それは突然な物でⅠ
教室に入ると、それぞれの席で立って話したり座って話したり。要は席に座っているのは少数。そして俺も自分の席へと向かうと、そこにはやはり先程も会った幼なじみの瑠衣が座っていた。
「陽介おっそーい」
「うるせぇそこ俺の席だぞ」
「別にいいじゃーん。みくりんの後ろなんだし」
みくりんとは。篠田 三稜さん。俺の前の席の女子で、栗色の毛をお下げにしている真面目な女子生徒。そんな彼女が何故ギャルな瑠衣と仲が良いのかは謎である。
「ご、ごめんね柴野くん……」
「大丈夫だよ篠田さん」
「……あーしの時と全然態度違うし」
「ここは俺の席だ。さぁ帰れ」
「……わかったわよ。じゃーねみくりん」
俺が強く言えば瑠衣はそそくさと自分の席へと戻って行った。
俺が今の席を気に入っているのは窓際の1番後ろだからだ。居眠りしてもバレないが、大抵篠田さんにバレて起こされているけれど。それでも俺が気に入っている事に変わりは無い。
あと篠田さんが気になっている、という理由もある。ちなみ隣は涼太だ。
「お前ほんと猫又さんにだけ厳しいよなぁ」
「そうか?あぁでもしないとあいつ動かないぞ」
始業までまだ時間がある。という事で読書でもしようかと言う時。入口から俺を呼ぶ声が聞こえた。
そちらを見ると文芸部の先輩・染谷 白愛先輩だった。ほわほわした雰囲気の先輩で、喋り方もとにかく緩い。
「どしたんすか先輩」
「陽介くん今日の部活中止になっちゃったの……それだけ伝えたくて」
「わかりました。わざわざありがとうございます」
それだけを言って先輩は帰って行った。席に戻ると涼太が訝しげな目で俺を見ている事に気がついた。
「……なんだよその目」
「いや?お前美女からモテるよなぁって」
「そうか?別に普通だろ。モテてるわけないって」
「うーわそういうのムカつくわ」
そう茶化し合いながら席に着く。瑠衣がこちらを睨んでいる気がしなくもないが、まぁ気のせいという事にしておこう。
と思っていたのに。何を思ったか瑠衣はまたしてもこちらに歩いてきた。篠田さんに用事だろうか。
「……ねぇ陽介。アンタってさ」
「なんだよ」
「……やっぱりなんでもない!」
「はぁ?なんだよそれ」
思わず喧嘩腰になるが、それを気にする事なく瑠衣は早足で戻って行く。なんなんだと思っていると、篠田さんが珍しく俺に話しかけてきた。
「ごめんね瑠衣ちゃんが……」
「いや、篠田さんが謝る事じゃないよ」
それは事実だ。実際謎の行動を起こしている瑠衣に問題がある。俺は何も悪くない。はずだ。……断じて瑠衣に嫌がらせをしている訳では無い。
「瑠衣ちゃんもね、悩んでるんだよ。分かってあげて?」
「……それもそうだな」
「お前……本当に態度が違いすぎるぞ」
涼太に指摘されたが気にしない。瑠衣は幼なじみだからついキツく当たってしまうだけで、他意は無い。
どうして誰もそれを分からないのか。まぁ、考えても仕方の無い事だ。今は授業の準備をするのが先だ。