焼き付いていた。「生まれて初めて…本当に何か食べたい気がする」


「ああ、それを言うのはあなたが初めてじゃないわ」とライラは笑いました。「この辺では有名なのよ。」


二人は市場の奥へと続く小さな路地へと入った。行商人の声、荷馬車の音、果物やハーブの香りが、活気に満ちた雰囲気を醸し出していた。アーケルは辺りを見回した。すべてが奇妙でありながら、どこかでかすかな夢の中に現れたかのように、どこか懐かしく感じられた。


ライラは発光水晶を売る店の前で立ち止まった。宙に浮かび、柔らかな光を放つ小さな石だ。アーカーは涙型の水晶を見つめた。一瞬、心臓がドキドキするのを感じた。まるで昨日、遺跡の光に触れた時のように。


「ナイトライトクリスタルっていうの」ライラは優しく言った。「光や感情を蓄えるのに使われるの」


アーカーはライラを見上げた。しかし彼女はそれ以上何も言わず、何かを思い出したかのようにただ黙って水晶を見つめていた。しばらく歩き回った後、二人は中央広場に戻った。そこではケイルが待っていた。彼の目はいつものように鋭いが、少しだけリラックスしていた。


「もうご飯食べに行ったの?ギルドへの報告が終わったばかりなのに」ケイルはそこに立っていた。


「森で何が起こったのですか?」アーカーは尋ねた。


「多少はね」ケイルは唇を歪めた。「君のことは言うまでもないね」


しばしの沈黙が訪れた。騎士が背後から歩み寄り、アーケルをじっと見つめた。以前ほど冷たくはないが、それでも警戒心は消えていなかった。「今はここにいろ。ライラが休む場所を探すのを手伝う。私は監視を続ける…」


言うまでもなく、皆が理解した。ライラは頷き、アーケルの手を城の西側にある宿へと導いた。そこは白壁と木造屋根の家々が立ち並ぶ、森の端に建つ、繁華街から離れた静かで陰のある宿だった。たいていは、低予算の旅行者や、人目につかないように気を遣う人向けの宿だった。


中年の女将はアーカーを睨みつけ、軽く頷いた。「質問も告げ口もなし。そのままでいて、迷惑をかけないでね」


アーカーは9という数字が刻まれた木の鍵を渡された。部屋は狭く簡素だったが、暖かみがあった。ライラがドアを開けてアーカーを迎えると、かすかに新しい木と干し草の香りが漂ってきた。


「少し寝なさい」ライラは優しく言った。「まだ完全には回復していないわよ。今夜、ケイルと私が迎えに来るわ」


アーカーは彼女が去っていくのを見送った。小さな部屋の中では、彼の心臓の鼓動だけが聞こえ、ルリアの姿がかすかな光の筋のように脳裏をよぎった。「ルリア……彼女は一体何者なのだろうか?」


シルクのスカーフのように、夜はエルナールに優しく降り注いだ。涼しい風が野草の香りと苔むした石の湿り気を運んできた。小さな部屋の中で、アーケルは少なくとも三度寝返りを打った。ライリア、光、騎士の不可解な笑み、そしてライラの不安げな視線といった漠然としたイメージが彼の脳裏をよぎった。ようやく彼は起き上がり、薄い外套を羽織り、扉を開けて外に出た。


銀色の月光が雲間から差し込み、足元の白い小石を照らしていた。夜の街は静まり返り、狭い路地に点在する数少ない黄色い灯りを除けば、静まり返っていた。アーケルは丘へと続く小道へとゆっくりと歩いた。そこからはエルナールの街全体が見渡せた。風のざわめきとコオロギの鳴き声が、深い茂みにこだました。アーケルは大きく息を吐いた。この世に生まれて初めて…孤独を感じた。


「眠れないの?」


背後から聞こえてきた声に、アーカーは驚いて振り返った。数歩先に少女が立っていた。長い黒髪は闇に溶け込み、薄い外套を羽織り、フードで顔の半分を覆っていた。月光の下、彼女の瞳は銀色の光を放ち、湖面のように静かだった。「あなたは誰ですか?」アーカーはためらいがちに尋ねた。


「ただ夜に散歩するのが好きな人よ」少女は軽く微笑んだ。「あなたみたいに。」


アーカーは返事をしなかった。少女のどこかがいつもと違うと感じた。低い声だったが、歌うようなリズムだった。数フィート離れているにもかかわらず、足音も息遣いも聞こえなかった。まるで暗闇の中から現れたかのようだった。


「古代遺跡に光を灯したのは、あなたですよね?」


アーカーは拳を握りしめた。質問があまりにも唐突だった。「…何を言っているのか、さっぱり分からない。」


「答えなくていいのよ」見知らぬ少女は首を傾げ、アーカーから目を離さなかった。「真実は言葉で語る必要はない。瞳の中に、そして心臓の鼓動の中に宿るのよ」


「あなたは本当は誰ですか?」少女が影の中に姿を現し続ける中、アーカーは拳を握りしめた。


彼女は返事をせず、ただ静かに一歩近づいた。アーカーはわずかに震えた。恐怖からではなく、見透かされているような…感覚からだった。「気をつけて、アーカー」声は低くなった。「多くの人があなたを探しに来るわ。あなたが何者かではなく…あなたの中で目覚めつつある何かのせいよ」


「目覚めって…何?」


「神の心を人間が保つのは容易ではない」――彼女の微笑みは隠されていた――「あなたは自らの歩む道を選ばなければならない。そしてもうすぐ、誰もあなたの代わりにその道を歩むことはできなくなるだろう」


そう言うと、少女は踵を返し、去っていった。外套が煙のようにはためいた。アーケルは後を追おうとしたが、瞬く間に彼女は夜の闇へと消え去った。風の音だけが響き、アーケルの心臓の鼓動が胸の中で響き渡った。それはまるで、リリアが彼の無意識に残したかすかな囁きのように、奇妙に力強かった。


-----


街外れに佇む廃墟の塔の冷たい石壁を、夜風が吹き抜けていた。塔の頂上には、まるで彫像のように微動だにしない人影が佇んでいた。ぼろぼろの黒い外套が風になびいていた。少女…誰も彼女の名前を知らなかった。冷たい風に黒髪はわずかに乱れ、淡い月光が彼女の冷たい顔と、幾千もの生を背負った罪を隠しているかのような陰鬱な瞳に反射していた。


彼女の外套の背中には、逆三角形――土血騎士団の魔法のシンボル――が斜めに刻まれていた。半ば否定、半ば警告の意を込めて。足元には、眠る街の灰色の屋根が広がっていた。しかし、彼女の視線はそこではなく、アーケルが泊まっている宿屋に向けられていた。


「本当に、その光を内に秘めているのか、ルリアの使徒よ……?」 記憶の底からこぼれ落ちるような声で、彼女は呟いた。


彼女は手を握りしめた。掌の中で、かつて古代の魔法契約の一部だった焦げた皮膚の破片が、赤い光を放ちながら崩れ落ちた。「騎士団はあなたを許さないだろう…だが、その心臓も彼らには渡せない」


彼女は背を向けた。足音が古びた石の床に静かに響いた。しかし、彼女が立ち去った後も、彼女の周囲には依然としてある種の魔法が漂っていた。それは暗くも神聖なもので、まるで天使と悪魔がこの少女の心の中に共存しているかのようだった。


------


小さな窓から柔らかな日差しが差し込み、簡素な木のテーブルと、椅子に掛けられたアーケルのコートを照らしていた。静まり返った部屋の中で、アーケルは昨夜の夢でまだ朦朧とした頭で目を覚ましたばかりだった。ルリアの姿が、まだ消えない光の筋のように、彼の脳裏に焼き付いていた。


アーカーは立ち上がり、ドアを開けようとした。するとすぐに、ライラが外に立っていて、優しく微笑んでいた。「おはよう」と彼女は優しい声で言った。「よく眠れた?」


アーカーは一晩中ほとんど眠れなかったにもかかわらず、うなずいた。


ライラが割って入り、突然目が暗くなった。「報告に来ました。伝道評議会から、私とケイルは数ヶ月間街を離れるよう命じられました。周辺の危険度にもよりますが、2ヶ月か3ヶ月かもしれません。」


アーカーは言葉を詰まらせた。突然、心が空っぽになったように感じた。まるで、気づかぬうちにすがりついていた目に見えない支えを失ったかのようだった。「それで…彼はどうなったんだ?」アーカーは尋ねた。騎士の名前は口にしなかったが、ライラには理解できた。


彼女は軽くうなずいた。「彼も一緒に来ます。チームを率いるよう任命されたんです。」


ライラはためらいがちに彼を見た。「昨夜話し合ったでしょう。街はもうそれほど危険な状態ではありませんが……森での出来事、あの使徒の件を考えると、あなたを放っておいて安心はできません」


アーカーは顔を上げた。心配で心が急に温かくなったが、同時に漠然とした不安も感じていた。「それで…君たちはどうするつもりなんだ?」


「もっと安全な場所へ送ってあげられるかもしれない。それとも…」ライラはためらった。「…私たちと一緒に来てもいいわ。でも、長くて危険な旅になるし、何が起こるか誰にもわからないのよ。」


アーカーは彼の手を握りしめた。心臓はまだ夢とリリアの姿で激しく鼓動していた。理由は説明できなかったが、じっとしていられないと分かっていた。「僕は…イキたい」アーカーは優しく言った。


ライラは驚いたように見えたが、すぐに微笑んだ。心配と同意の両方の感情が込められた小さな微笑みだった。


広大な森の端にひっそりと佇む町に、ゆっくりと午後が訪れていた。灰色の瓦屋根の間をそよ風が吹き抜け、ユーカリの葉をざわめかせていた。アーケルは小さな広場を散策した後、パン屋から宿に戻ってきたところだった。これからの旅の荷物はほぼ準備が整い、午後の最後の陽光が静かな黄金色の輝きを放つ、人気のない路地へと足を踏み入れた。突然、白い影が視界の端をかすめた。


アーカーは宿屋の階段に腰掛け、両手を背中に組んだ。深い青から翡翠色へと移り変わる空を見上げていた。混乱の渦が彼の心を満たした――リリアの感触、森の光、そして昨夜、見知らぬ少女が残した謎めいた囁き。


彼女は誰ですか?


その疑問がアーカーの頭から離れなかった。そして…


「また会ったね。」


宿屋の隣の小さな路地から、柔らかくも落ち着いた声が響いた。白いマントを羽織った少女が現れた。フードをかぶったまま顔は隠れていたが、小さな顎と薄い唇だけが顔を覗かせていた。


アーカーは警戒しながら起き上がった。「あなたは…誰ですか?」


少女は前に進まなかった。ただ日陰に佇んでいた。風が外套の裾を優しく揺らし、地球血盟のシンボルに刻まれた切り傷を露わにした。血はとっくに乾いていた。その傷跡はまるで裏切りの証のようだった。


「かつて私は…血と闇に命を捧げた者の一人だった。だが、我らが仕えていたのは至高の存在ではなく…血に飢えた深淵だと悟り、背を向けたのだ。」


アーカーは黙っていた。心臓が激しく鼓動していた。


少女はかすかに微笑んだ。「彼女の名前は…リリア。あなたは夢の中でその名前を呼んだ。私は教団が秘匿している禁書の中で彼女のことを読んだ。そこには、その名を口にするだけで闇を震わせる存在が存在するとは誰も語られていない…」


アーカーは一歩後ずさりした。「それで…私に何を望むんだ?」


「何でもないわ」と彼女は優しく言った。影の向こうで目がきらめいていた。「ただ警告したかっただけよ。アースブラッドは止まらないわ。光の印を持つ者の気配を察知したの。あなたは…闇の中の光よ。そして光は悪魔を引き寄せるのよ」


風がさらに強くなった。アーケルはもっと尋ねようとしたが、瞬きした瞬間、彼女は消えていた。まるで最初からそこにいなかったかのように。地面には、小さな涙型の木製のお守りが一つだけあった。奇妙な刻印が刻まれており、アーケルが触れるとかすかに光った。


アーカーは宿屋に入った。外套のポケットに隠した木製の護符を握りしめたままだった。奇妙な遭遇で、呼吸はまだ完全には安定していなかった。しかし、背後で木の扉が閉まると、彼が最初に目にしたのは――騎士の目だった。


騎士は壁際に堂々と立ち、軽やかな鎧がくすぶる暖炉の炎を反射していた。ライラは椅子の端に座り、顎に両手を当て、どこか不安げな目をしていた。ケイルは腕を胸の前で組んで、時折階段を見上げていた。彼らがしばらく待っていたのは明らかだった。


ライラはすぐに立ち上がった。「アーカー!こんな朝早くからどこへ行ったの?心配だったから…教えてあげたのよ」


アーカーはためらった。少女に会ったという事実を隠すべきかどうか、わからなかったのだ。


騎士は近づき、いつもよりは温かいが冷たい声で言った。「あなたは跡形もなく姿を消す癖があるのですか?」


アーカーはその視線を受け止めた。怒りではなく、疑念に満ちていた。そして…少し身構えていた。


ケールは目を細めた。「追われているんだから、一人でうろつくのは良くないかもしれないよ」


ライラが口を挟んで、場の空気を和らげようとした。「無事でよかったわ。数週間後に城を出て地元の用事に出るって伝えたんだけど…あなたを一人にしておくわけにはいかなかったの」


騎士はゆっくりと頷き、アーカーから目を離さなかった。「では、基礎から訓練しましょう。少なくとも生き延びるためには。」


アーカーは驚いた。「僕…一緒に行ってもいいですか?」


ケールはくすくす笑った。「君を置いて使徒に引きずり出されるよりはましだ」


ライラは優しく微笑んだ。「これからは、あなたはもう一人ではありません。」


アーカーは目の前にいる三人を見渡した。この奇妙な世界に生きる異邦人。しかし、彼らの瞳の中に、彼は何か真実を見た。まるで、ゆっくりと引き締まる細い糸のように。彼は袖に差した木製のお守りを締め直した。彼を取り囲む未知のもの、謎はあまりにも多すぎる…だが、少なくとも彼はもうこの旅路を孤独に歩んではいない。


---------


朝日が淡い灰色の雲間から差し込み、町の屋根に冷たく淡い黄色の光を落としていた。アーカー、ライラ、ケイル、そして騎士は、馬の轍が刻まれた石畳の道を歩き始めた。誰も口を開かなかった。これは決して気楽な散歩ではなく、いつ危険が待ち受けているかわからない旅であることを、皆が分かっていた。


アーケルは外套を引っ張った。背中のリュックは軽く、それでいてきつく背負っていた。目的地が何なのかも分からず出発する感覚に、彼はまだ慣れていなかった。ただ、大都市の評議会から調査を依頼された痕跡や手がかりを探しに、使徒に侵された廃村や地を通り抜けることになるだろうということだけは分かっていた。馬の蹄の音、足元の草の軋む音、そして風が枝を揺らす音。


しかし、誰も気づいていなかった。町の門を出た瞬間から、細身の人影が静かに後ろをついてきているのだ。高いところから、木の枝から、あるいは低い茂みに隠れながら、その人物は絶妙な距離を保っていた。警戒している騎士の目に留まらない程度、怪しい物音を立てない程度に。


黒い外套が跳躍のたびにかすかに揺れた。片側がわずかに破れたフードの下から、長い黒髪が覗き、暗い森とは対照的だった。


アーカーの一行が小休止をとるたびに、人影は立ち止まった。一度、ライラが疑わしげに振り返ると、人影はまるで最初から存在しなかったかのように消えていた。しかし、騎士の直感はそう簡単には騙されなかった。小川にかかる小さな木の橋を渡った瞬間、彼は立ち止まり、剣の柄に手を置いた。


「誰かが監視している」と彼は呟いた。低い声だったが、砥石に刃を向けたように鋭い。


ケイルは眉をひそめた。「ずっと?」


「間違いなく町から来た」と騎士は言った。その人物を直接見ないようにしながら、静かに観察し、捕まえる機会を待っていた。


アーカーは背筋に寒気が走るのを感じた。ライラは安心させるように彼の肩に手を置いたが、その目には警戒の色が濃く残っていた。しかし、数分間の警戒の後、森は再び静まり返った。何の気配もなかった。騎士は数歩後ずさりしたが、剣を完全に抜こうとはしなかった。目の前の平和をもはや信じていないという証だった。


そして、数百歩ほど離れた古木の陰から…少女はくすくす笑った。外套の下、逆三角形の仮面が腰にまだぶら下がっており、明らかに傷ついていた。「やっと街を抜け出せた…」声はそよ風のように軽やかだったが、その目はどんな刃物よりも鋭かった。


バン!


一同は凍りついた。人影が…高い木から静かに目の前に降り立った。葉の間から差し込む陽光が、濃い灰色のマントを羽織り、袖は擦り切れて破れ、フードで顔の大部分を隠した少女の周囲に光輪を描いていた。彼女は武器を抜かず、ただそこに立っていた。両手は空のまま、目は穏やかだった。


騎士は剣を半分鞘に納めたまま前に進み出て、アーカーの行く手を阻んだ。ライラとケイルも防御の姿勢を取り、鋭い視線を向けながらも身動き一つしなかった。アーカーは本能的に後ずさりしたが、その視線は少女の首にかけられた紋章に釘付けになっていた。錆びた金属片に逆三角形が刻まれていたが、まるで持ち主がわざと切り落としたかのような、はっきりとした斜めの切り込みが入っていた。


ケールは目を見開いた。「あの跡は…!」


少女はかすかに頭を上げた。その目は冷たく灰色で、敵意に満ちているのではなく、ただ深く疲れた様子で観察しているだけだった。


「戦いに来たんじゃない」彼女の声は低く、茂みのせいか、それとも長い間口をきかなかったせいか、ほとんど嗄れていた。「ただあの人と話をしたかっただけ」彼女の視線はアーカーに向けられた。明らかに。


「お前は誰だ?」騎士はまだ剣を抜かず、初冬の霜のように冷たい声で言った。「地球血盟の会員か?」


少女は首を横に振った。まるで自分が危険ではないことを証明するかのように、あらゆる動きがゆっくりとしていた。「かつては私も彼らの一人だった。でも今は違う。私が悪魔との誓いを破ることを選んで以来…彼らは私を殺そうとしてた。」


ケールはそのシンボルをじっと見つめていた。彼はためらいがちに言った。「シンボルの斜線は…『背教者』の印です。禁書で読んだことがあります。」


少女はかすかに微笑んだ。「ええ。そしてあの瞬間から、私はただの幽霊になってしまったんです。」


ライラは疑わしげに目を細めた。「それで…どうして私たちの後をつけていたの?」


「確かめたかったの…」彼女はアーカーを見た。「…夢の中で囁いていたのはあなただったの。彼らが敵視する神の光を宿す者よ。」


アーカーは身震いした。「……それ?」


少女はゆっくりと頷いた。「もう一人の使徒が…ルリアの夢を見るようになった。だが、その夢は彼を内側から燃やしたのだ」静寂が訪れた。森の風は静まったようだった。昨夜のキャンプファイヤーの記憶は、アーカーの脳裏にまだ揺らめいていた。


アーカーは一歩前に出て、初めて二人の間の壁を破った。「リリアについて…何を知っているんだ?」


少女はすぐには答えなかった。ただ長い間彼を見つめていた。そしてようやくこう言った。「あなたが思っているよりも多いわ。でも…必要な量よりは少ないわ。」


少女は森の薄明かりの中、アーカーたちの厳しい視線を浴びながらそこに立っていた。彼女は、ほんの少しでも動けば切れてしまうような糸のように、緊張していた。


騎士は一歩前に出た。その目は幾百もの戦いで研ぎ澄まされた刃のように鋭かった。「あなたはかつて使徒だった。あなたの言葉を、なぜ私が信じなければならないのですか?」


彼の声は毅然としており、同情の余地はなかった。手にした剣は鞘から半分だけ出ており、今にも抜きたくなる状態だった。少女は身をかわさなかった。恐怖のかけらもなく、騎士の視線をまっすぐに捉えた。


「信じなくてもいいのよ」と彼女は答えた。その言葉は葉に降り注ぐ朝露のように、まるで朝露のようにこぼれ落ちた。「それに、私はあなたに信じてほしいと頼みに来たのではありません。あの子が…」と彼女はアーカーに視線を向けた。「本当に彼らが恐れる最後の一筋の光なのかどうか、確かめに来たのです」


「彼ら?」騎士は眉をひそめた。


「大地の血の騎士団よ」と彼女は嗄れた声で答えた。「彼らは予兆を見て…彼らが否定しようとしていた女神から光をもたらす者がいると。そして騎士団を根こそぎ焼き尽くす者を。」


ライラは不安げにアーケルを一瞥した。ケールは黙ったまま、剣の柄に手を置いたまま、まだ抜こうとしていなかった。


騎士は声を落とし、一歩踏み出した。少女からほんの数フィートしか離れていない。「では、教えてくれ…なぜ彼らを裏切ったのか?なぜ生き残ったのか?」


少女は初めて頭を下げ、疲れた声で告白した。「なぜなら…リリアの光を見たからです。予兆ではなく…夢の中で。それは私が今まで学び、信じてきた全てと違っていました。リリアは嘘ではありませんでした。そして…あの温もりを感じた後では、悪魔に身を捧げ続けることはできなかったのです。」


風が再び吹き、まるで言葉の一つ一つを確かめるかのように。騎士は依然として剣を下ろそうとしなかった。少女の胸に刻まれた紋章から視線を離さなかった。


「もしかしたら、本当のことを言っているのかもしれない。もしかしたら、彼の警戒を破るために送り込まれたスパイなのかもしれない。」


彼はアーケルをちらりと見て、また少女に戻った。「でも、本当に裏切ったのなら、なぜここに来て、どこか他の場所に逃げなかったんだ?」


少女は深呼吸をした。初めて、視線を落とした。「逃げても無駄よ。アースブラッド・ソサエティはどこにでも目と耳を持っている。彼らを怖がらせることができる唯一の人物を見つけなければ…私はもうすぐ孤独に、意味もなく死んでしまわ」


空気が再び重苦しくなった。騎士は静かに剣を鞘に収めたが、その目は依然として厳しいままだった。「お前も我々と共に来い」と彼は言った。「お前を信頼しているからではなく、お前を統制する必要があるからだ。」


少女はうなずいた。「反対しません」


ライラはアーカーをちらりと見て、優しく尋ねた。「彼女から何か感じるものは…?」


アーカーはただ首を振ったが、心は激しく揺れ動いていた。危険は感じなかったが、奇妙な予感がした。この少女は、自分がまだ聞けないようなことをたくさん知っているのではないか、と。


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