雨について-①
雨乞いはその日もおこなわれた。
フィーロゾーフィア城の屋上である。
雲の上の都を、更に高い場所から見下ろす光景は圧巻だった。
白い雲塊と青い空が、浮遊する島の下に海と波のようにたゆたっている。都市の家や施設の瓦が、模型のような整然とした配置で眼下に群れている。
しかし彼らにはその景色を楽しんでいる余裕はなかった。
というよりすっかり慣れてしまい、日常の風景の一つとさえなっている者までいた。
ただ通常と違うのは、屋上に青い装置が設置されていることだ。
円注の台座にブルーの球体が浮遊し、いくつもの金のリングで守られたそれは、天球儀のようでもあった。
これももう設置して一週間が経つ。
集まった人々――臙脂のローブに同じ色の帽子を被った、〈宮廷錬金術師〉たちは、各々の手に握りしめていた専用の長杖に力を込めていた。
回転していた球体が、一度だけ速さを増す。――が、すぐに減速した。
装置を囲んでいた術師たち、あるいはそれを遠巻きに見守っていた新任の術師たちが、こぞって肩を落とす。
「……今日もダメじゃ……」
最後に杖を下ろしたのは、この中では最も高齢と言えよう、白い眉に白い髭の、手や顔に深い皺の刻まれた老人だった。
ほんの少し見ただけで、七十は越えているだろう。
「ふりませんね、雨……」
老人と一緒に杖を構えていた一人が――こちらはまだ若い男だった――空を見上げ、ローブの裾から裸の手を出してつぶやいた。
天にはただただ深い青。その下を、〈渡煌石〉と呼ばれる緑の輝く小さな石が、群れを成してらせんを描き、透明な軌道をゆっくりとめぐっている。
「そろそろ貯水池のほうもマズイ値になってきているそうですし……。誰か有力な錬金術師に協力をあおぎますか? パスカル所長」
「もしくはギルドに依頼を出すか、ですな」
中年の男が、若い錬金術師に続いて言った。
「何か妙案を持っている連中の目に留まってくれるかもしれない。我々錬金術のエキスパートがこんなに力を寄せ合ってもどうにもならないんだ。ほかの……変わり種に期待するのも、ありなのではないかと」
中年の術者の意見に、ある者はプライドをキズつけられ、ある者は自分の不甲斐なさに唇を噛んだ。
老錬金術師は数瞬考える。
選択は早かった。
「ギルドに依頼書を出そう。この際魔法でもお祈りでもかまわん」
「パスカル所長!」
若い錬金術師が非難がましく声を上げた。
パスカルはそれを枝のような手で制し、採用した意見を出した中年の部下のほうに、眉の下の小さな瞳を向けた。
「では、フェーン。ギルドのほうに申し込んでおいてくれ。早急にたのむぞ」
「はい!」
齢四十ほどの男――フェーンは、歯切れよく返事をすると、黄色い石のついた杖をたずさえ、屋上を後にした。
それから更に一週間が経過した。
雨はまだ――降らない。




