自由研究について-④
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※注意です。
『マンホール』『落下』などの表現が出てきます。
抵抗のあるかたは、【もどる】をおすすめします。
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※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などとは、一切関係ありません。
◇
血まみれになったコギトにつれられて、エチカと小夜子はフィーロゾーフィア市を往来に沿ってくだっていった。
ついたのは第五等級街区のほそい路地。
木と石でできた家々がならぶ、王都の中層に位置する中流階級の住まう区画だ。
エチカの雑貨屋兼自宅のある第七等級街区からは、さほど離れていない。
エチカに錬金術で再構成してもらった竹箒を片手に、トコトコ歩くトンガリ帽子の魔女を先頭に、一行は閑静な住宅街をすすんでいく。
「あっ、ほら見えた。あそこよ」
コギトがT字路に差しかかったところで突きあたりを指差した。
午後二時の炎天下に、フードを目深にかぶったローブすがたの人物がいる。
あやしげに装飾した、紫を基調としたデザインのテーブルをはさんで、二人の女性と対面していた。
一人はつきそいらしく、立ったまま座席の人を待っている。
座っているのは十代後半ほどの女性で、どちらも大学生か新社会人といった風情だった。
ローブすがたの占い師が告げる。
「危険が迫っています。これから行くとおっしゃっていたショッピングモール。北側の入り口につづく道路には、決して近づかないように。さもなければあなたは死ぬでしょう。深い穴に落ちて」
「マンホールにでも落ちるのかな?」
つきそいのショートカットの女の子が横から言って、座っていたセミロングに茶色い染髪をほどこした女性が「イヤああ」と顔を両手でおおう。
「そんな恥ずかしい死にかた耐えられない。あんな臭くて暗くて変な空気が充満してそうな場所に落っこちるくらいなら、いっそここで首を吊ったほうがマシよおおお」
大仰に悲嘆にくれる茶髪の女性をうしろからながめて、
「サヨコ? どうかした?」
「いえ……べつに……」
マンホールに落っこちて『日本』からこの世界にやってきた小夜子は、赤くなるやら青くなるやら、うつむいた。
マンホールの一件は、まだエチカにも誰にも言っていないことだが、ますます言いづらくなった。
できれば一生言いたくない。
「まあいっか。あの客が捌けたら声かけてみましょ」
「たのむわよエチカ」
「馴れなれしくすんな」
「なんであたしにだけそんな冷たいのよ!」
ようすのおかしい小夜子――頭がおかしいのはいつものことだが――から、占い師のほうに視点を戻すエチカ。肩を怒らせるコギトは放っておく。
占い師が『お守り』として変な猫の土鈴を客に渡し、それを持って二人の女性は退席した。
道の向こうに消えていくのを見送って、エチカ、小夜子、コギトの三人が占い師のテーブルに近づいていく。
「いらっしゃいま――」
ローブでただでさえ目元が隠れているのに、口元にまでヴェールがかかり、完全に顔つきが分からない。
ただ、声はたしかに、事前にコギトが言っていたとおり若かった。
否、むしろ幼い――。
「ごぶさたね。国王からの出店許可は、ちゃんともらっているのかしら」
エチカはスツールには目もくれず、たずさえた錬金術師の長杖に身をもたせかけ、占い師を見下ろした。
占い師のほうもまた、見た瞬間に相手が誰だか合点したようだった。傍から見ていたコギトと小夜子のあいだには、『やっぱり知り合いだった』という認識が決定づけられた。
占い師が立ち上がる。
両手をバンとテーブルについて、跳びはねるように。
「あー!」
フードと口元の覆いを、占い師はジャマくさそうにひっぺがした。
バレッタでひっつめた、サラリとした銀色の長い髪が外気にさらされる。
こぼれそうなほどに大きな、紅玉もかくやという赤い両眼がキラキラかがやく。
身長は小夜子よりやや高いほどだが、挙措には落ちつきがなく、あぶなっかしい。
顔中でお日さまみたいに笑って、その占い師――少女は、声をかけてきた若い女錬金術師にアイサツを返した。
「ひさしぶり、エチカねえさん!」
つづく




