それは突然な物でⅡ
休み時間。あれから瑠衣はまたしても篠田さんの所まで来て話している。
「てかさーみくりんは好きな人とかいるの?」
「えっ……急にどうしたの?」
瑠衣の言葉に俺は無意識に耳を傾けてしまう。篠田さんの好きな人……気になってしまい、さっきまで涼太と話していた内容が耳を通り抜けて行ってしまった。
「いいじゃーん!教えてよー」
「いる、けど………恥ずかしいから内緒ね?」
思わずそちらをチラッと見ると、篠田さんが瑠衣に何やら耳打ちをしている。俺はバレないようにすぐさま視線を戻す。涼太はそんな俺の様子に気づいていたのか、先ほどから黙ったままだ。
「そっか……じゃぁ、あーしとライバルだね!」
「そうなっちゃうね……でも、友達で居たいな私」
「もち!あーしとみくりんは親友でしょ!?」
どうやら瑠衣と篠田さんは同じ人を好きらしい。その事実に若干ショックを受けつつも、その相手が気になってきてしまう。一体誰なんだ……篠田さんが惹かれている男とは。
「……陽介、お前さっきから百面相してる事に気づいてるか?」
「え?そうなのか……気づかなかった」
「まぁ、理由はなんとなく察しがつくけどさ。頑張れよ」
そう言って俺の肩を軽く叩く涼太。頑張れって何をだよ。そんな会話を繰り広げていると、瑠衣がこちらを見ている事に気がついた。なんだ?もしかして聞き耳をたてていたのがバレたか?などと内心冷や冷やしていた。
「陽介は、さ……その……」
「……なんだよ」
歯切れが悪く、なかなか言葉が続かない瑠衣にそれだけ言って次の言葉を待つ。ここまで沈黙が続くのは(と言っても数秒だが)珍しかったのでしばし瑠衣を見つめる。するとしばらくした後、その言葉は紡がれた。
「す、好きな人いるわけ!?」
「……なんで喧嘩腰なんだよ。まぁ、気になってる人はいるが」
「そ、そうなんだ……それってどんな」
瑠衣が何かを聞こうとした瞬間、予鈴が鳴り散り散りになっていたクラスメイトがそれぞれの席へと戻っていく。そんな中瑠衣はなかなか動こうとしない。
しびれを切らして俺は注意した。
「瑠衣。予鈴鳴ったぞ。戻れ 」
「わ、分かってるし!」
顔をほんのり赤く染め、瑠衣は戻って行った。一体どうしたと言うのか。篠田さんや涼太を見れば、教科書やノートを取り出し準備をしている。俺も準備するか。
「陽介。お前程々にしておかないと面倒な事になるぞ」
「は?何がだよ」
「その内分かるよ」
それだけ言って涼太は教科書に視線を落とした。
面倒な事とは何なのか。非常に気にはなったが、そろそろ先生が来る為その考えはすぐに消え去った。