主人公について
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※注意です。
メタな表現がふくまれます。
抵抗のあるかたは、【もどる】をおすすめします。
(わたしが主人公なのに!)
夏の暑い日のことである。
王都フィーロゾーフィアにある雑貨屋の二階で、小夜子はベッドにつっぷしていた。
長い黒髪にカチューシャをつけた、黒い目の女の子である。歳は十四だが、フィーロゾーフィア王国内では、十三歳からの労働がみとめられている。住み込みで働く(といっても今は店は休暇中だが)アルバイトの少女だった。
普段着によく着るワンピースに、靴はなく、はだしである。
午前十時の暑さの強くなるころ、小夜子はマクラに顔をおしつけた状態で、ウダウダと取りとめのないことを考えていた。
ピクリとも身体は動かさず、頭のなかだけで煩悶する。
(なんか目立ってない気がする! 活躍できてない気がする! あのポジション的にドラ○もんな、金髪でほぼ万能で性格のわるいムダにボンキュッボンな女にぜんぶ持ってかれている気がする! ぜったいヤツのほうが主人公じゃね? って混乱している人たちがいると思う! それもこれも書き手の『とり』が、ヤツのほうがお気に入りで、わたしの設定をザツにえがいているせいだ! そう、わたしのキャラがうすいのはぜんぶ『とり』のせいだ!!)
ガチャリ。
ドアが開いた。
廊下から長い金髪の、若い錬金術師が入ってくる。ノースリーブのシャツにミニスカート、サンダルといった格好の、小夜子の言葉を借りるなら「ムダにボンキュッボン」なスタイルな女性である。両手には作業用のグローブをつけていて、脇には装丁のしっかりした専門書をかかえていた。エチカだ。
「なにベッドの上でグダグダしてんのよ」
「ぎゃっ! 勝手に入ってこないでくださいよ! 出てってください!」
あわてて身を起こし、女の顔にマクラを投げつける。マクラはあたりまえのように、空のほうの手ではたき落とされた。
「『出てけ』は私のセリフだわ。ここ私の部屋なんだから。あんたのは隣り」
「それでも今はわたしが使ってるんだからわたしのものなんです!」
「どこのガキ大将よ」
「ガキ大将じゃありません! 主人公です!」
「メタいこと言うわねー」
今回はそういう感じの話なのかと悟りつつ、エチカ。
小夜子は止まらない。
「メタくってもいーんです! とにかくわたしは主人公だから、この『フィーロゾーフィア』って作品のなかでどんな好き勝手やらかしても許されるハズなのに、アホな市民(エチカも含む)にふりまわされるわ、錬金術のレベルはビミョーだわ、性格も凡庸すぎてキャラが立たないわ、ヒトの一人も殺してないわ、もうさんざんですよ!」
「あんたに殺人願望があったとはビックリ――でもないか」
「あるわけないでしょう! わたしは本作で唯一マトモな人格者ですよお! そのせいで目立たなさすぎるので、いいかげん『まとめて十人くらい死者の出るタイプの事件でも起こして世間をさわがせたほうがいいのかしら?』って頭をなやませてたとこなんです!」
「なるほど、凡人の発想だわ」
「誰のせいでこんな思いしてると思ってるんですか! 誰のせいで主人公できてないって思ってんですか!?」
「あんた主人公のことなんだと思ってんのよ」
「その作品のなかにおいてなにをやっても許される、神よりも尊く世界よりも貴重な存在です♡」
「ほー」
エチカはツカツカベッドに近寄って、小夜子の襟首をむんずとつかんだ。ヒョイと持ちあげる。
「奇遇ね。主人公じゃないけど、私も自分のことは神よりも偉大で全宇宙よりも大いなる存在だと思っているわ」
ポイッ。
小夜子は廊下にほうり出された。
「そっ……」
バタンと扉が閉ざされる。
「そんな自分勝手なこという人がいるから、わたしが主人公らしくうつらないんですよおー!!」
ドンドンドンドン!
小夜子は泣きながらグーでドアをたたいた。
必死の抗議の声は、誰にも届かなかった。
読んでいただいて、ありがとうございました。
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