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フィーロゾーフィア  作者: とり
第36話 雨について
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雨について-④

 



 洞窟(どうくつ)を出ると、昼下がりの白い日射が三人を照らした。


「いやー、久しぶりのシャバの空気はおいしいですねー」

「三十分も()もってなかったでしょ」


 お天道(てんとう)さまのもとにまっ(さき)に駆け出して、少女マンガも裸足(はだし)で逃げ出すキラキラした瞳になりながら、外の空気を満喫(まんきつ)する小夜子(さよこ)。同意するようにサラマンダーが少女のカチューシャの上でチロチロ(した)を出す。うしろからエチカが指摘(してき)する。


 最後に洞窟から出てきたイプセンが、小夜子から()いた(なわ)肩掛(かたか)けカバンにしまっていた。外に()めていた社用(しゃよう)のバイクに向かっていく。


「本当はもっとしっかりご説明したかったんですけどねー。サヨコさんが『悠長(ゆうちょう)にしゃべってないで早く出ましょうよお!』って泣き出したので、(いそ)(あし)になってしまいましたね。人間ってのはガマンのひとつもできないものなんですか」


「エルフは人を見下(みくだ)してるってイメージだったけどホントだったのね」


「失礼ですね。私はまだマシなほうですよ」


否定(ひてい)はしない、と」


 両手を腰にあててプンスカ(おこ)るイプセンに、あきれた半眼(はんがん)でエチカ。

 ちゃっちゃとイプセンはヘルメットを取ってかぶり、バイクのエンジンをかけた。


「なんにしても、王立(おうりつ)の研究所員が総出(そうで)でがんばっても成果の出ない異常(いじょう)事態(じたい)なので、早く行ってあげてくださいね。水精霊(すいせいれい)を持ってるなら、それで一発(いっぱつ)なんですから」


「その()しのぎで精霊(せいれい)を使うシュミはないわよ。実際の問題は別のところにある。あなただってそれは解ってるんでしょう?」


「そうですねえ。(ひと)つはサヨコさん。もう(ひと)つのほうも、見当はついています。けど言って解決できるなら、そもそもこんなことになってませんよね?」


「確かに。あ、ついでに訊いておきたいんだけど」


「なんでしょう」


「なんですべての〈冒険者〉に依頼の通達をしてるわけ? ふつうはランクが指定されてるんじゃないの?」


「おっしゃるとおり、宮廷錬金術師さんからの依頼はSランク冒険者を対象としたものだったんですよ。でも、当ギルドにおける冒険者の有能さについては、実はBランクが最高と言っても過言ではないんですよね。AやSは、そこに付加価値がついてるっていうていどです」


「付加価値ですか?」

 イプセンの説明に、我にかえった小夜子が訊いた。


「ええ、戦士や術師としての技量・戦闘能力は、BもAもSも変わりません。違うのはギルドへの貢献(こうけん)度なんです。AランクはBランク以上の依頼を週に二件、Sランクは週に三件以上達成するという実績が求められます。だから手に職を持っている登録者は、どれほど実力があってもBランクから上になるってことはほとんどないんですよ。本業がいそがしいですからね」


「えー……ノルマなんてあったんですか……上のランクのかたは大変ですね」


「あらら、いいご身分ですねサヨコさん。ご忠告しておきますけどね、Aより下のランクであっても、一年(いちねん)一度(いちど)はギルドの依頼を達成しなければ、問答無用で登録解除になるんですよ。サヨコさんは今年すでに消化なさっていますが――エチカさん、あなたが最後にギルドに訪れたのは十カ月前と記載されています。そろそろ何かこなしてくださいね。せっかくBランクなのに、解除されたらまたFからやりなおしですよ?」


「そんなに()ってたとは思わなかったわ……」


「他の職員が督促状(とくそくじょう)送ったって言ってましたけどねー」


「いちいち見てないっつーの」


「ま、とにかくそーゆーことで。今回の件に関しては、申し込んだかたが『非常に難易度(なんいど)の高い仕事内容だから、Sランクの冒険者を指定』したものの、当ギルドの事情をよく分かっていなかったという状況を鑑みて、ギルドの中で会議がおこなわれたんです。で、Bランクまで広げるかなーって話しだったんですけど、お偉いさんが『めんどくさいから全ての登録者にしとけ。これべつに強さとか関係ないからな』って、対象を変更したんです。依頼主には『厳正な協議の結果』ってことで連絡はいってると思うんですけど――ああ、そろそろ次に行かないと」


 バルン!


 一度(いちど)だけ大きくマフラーをふかせて、イプセンは(そら)を駆けていった。

 エンジン音が丘から遠のいていく。


 小夜子(さよこ)がエチカにつぶやいた。


「イプセンさんがさっきチラッと言ってた……わたしが日照りの原因っていうのは、なんなんですか?」


「そうねえ……」


 エチカも自分の飛行(エア)バイクに歩いていきながら、小夜子の相手をした。


「そろそろ話してもいい(ころ)だとは思うんだけどさ。私としてはまだ確信を持てないし、あんまり言いたくないのよね。あくまで仮説(かせつ)として(はば)()かせてるってだけのことだから」


「そこまで仮説として有力(ゆうりょく)なら、信じてもいいのでは?」


「あるていどはね。でも、物理的な実証(じっしょう)ができない以上、仮説は信仰(しんこう)とそんなに変わらないわよ」


 アンニュイに息をついて、エチカはロッドをベルトで(けん)のように背中に固定した。金色のロングヘアをつめ込むように、フルフェイスメットをかぶる。


 小夜子も同じように自分の(つえ)背負(せお)い、ヘルメットをかぶった。サラマンダーをワンピースのポケットに押し込んで、後部座席にまたがる。


宮廷(きゅうてい)錬金術師(れんきんじゅつし)の――フェーンってひとが依頼主でしたっけ? 〈天候(てんこう)調整(ちょうせい)装置(そうち)〉が、錬金術の(ちから)を受けても(したが)わないとか。故障(こしょう)なんでしょうか?」


「故障であってほしいわよ。直せばそれで終わりだもの」


「で、行くんですか?」


「私一人(ひとり)にこの依頼(いらい)が来てるんなら行かないんだけどさ。冒険者(ぼうけんしゃ)登録(とうろく)している(ヒト)全員ってなると、話は別なのよね」


「えっ! 行くの!? なんでですかっ!?」


「どんな珍回答(ちんかいとう)があるのかなーって」


(こわ)いもの見たさですか……」


「そゆこと」


 飛行(エア)バイクのアクセルを入れて、エチカは機体を青い(そら)飛翔(ひしょう)させた。

 白い排気煙(はいきえん)()いて、(みどり)の丘から王都フィーロゾーフィア()に飛んでいく。





 

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