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フィーロゾーフィア  作者: とり
第48話 自由研究について
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自由研究について-②

 



   ◇



「聞いて」


 ズイッ。

 まどから出てきた顔がある。


 大きなトンガリ帽子ぼうしに、ソバカスの浮いた童顔どうがん栗色くりいろの髪を一本いっぽんの長い三つ編みにした、メガネの魔法使い。コギト・Eイー・スムである。


 シャツにジーンズの上からマントをつけた彼女は、二階にかい一室いっしつにヌンと上半身を出していた。


 よもや下の階から垂直すいちょく飛びをして懸垂けんすい要領ようりょうで窓のさんによじ登ったわけではあるまい。

 二階にかいの私室で対戦ゲーム(レーシング・ゲームだ)をしていた小夜子さよことエチカは、真昼の闖入者ちんにゅうしゃにボウゼンとした。


 小夜子さよこが言った。長い黒髪にカチューシャをつけた、ワンピース姿の十四歳の少女だ。首には父の形見かたみのペンダントをげているが、台座には元々あった宝石がない。カラッポである。


「あ、コギトさんだ」


「ムシムシ」


 エチカが知らんぷりをした。長い金髪に金色の瞳を持つ、ノースリーブにミニスカ姿の若い女である。


 フィーロゾーフィア王国屈指(くっし)の錬金術師だが、職人か学者らしいのは、両手にいつも――今もつけている――作業用の白いグローブのみ。


「そっぽむかないでよ、こちとら死活問題しかつもんだいなんだからー」

「べつにあんたが死んだところで誰もこまりゃしないわよ」


 ゲームをしながらキッパリ言うエチカに、さしもの小夜子さよこも「ヒドッ」と言った。

 一瞬いっしゅんよそ見したスキに、小夜子のカートに妨害ぼうがい用の甲羅こうらがあたる。クラッシュして、スピンして、コースアウト。


「あーっ、ズルイ! そんなのなしですよお!」


「ありですよお」


 小夜子のマネで返しつつゴールして、エチカはフンと窓の外にいるコギトを見やった。


 小夜子もリセットボタンを押して――それで自分の負けがなくなるわけではないのだが――コギトのほうにけ寄っていく。

 のぞき込むと、あんじょう、コギトは竹箒たけぼうきにまたがって浮いていた。


 フィーロゾーフィア王国のたみは、ほとんどがそらでの移動を機械(バイクや船、キックボードなどに似た乗り物)にたよっている。対して魔法使いの国から来た魔女のコギトは、ホウキでそらを飛んでいる。


「いいなあ~。ねえコギトさん、魔法って、わたしでも使えるようになるんですか? わたしも自由に飛んでみたいです」


 錬金術はいつのまにか使えるようになっていた小夜子である。


 コギトは小さな子供に『サンタクロースはいない』とどう伝えようかというような、困惑顔こんわくがおになった。


「ごめんね。魔法は『血』が大きくかかわってくるから」


「悪魔の血統ってやつでしょ? 無駄むだよサヨコ。こいつらドラゴンが火いいたりナマズが地震をおこしたりするのと同じようなデタラメ原理で魔法使うのよ。モンスターの一種いっしゅって考えたほうが適当だわ。人間ではなく」


「ハッキリ言うわね。……まあ、まちがっちゃないけど」


 コギトは口元くちもとをひきつらせたが、否定はしなかった。

 ポン、と両手をたたく。


「そんなことより聞いてよ二人ふたりとも。知ってのとおり、掃除屋の閉業へいぎょう余儀よぎなくされたあと、あたし、路上ろじょうでの占いをはじめたんだけど――」


「倒産は知ってたけど占いは知らなかったわ。つーか、うっさんくさいマネしてるわねー」


(いちいちつっかかるなあ……)


 小夜子さよこは、テレビの前に座ったまま茶々を入れるエチカに半眼はんがんをくれた。

 コギトと小夜子たちは、はじめは『ハウスクリーニング店』の店主と客というあいだがらだった。


 当時からエチカとコギトはどこかしらたがいをバカにしていた。

 エチカが他人を見下みくだしているのはいつものことで、見下していない相手などいないのではと思うところだが、コギト――魔法使いに対しては、『敵意てきい』がある気がするのだ。

 コギトもまたしかりである。


(職業上の対立たいりつってやつかなあ……。コギトさんは『職』じゃなくて『種族』ってエチカは言ってたけど)


 コギトがまどそとから言いつのる。


「とにっかく、よ! 単刀たんとう直入ちょくにゅうに言うと、商売敵しょうばいがたきがあらわれたの! そいつの占いったら、やすいし当たるしであっというまに話題になっちゃって、ほかの占い師たちも客とられてまんまいあげの大惨事だいさんじってわけ! あなたたちこの町の錬金術師でしょっ、なんとかしてちょーだいよっ!」


「私たちが錬金術師であることと占い業界にテコ入れすることに一切いっさいの関係性を見出みいだせないわ」


「右に同じです」


 小夜子さよこはエチカの意見に挙手きょしゅして賛成した。


 コギトは「えーっ」と納得なっとくいかない。


「なに言ってるのよ、この町でやってる占いなんて、あたし以外みんなインチキでしょ。錬金術は理論の側面そくめんが強いから、ウラで何やってるかなんて一発いっぱつで見抜けるじゃない。そうでしょ?」


「『そうでしょ?』って言われてもね」


 エチカは金色の目をそらした。かかわりたくないのだ。せっかくの長期ちょうき休暇きゅうかなのだ。ただの一日いちにち一秒いちびょうたりとてムダにしたくない。


「あのー」


 小夜子さよこがコギトに向き直った。


「なに、サヨコちゃん。不肖ふしょうのお師匠様にわってサヨコちゃんが調べにきてくれるとか?」


「エチカは先生じゃないですって。そうじゃなくて、占い師って、どんなひとなんですか? もしかしたら、わたしたちの知りあいかも」


「ああ、それもそうね。人物像じんぶつぞうを言いわすれてたわ。えっとねー」


 コギトは思い出そうと、自分の下顎したあごに人差し指をあてた。





                つづく







 

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