11
太陽の届かない暗い山奥にある古代の洞窟の中で、湿った空気の中、不気味な青い光が揺らめいている。壁には奇妙な記号が点在している。血で書かれたルーン文字、爪で刻まれた文字、そして狂気。
太陽の届かない暗い山奥にある古代の洞窟の中で、湿った空気の中、不気味な青い光が揺らめいている。壁には奇妙な記号が点在している。血で書かれたルーン文字、爪で刻まれた文字、そして狂気。
炎のかすかな光は彼の顔に反射しなかった。地球血盟特有の逆三角形の仮面に覆われていたからだ。仮面の下から紅い目が一つだけ覗き、まるで宇宙を見通すかのように目の前の虚空を見つめていた。
彼は手を伸ばし、目の前に広げられた大まかな地図を撫でた。赤い光の点が薄れ、そのうちの一つが消えたばかりだった。皮肉を込めてくすくす笑った。「32番は…死んだ。残念だ、ヴェイラは良い子だった…だが、それだけの価値はあった。あの子は…もっとずっと価値があった。」
彼は背筋を震わせながら後ろに傾いた。一瞬、アーカーの姿が彼の傍らの小さな水晶の湖面に浮かび上がった。彼は森の中を歩いていた。疲れた様子だったが、目は澄んでいた。「それでも、イニシエーションを生き延びた…そして、私の存在を感じられる。悪くない。全く悪くない…」
彼は胸に手を当てた。そこには、先の戦いで傷ついた魂の一部がまだ残っていた。「まだ報いていない一撃…だが、その時は来る…」
彼は少しの間沈黙し、それから手を伸ばしてポケットから獣皮に包まれた、大神官の紋章が刻まれた小さな護符を取り出した。それをしっかりと握りしめ、目を閉じ、魔力を注ぎ込んだ。掌から赤い霧が広がり、まるで蒸発する血のように空へと消えていった。「大神官様、アーケルはまだ生きています。私のオーラを感じ取っています。どうやら…あのルリアから意識が完全に離れていないようです。徐々に戻りつつあります…」
深くくぐもった声が頭の中に響いた――大祭司の。「彼を見守るんだ。触るな。あの子はまだ…死なせてはいけない。彼の心臓が必要なんだ…その時が来たら。」
「ああ」使徒30号は地面に頭を下げ、額を冷たい石に三度打ち付けた。額からは血が滲んでいたが、拭い去ろうともしなかった。彼にとって肉体的な苦痛は、長きにわたる狂気の中でのささやかな喜びに過ぎなかった。
それから彼は頭を上げ、まるで闇に囁くかのように軽く横に傾いた。「アーカー…お前の心が反逆する前に、どこまでやれるか試してみろ。」
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使徒30号になる前、彼は人間だった。ごく普通の人間だった。当時の彼の名前は…レーン。ヒトラ大陸北西部、山々が一年中雪に覆われ、谷底に光が届かない場所で生まれた若き魔術師。両親は平民だった。貧乏ではないが、裕福でもない。レーンは寒い冬の日々と、真夜中の暗闇の中で育ち、本と自分の息づかいだけが彼の友だった。
彼は夢想家で、知識に執着するあまり外の世界のことを忘れてしまう男だった。成長するにつれ、タブーに魅了されるようになった。地元の図書館で見つけた古い本に「開けてはならない」と記されたもの。レーンにはその理由が分からなかった。なぜタブーを恐れるのか、なぜ禁じられているのか。
ある夜、彼は古代の図書館の床下に隠された、ひび割れた黒革の書物を見つけた。最初のページには、薄れた血で書かれた一文があった。「この行を読む者は…知らず知らずのうちに魂を売っている。」
彼は恐れるどころか、微笑んだ。
レーンはその本に書かれたあらゆる記号を覚えていた。すべてのページ、すべての記号…それは召喚し、心を操り、別の現実への扉を開くための呪文だった。
ある日、彼は自身の血を数滴と髪の毛を一房使って、小さな召喚陣を描こうとした。すると…それは答えた。部屋の中央に形のない影が現れ、子供と老人の声を同時に囁き、彼以外には誰も理解できない言葉で彼の名前を呼んだ。「レーン…お前はもうレーンではない。お前の名はアエズレン。これからは、お前の思考はすべて我々のものとなる。」
彼は拒否せず、受け入れました。その見返りに、この世の誰も人間の知恵だけでは学ぶことのできないものを得ました。
彼は他人の恐怖を理解している。
彼は決して言葉にされなかった叫び声を聞いた。
彼はかつて自分と同じように苦しんだ人々の狂気から幻想を作り出す。
日が経つにつれ、レーンの記憶は薄れていった。もはやその名は記憶に残っていなかった。残ったのは、大地の血の騎士団の使徒、アエズレンだけだった。彼の使命は、目の前に立ちはだかる者の意志を打ち砕くことだった。彼は母の記憶、父の記憶、そして書斎の窓から差し込んでいた小さな光の記憶を、引き裂いた。
P
彼は「自我を断ち切る」最後の儀式として、ナイフで自分の頭を刺した。大祭司の完全な道具となるためだ。彼には理由など必要なかった。ただ一つの命令だけ。「アーケルを観察しろ。そして、彼の心が最も清らかになった時、ここへ連れて来い。」
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現実に戻り、アエズレンは目を開けた。額から一滴の血が流れ出ていた――何年も前に自ら刺した場所だ。彼はそれを拭い去ろうとしなかった。「お前は記憶。私は忘却だ。」
乾いた血の匂いがかすかに漂い、森の湿り気と混ざり合っていた。空は暗く、ヴァール=ケシュ山脈の麓に広がる木々の果てしない影だけが、幻を見た者たちの夢の中で囁かれた名、アエズレンの存在を静かに隠していた。
彼は歩いた。速くもなく、遅くもなく、一歩一歩が空間と時間を測っているようだった。
目で見る必要はなかった。歪んだ魂で感じた。世界の魔力の流れの中に、アーカーのオーラがどこかで今も漂っていた。彼以外には誰もそれを感じ取ることはできなかった――光の心のかすかな響き。彼が幻影で捉えようとしたが、失敗したもの。「あなたは門に触れた」
「リリアを見たでしょう。」
「では…あなたは選ばれたのです。」
アエズレンは独り言を言った。その囁きはまるで首に巻き付く蛇のようだった。長く絡まった髪が顔の大部分を覆い尽くしていたが、血のように赤い右目は常に大きく見開かれ、空気の流れや地面の鼓動に瞬きを繰り返していた。
彼は枯れ木の下で立ち止まり、腐った樹皮に触れた。記憶が次々と蘇ってきた。これまで隠そうとしていた光景が。レーンという名の少年が、ろうそくの灯る書斎に座っていたこと。毎晩、夕食を持ってくるためにドアをノックした父親。心配そうな目で彼を見つめ、「また禁書を読んでいるの?」と尋ねる母親。
アエズレンはニヤリと笑った。「彼らのことは何も残っていない。記憶の中にさえ。役立たずだ。」
しかし、何かが彼の心に…突き刺さった。強くはないが、はっきりと。彼は素早く手に小さな傷を負い、そこから赤黒い血が滲み出た。老人「レーン」が戻ろうとするたびに、彼はそうやって感情を押し殺してきた。「私はアエズレン。他の誰でもない。記憶も、感情も必要ない。ただ…完成だけ。」
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木々の向こうに緩やかな坂道があり、霧のかかった地へと続いていた。ジヴァールの村。アーケルを迷路に誘い込むために幻影を送った場所だ。アーケルの痕跡はほとんど消えていた…しかし、魔法の雨が降った後に残る陽光のような光の匂いがまだ残っていた。彼は小川に沿って、一歩一歩と進んだ。
古い足跡があった。焼いた魚の骨もあった。燃えさしはまだくすぶっていた。彼はかがみ込み、冷たい灰を軽く手で拭いながら、囁いた。「君はここに座っていたんだね」
「誰かと一緒に食事をしました。」
「なぜだ、アーカー?忘れたのか?誰も信用しちゃダメだぞ…」
一瞬、アエズレンは遠くを見上げた。「思い出させてやる。言葉ではなく…悪夢で。」
彼が前に踏み出すと、今度は袖から黒い煙が噴き出した。それは長年に吸収してきた、歪んだ魂のかけらだった。煙は漂い、彼の目や耳のように森の中へと広がっていった。「行け…アーカーを見つけろ。私を彼の心へ連れて行け。そして…今度は誰にも邪魔させるな。」
夜が更け、遠くで野生動物の遠吠えがかすかに聞こえた。だが、誰もそのことに気づいていなかった…形のない怪物が動き始めたのだ。すぐに攻撃するためではなく、観察するため。解剖するため。幾重にも重なる意志を剥ぎ取るため。
エイズレンは急がなかった。アーケルの絶望の瞳を見たかった。仲間への、自分自身への、そしてライリアへの信頼を失う姿を見たかった。「その時…光の心は砕けるだろう。そして、私が最初にその裂け目に触れるだろう。」
エイズレンは、眼下の森を見下ろす高い崖の前に立ち止まった。アーケルと銀髪の少女がそこにいたのだ。彼の目は赤く、唇は歪んで、静かに微笑んでいた。一陣の風が吹き抜け、彼だけが嗅ぎ取れる古い血の匂いを運んできた。「アーケル、君を一人にはしない。その心は…私のものだ。」
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彼女は小さな火のそばに、一人で座っていた。かつては落ち着いた茶色の瞳は、今は悲しげだった。風が彼女の乱れた髪を撫で、思い出を運んでいく。「彼はいつもここに座って、何もすることがない子供のように棒切れで遊んでいた…」
「君から発せられる光…不思議だけど、安心するよ…」
ライラは小さくため息をつき、脇の魔法の剣を握り締めた。泣いてはいなかったが、目は涙が溶けてしまったかのように赤くなっていた。
彼の体には、使徒に操られた時の傷がまだいくつか残っていた。「もっと強くあるべきだった…彼に体を操られ、アーケルに…そして皆に…傷つけてしまった…」
ケールは木にもたれかかり、両手を見下ろした。手は震えていた――寒さではなく、恐怖から。「お前は私が防ぐべき剣撃を防いだ……アーケル、もし生きていれば……必ず償う」ケールの赤い目は霞んだ空に向けられた。太陽はなかった。
ミラは弱りきったままテントから出てきた。左肩に巻いたばかりの包帯には、まだうっすらと血の跡が残っていた。彼女は多くを語らず、何も尋ねなかった。しかし、毎晩こっそりアーケルを探しに行き、そして黙って戻ってくるのは彼女だということは、皆が知っていた。
彼女はそこに立ち、沈黙するライラを見つめた。自分を責めるケイルを見つめた。「私はここにいる資格がない……なのに、アーケルが倒れた時、なぜ私は何かを失ったような気がしたのだろう……」
彼女は目を閉じた。「誰も信じてくれなかったのに、あなたが私を信じてくれたから。憎しみの目を向けずに私を見てくれたから」ミラの心は波打った――小さな、長く続く波紋。
キャンプを設営してから、彼は何も口をきかなかった。まるで記憶と闘うかのように、黙って辺りを巡回していた。誰よりも彼なら分かっていたからだ。「アーケルは普通の男じゃない」
「彼こそが鍵だ。そして大地の血の騎士団はそれを知っている」騎士は剣先を研ぎながら座り、鈍い目に鋼が映っていた。「あの子を守れなければ…騎士の称号は空虚な殻に過ぎない」
彼は外見は冷たく見えたが、心の中では静かな後悔を抱いていた。アケルが姿を消す前に、彼の必死の目を読み取れなかったことへの後悔だ。
彼らはまだ一緒に座っていたが、それぞれに沈黙を守っていた。アーケルのことはもう口にしなかった。忘れたからではなく、痛みがあまりにも深くなり、彼らの一部になってしまったからだ。彼らはまだ生き、まだ希望を持ち、まだ探し続けていた。しかし、もはや誰も同じ人間ではなかった。
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その日の午後、薄灰色の雲の間から太陽が輝いていた。まだ静かだったが、まるで森が彼らの一挙手一投足を監視しているかのような、静かな沈黙が漂っていた。アーカーは一歩一歩静かに前を歩いた。彼は変わっていた。
もはやこの異界の異邦人ではなく、逃げることしかできず、あらゆることに戸惑うことしか知らない人間でもない。今やアーカーは記憶を失った者――だが、名状しがたい記憶の断片のように、奇妙な感情を抱えている。そして、その断片の中に「リリア」という名前は、今もなお彼の心に深く突き刺さったナイフのように。
銀髪の少女――沈黙の同伴者――は、今もアーケルのすぐ後ろを、一歩ほど後ろを歩いていた。小川の近くの夜間避難所を出てから、彼女は一言も口をきいていなかった。しかし、二人の間に漂う雰囲気は、決して不快なものではなかった。それは…奇妙なほどに、穏やかだった。
アーカーは振り返らず、尋ねず、微笑みもしなかった。遠くで彼女の足音が聞こえるたびに、彼はいつも足を緩めた。彼女が誰なのかも、なぜいつも彼の後をついてくるのかも覚えていなかったが、心のどこかで彼は感じていた。「彼女は…危険じゃない。彼女は私と一緒にいたんだ。」
「なぜ彼女は私を追いかけ続けるのですか?」
「追い払ってみませんか?」
「なぜ私は彼女に出て行ってほしくないのか?」
アーカーは自分の考えに違和感を覚えていた。いつも一人でいるべきだ、周りに人がいると自分も他人も傷つくだけだ、と感じていた。「みんな…私のせいで傷ついた。私を救ってくれて、私のために戦ってくれて…一体何のために?」
アーカーは自らが作った木の槍を握りしめた。そのことを思うたびに、胸が裂かれるような、息苦しいほどの空虚感に襲われた。
彼女は何も言わなかった。だが、彼女の視線は…まるでアーカーだけが彼女をこの人生に繋ぎ止めているかのように、常にアーカーの背中を追っていた。
アーカーが立ち止まるたびに、彼が振り返ってちらりと見るたびに…彼女の心臓は高鳴った。恐怖からではない。でも…「彼はまだそこにいる。まだ生きている…たとえ彼が忘れたとしても、アーカーはアーカーのままだ。」
彼に思い出してもらう必要はなかった。生きている限り、諦めず、今も彼女の目の前に立っている。それだけで十分だった。
午後が更けていくにつれ、二人は二つの丘陵に挟まれた細い道に立ち止まった。そこでは、短い草が午後の日差しに揺れていた。アーケルは腰を下ろし、軽く息を吸った。疲労からではなく、重苦しさからだった。胸に重くのしかかる石のように、感情が重なっていた。少女が近づき、竹筒に入った水を差し出した。アーケルはそれを受け取った。彼は何も言わなかった。しかし、初めて彼女の目を、一秒以上見つめた。「ありがとう」と彼は優しく言った。乾いた声だった。
少女は小さく頷いた。そして、午後の陽光のようなかすかな笑みが彼女の唇をよぎった。それは「ありがとう」の言葉のためではなく…アーカーが口にした言葉のためだった。
空は鈍い灰色だった。迫り来る嵐のせいではなく、いつまでも消えることのない霧のせいだった。アルハヴィン山脈の南側の森全体が、冷たく湿った空気で覆われていた。アーケルは泥の筋が入った茶色の土道をゆっくりと歩いた。何ヶ月にも及ぶ荒野での訓練で鍛えられた足音はしなかった。銀髪の少女はアーケルの古い外套を握りしめたまま、彼の隣を歩いていた。まるで習慣のようだった。彼女の髪は一歩ごとに揺れ、灰色の瞳は瞬きもせず、光が静かに薄れゆく地平線を見つめていた。誰も口を開かなかった。しかし、二人の間には…もはや距離はなかった。
前方、古柳の並木の向こうに村がそびえ立っていた。家々の灰色の瓦屋根は、まるで何百年も放置されたかのように静まり返っていたが、いくつかの煙突からは明らかに煙が上がっていた。「ヴァルデン」アーカーは静かに繰り返した。森で亡くなった巡礼者から拾ったノートに記されていた名前だ。これまで聞いたことのない名前だった。まるで奇妙な夢の地図にしか存在しないかのようだった。
少女は立ち止まり、彼の方を振り返った。「私たち…入るの?」彼女の声は散りゆく花びらのように軽やかだったが、その目はアーカーの視界の向こうにある何かを探しているようだった。
アーカーは数秒間沈黙した。そして、決意を込めて頷いた。「知る必要がある。少なくとも…なぜこの村があの恐ろしいオーラの中心にいるのかを。」
彼らは村の門をくぐった。それはカビの生えた木製の門で、柱の片側はまるでずっと前に暴動があったかのように壊れていた。
村は円形の道に沿って、木造と石造の家が20軒ほど点在する、孤立した村だった。出迎えてくれる人もいないし、子供たちの笑い声も、料理の匂いもしない。ただ風の音と古い木材の擦れる音だけが聞こえた。「誰か生きているの?」と少女は尋ねた。
アーカーは数秒間目を閉じ、その香りを吸い込んだ。そして静かに言った。「ああ。でも…変だな。人間じゃない。怪物でもない。まるで…」
「ここの霧はまるで呼吸しているみたいね」と彼女は彼に代わって言った。二人は村の中心に着いた。小さな広場の中央に石の井戸があり、その周囲には首を切られた四体の像が並んでいた。かつては神々の姿だったが、今は顔が滑らかに削られ、まるで誰かが故意に正体を消し去ったかのようだった。
「どう感じる?」アーカーは少女に尋ねた。
彼女は答えなかった。代わりに、石の井戸のそばに座り、かすかな古代の文字が刻まれた石板に両手を置いた。「これは普通の言葉じゃないの」と彼女は囁いた。「まるで…禁じられた古代の言葉みたい。でも、あそこにあった本で見たことがあるの」
アーカーは目を細めた。「そこ?どこ?」
少女は黙り、それから首を横に振った。「はっきりとは覚えていないわ。でも、西の廃墟になった修道院だったと思うの…」
午後が更けていくにつれ、彼らは村を歩き回り、泊まる場所を探した。道の突き当たり近くに、屋根はそのままでドアが半開きの家があった。アーカーが先に中へ入り、注意深く調べた。中はまるで時が止まったかのように静かで冷たかった。「今夜はここに泊まる」
少女は頷いた。疑問も疑念もなかった。アーカーは火を灯した。揺らめくピンク色の光の中、彼は木の壁に寄りかかり、特に何も見ずに座っていた。「あまり覚えていない…」彼は囁いた。「でも…何かがかつて大切だったような気がする。私を生かしてくれた何か。名前だ。」
少女は彼を見た。「リリア」彼女はそよ風のように優しく言った。
アーカーは目を細めて彼女を見上げた。「その名前、知ってる?」
彼女はゆっくりと頷いた。「何だか分からないけど…でも、あなたと一緒にいると、いつも…あの光が消えていないような気がするの。」
夜が更けた。しかし、村はまだ暗くはなかった。村の背後の森の方角から、かすかな緑色の光がちらついていた。アーカーは槍の柄に手を置き、立っていた。少女もまた立ち上がり、シャツから小さなナイフをそっと取り出した。「近寄るな」アーカーは優しく言った。
しかし、ささやき声が響き始めた。「アーカー…アーカー…アーカー…起こしたじゃないか…行かないで…」
かすかな声が、四方八方に響き渡った。まるで村全体が彼の耳元で囁いているかのようだった。プラチナの髪の少女が彼の手を握った。彼女の手は冷たかった。「聞こえますか?」と彼女は尋ねた。
アーカーは頷いた。「どうやら…この村は眠らないようだな。」
小屋の隅にある小さな暖炉では、火が静かに燃えていたが、二人とも眠れなかった。アーカーは膝に肘を乗せ、揺らめく炎を見つめていたが、特に何かに集中していたわけではなかった。小さく息を吐き出し、首を傾げて隣の少女を見た。彼女はまだそこに座っていた。きちんとした、静かな、小さな明かりだった。明るくはないが、暗闇に沈み込まない程度の明かりだった。
「こんな場所は見たことがない…」彼女は燃えさしに目を向けたまま、静かに言った。
「私もだ」アーカーは答えた。「この世界は…自分が本当にここに属しているのか、ますます疑念を抱かせる。」
少女は黙っていた。しかし、彼女の指がかすかに動き、無意識のうちに自分のシャツの裾を掴んでいた。それは小さな仕草だったが、アーカーには彼女が自分と同じように混乱していることに気付くには十分だった。
「何かが見張っている」と彼は呟いた。少女は唇をわずかに引き締め、頷いた。「まるで、僕たちが踏み出す一歩一歩が…長い間眠っていた何かに触れているような気がするんだ」
アーカーは立ち上がり、ドアに立てかけてあった即席の木の槍を手に取り、再び家の中を見回した。特に変わったところはない。古い毛布が数枚、埃っぽい家具、壁に歪んで掛けられたぼろぼろの絵があるだけだ。彼は外に出た。光は相変わらず淡かったが、何も変わっていなかった。太陽も影もなく、ただ漠然とした、名状しがたい光が差し込んでいた。
少女は彼の後を追った。「村の奥へ行ってみよう」アーケルは返事をせず、軽く頷いただけだった。二人は砂利道を進み、少女があの日の午後、石の井戸のそばの頭の折れた像から見ていた方向へと向かった。そこには、かすかに古代の碑文が刻まれていた。
蔦に覆われた小さな門をくぐり、二人は村外れの小さな森に入った。木々は密生していなかったが、まるで見えない手が幹の内側から食い荒らしているかのようで、腐りきっていた。
アーカーはかがみ込んで木の下から何かを拾い上げた。それは破れた布切れだったが、僧侶のローブによく似ていた。よく見ると、布の端の内側に螺旋状のシンボルがあった。生贄の儀式で使われる古代のシンボルだ。「ここに僧侶が住んでいたのか?」
少女は首を傾げた。「生きているだけじゃない…もしかしたら殺されているかもしれない」冷たい声だった。遠くに、倒木に囲まれた低い石造りの家があった。扉も屋根もなく、ただ四つのギザギザの黒い石壁と、床の真ん中に半分焼けた祭壇があるだけだった。
アーカーは槍をしっかりと握りしめ、慎重に歩を進めた。少女は何かを察したように立ち止まり、すぐに後を追った。祭壇には、半分焼けて半分濡れた本が伏せられていた。アーカーがそれを裏返すと、焼け焦げた文字が浮かび上がった。見慣れない言語だが、先ほど持っていた布と同じ記号が使われていた。「何らかの儀式…」
少女は目を細めて身を乗り出した。「そこには…『魂を肉体から切り離し…永遠の誓いを守るために…選ばれた者の血が門を再び開く…』と書いてあるわ」
「門?」アーカーは繰り返した。冷たい風が首筋を撫でた。誰もいないし、音もしないのに、アーカーの背筋は本能的に硬直した。彼は少女の手を握った――あまりにも予想外の行動に、二人とも数秒間凍りついた。しかし、彼女は手を離さなかった。
遺跡を離れると、アーカーは遠くから聞こえてきた。歌声のような、とても柔らかく、遠くから聞こえる…けれど、どこかで聞いたことのある音だった。「聞こえるか?」
少女はうなずいた。「子守唄。どこかで聞いたような…」
彼らは歌声を追いかけ、村を歩き回った。家々はまるで静かに彼らの後をついてくるようだった。朽ちかけたポーチの下に、朽ちかけたブランコがぶら下がっていた。アーカーが様子を見ようと前に出ると…背後で乾いた「ギシッ」という音がした。振り返ると、一軒の家のドアが半開きだった。そこには誰もいなかった。
しかし、空気中には腐敗の匂いではなく、記憶の匂いが漂っていた。柔らかく、木の香り…まるで、とても馴染みのある誰かが通り過ぎたかのような。
家は狭く、板壁の二階建てだった。二人は中に入った。一歩一歩が、まるで記憶を踏みしめるかのように重く感じられた。二階には小さな部屋があった。中には、低い木のベッドとぐらぐらする本棚がまだ残っていた。
アーカーはノートを取り出した。そこには、まるで書き手の手が震えているかのように、かすれた文字が書かれていた。「私たちは祈りました。しかし、神は来ませんでした。私たちは犠牲を捧げました。しかし、門は開きませんでした。神は戻ってくると言いました…『光の心』を持って。それが何なのかは分かりませんでしたが、神は笑いました。それは恐ろしいことでした。」
アーカーは驚愕した。「光の…心臓?」少女はゆっくりと繰り返した。二人の目が合った――そしてその瞬間、二人は悟った――この村はかつて何らかの召喚儀式が行われていた場所だったのだ。そして「光の心臓」こそ、地血会がずっと追い求めてきたものなのかもしれない。
小さな部屋は、埋もれていた真実を露わにしたようだった。アーカーは震えるノートを握りしめ、言葉の一つ一つが今も脳裏に焼き付いている。「光の心」……なぜこの言葉は、彼の胸を痛めるのだろうか。プラチナの髪の少女が隣に立ち、半分割れた窓枠にそっと手を置いた。陽光は差し込まず、隙間から見えるのは薄暗い灰色の空間だけだった。まるで空気と共に時間が封じ込められているかのようだった。
「地下に何かいるわ」彼女は静かに言った。視線は庭に倒れた像から決して逸らさなかった。アーカーは彼女の視線を追って振り返った。それは黒い石像で、首はなく、胸と両腕だけをまるで懇願するかのように大きく広げていた。その下の地面が崩れ落ち、小さな穴が開いていた――だが、かろうじて人が通れるくらいの大きさだった。
アーカーは槍の柄を強く握りしめ、頷いた。「降りるよ」
「私も一緒に行きます」と彼女は決意した目で彼を見た。
「だめだ――」彼は彼女を止めたかったが、彼女の決意に満ちた視線を見て、拒絶しても無駄だと悟った。二人は木造の家から出て、暗い窪みへと入った。アーケルが先に進み、少女がそれに続いた。アーケルが森の旅の途中で持ち帰った小さな魔法石の光が彼の胸に置かれ、道を照らすのに十分な柔らかな光を放っていた。
地下道は浅かったが、長かった。石壁は冷たく湿っぽく、乾いてこげ茶色になった血の筋が残っていた。空気は重く、忘れ去られた歳月の悪臭が漂っていた。彼らは一枚の石材から彫り出された、より大きな部屋に入った。中央には、錆びた鎖で繋がれたままの血の祭壇があった。壁には古代の文字が何十行も刻まれていた。まるで苦痛に駆られて彫り込んだかのようで、急いで、そして歪んでいた。
少女は数段落を読んだ。彼女の目は暗くなった。「『裏切り者は敗北をもたらした。犠牲は無駄だった。光の心を持つ者は逃げた。終わりは来る』」アーカーは祭壇に触れた。一瞬、めまいが襲ってきた。彼はよろめき、そして…
周囲のすべてが歪んだ。白いローブをまとい、頭を下げた群衆の真ん中に立っていることに気づいた。石造りの神殿に叫び声が響き渡った。「捧げよ!捧げよ!」 若い女性が縛られ、祭壇に横たわっていた。口は泣き叫び続け、目は誰かを探しているようだった。アーカーは、群衆の端に立つプラチナの髪の少女を見て驚いた。今とは違う。幻影の中の少女は…年老い、神秘的なオーラを放ち、冷たく、驚きや苦痛の痕跡は微塵もなかった。
「俺は誰の過去を見ているんだ?」アーカーは思った。しかし、心の中にある感情は定かではなかった。悲しみなのか、それとも怒りなのか?
その時、背後から暗い声が聞こえた。「見ただろう…これが真実だ。この村が闇に飲み込まれないように、罪なき人々の血が流されたのだ。」アーカーは振り返った。長髪に黒い瞳の男。襟には逆三角形の紋章が刻まれていたが、色褪せていた。「使徒…」
「儀式を始めたのは私だが、神官が誓いを破った時、この呪いと共に私も封印された。お前は……光の心を持つ者だ」と、仮面越しに視線を向けた。
アーカーは息を呑んだ。「私は何も知らない。私は何者でもない!」
男はくすくす笑った。「じゃあ、みんなが死んでいるのに、どうして君はまだ生きているんだ?」
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アーカーはハッと目を覚ました。全身に汗が流れ落ちた。少女は彼の隣にひざまずき、不安げに彼の名前を呼んでいた。彼は呆然と彼女の手を握った。「信じられないものを見たんだ…」
しかし、彼がそれ以上言う前に、地面が揺れ始めた。祭壇の下から亀裂が生じた。そこから影のような生き物が現れたので、二人は飛び退いた。生贄に捧げられた女の霊魂で、その瞳は深淵のように黒かった。彼女はアーカーを――いや、彼の心臓を――見つめ、長く悲痛な叫び声を上げた。アーカーは槍を振り上げたが、霊魂は攻撃せず、ただ彼の周囲に漂いながら、「お前は…彼女を奪った…」と呟いた。
「何だって?」アーカーは後ずさりした。「何も分からない…」
精霊は言葉を失い、叫び声を上げた。彼女の口から黒い風が噴き出し、二人は壁に向かって吹き飛ばされた。アーカーは震え上がり、口の端から血が流れた。プラチナの髪の少女が先に立ち上がり、ポケットから魔石を取り出して精霊に投げつけた。閃光に精霊は悲鳴を上げ、わずかに後ずさりした。しかし、それは一時的なものだった。
「逃げろ!」アーカーは叫んだ。彼らは地下室から飛び出し、村の門に着くまで叫び声が続いた。
二人が生贄の穴から出ると、背後の地面が完全に崩れ落ちた。もう片方の魂は…少なくとも一時的には閉じ込められていた。二人は遺跡の前に座り込み、荒い息を吐いた。アーカーはしばらくの間、黙っていた。彼はプラチナの髪の少女を見つめた。髪は乱れ、顔は灰に覆われていたが、瞳は相変わらず輝いていた。「ありがとう…行かなくてよかった」
彼女は何も答えず、ただ優しく微笑んだ。「言ったでしょ…あなたが止めるまで、私も一緒に行くわ」
曇り空の光は、どれだけ時間が経とうとも、変わらないようだった。灰色の雲がすべてを覆い、一筋の陽光さえない。しかし、風は…まだ吹いていた。幽霊の手のように、静かで低く、冷たい。アーカーは、かつて生贄の穴へと続いていた古い石段に腰掛けていた。苔むしたレンガの壁に背中を預け、膝を曲げ、目は…ぼんやりとしていた。地下での、短くも残酷な脱出と対決の後、呼吸はゆっくりと落ち着いていた。
プラチナの髪の少女はすぐ近くに座っていた。手首についた乾いた血を拭いていたが、その目は静かにアーカーを見つめていた。その目には柔らかな何かが宿っていたが、同時に、名付けられない感情が幾重にも重なっていた。「大丈夫?」と、彼女はそよ風のように軽やかな声で尋ねた。
アーカーは軽く首を傾げた。少し間を置いてから、彼は答えた。「ただ…まだあの出来事に慣れていないんだ」。沈黙が訪れた。二人の間の空間が広がったように感じられ、聞こえるのは崩れ落ちた屋根を吹き抜ける風の音だけだった。「…何かが…下で私を待っている」
少女は小さく頷いた。「憎しみ。痛み。拒絶された記憶。」
アーカーは目を閉じた。「彼女は…誰だと思う?」
「あの犠牲になった女?」彼女はためらった。「正確には分からない。でも、何か…あの霊を以前見たことがあるような気がする。」
アーカーは彼女の方を振り返った。しかし、彼女は彼の視線を避けようとしなかった。少し間を置いて、アーカーが先に目をそらした。「変だな。まるで…君は何でも知っているみたいだ。」
彼女は優しく微笑んだ。「もしかしたら私もあなたと同じように、答えを探しているだけなのかもしれないわね。」
アーカーは立ち上がった。足はまだ震えていたが、少女の手から放たれた癒しの光のおかげもあって、体はゆっくりと回復しつつあった。数歩進み、立ち止まった。「あなたは……いわゆる『光の心』を信じますか?」
少女は少し間を置いて言った。「それが何なのかは分かりません。でも、もしあなたがそれを持っているなら…あなたは普通の人ではないと思います。」
アーカーは唇を尖らせ、振り返った。「つまり…奴らは君を狙ったのではなく、君の心を狙ったとでも思っているのか?」
沈黙。「それがなかったら、誰のことを気にするんだ?ライラ、ケイル、騎士たち…君を支えてくれた人たち。彼らは本当に君のためにそこにいたのか?それとも、君が何かにしがみついていただけなのか?」
「あなたはどう?」少女は突然、落ちてくる羽根のように軽い声で尋ねた。
アーカーは驚いた。いつもより長く彼女を見つめ、それから頭を下げた。「君は唯一の例外だ…だが、私について来るべきではない。私には何もない。」
「君には何も頼んでいない」アーカーは拳を握りしめた。風はまだ吹いていた。だが今回は、まるで大地のため息のように、より穏やかに聞こえた。
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アーケルと少女は祭壇を後にしたが、ヴァルデン村を急ぐ気はなかった。アーケルが休息を必要としていたからという理由もあれば、まだ解明されていない何かがあることを知っていたからという理由もあった。村の中心には、蔓や野草に覆われた大きな家があり、他の荒れ果てた家々とは全く異なっていた。朽ちかけた木の扉には、円の上に十字が描かれた印が刻まれていた。魂の封印の象徴だ。「かつてここには強力な魔術師がいました」と少女は言った。「この印は、神の術を学んだ者だけが使えるのです」
「古い本で読んだんだ」アーカーは深く考え込んだ目で呟いた。「あの人は、ここに精霊を封印した者かもしれない…あるいは、最初の呪いを作った者かもしれない」彼らは中に入った。
その家は古かったが、どこか違っていた。廃墟となった小さな教会のような構造だった。部屋の中央には、人と同じくらいの高さの鏡が置かれていた。厚い埃に覆われていたが、冷たい空気を発し、人々を警戒させた。アーケルが鏡の枠に触れると、閃光が走った。そして――耳元で囁きが響いた。「また来たな…今度は何を選ぶ?」
アーカーは顔面蒼白で後ずさりした。「何か聞こえた?」と少女が尋ねた。
「その声…とても聞き覚えがある。まるで夢の中にいるみたい。あるいは、忘れてしまった過去の何かのよう。」アーカーは彼女を見た。
少女は彼をじっと見つめた。そして優しく言った。「もしかしたら…そろそろ思い出すべき時なのかもしれないわね。」
アーカーは鏡に近づいた。鏡には彼自身の姿だけでなく、別の姿も映っていた。白いローブをまとい、ライトセーバーを手に、リリアの隣に立つアーカーの姿だ。その姿は一瞬だけそこに現れたが、やがて暗黒に消えた。
アーカーは拳を握りしめた。少女は前に進み出て、彼の隣に立った。二人の人影――一人は忘れ去られ、一人は言葉にされない――が、それぞれの運命を映す鏡のそばに立っていた。「どんな過去であろうと…私はあなたと共に行く」アーカーは彼女の方を振り返った。「たとえそれが死を意味するとしても?」
「もしそれが私にとって何か意味があるのなら…」彼女は少し間を置いて言った。「…後悔はしないわ。」アーカーは数日ぶりに、優しく微笑んだ。
家を出て、二人はそれ以上何も言わなかった。しかし、それは必要ないように思えた。二人は同じ秘密、同じ悪夢を共有していた――そして今、共に新たな地平へと向かっていた。ヴァルデンの呪いはまだ完全には解けていなかった。しかし、弱まっていた。そして、たとえ小さくとも、光が灯ったのだ…まだ自分が何者なのかを思い出そうとしている男の心に。1