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フィーロゾーフィア  作者: とり
第30話 好きな日について
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好きな日について

 




 こんな日は()きだ。


 毒の雲の上の国フィーロゾーフィアは、本日夏のさなかにあってすずしかった。

 王国や、天空にあるそのほかの島々、大陸を保護する大気の被膜(ひまく)。内部に(よう)する生きものを、強烈な日差しから守る保護膜(ほごまく)が、少々(あつ)く設定されたのだ。


 これは担当する技術者――錬金術師(れんきんじゅつし)のオゾン調整の差異(さい)によるものである。

 正常稼動範囲(はんい)内での誤差ではあるものの、明日までには復旧されることになるだろう。それまでは真夏(まなつ)にありながら秋に突入したような気候(きこう)のもとですごすこととなる。


 王都の上層――七等級街区(がいく)にある『エチカ商店(しょうてん)』もまた、ぽっかりとできた熱波(ねっぱ)の休日めいた時間のなかにあった。


 ホログラムのテレビを、2Dモードにして古いRPGで遊んでいたエチカは、座椅子(ざいす)の外にリモコンと手をほうりだして、すやすやと寝息をたてていた。

 とちゅうでおそわれた眠気にまけてしまったのだ。


 いつもはつけているアイマスクも忘れて、ふだん(おき)のように知的好奇心のたぎる金色の瞳は、白いまぶたと長い睫毛(まつげ)のしたにねむっている。長い金色の髪はシャツから()き出した(かた)にちからなく()れ、窓からときおり吹きこむ風にエナメル線のようなきらめきをちらつかせてゆれていた。


 ベッドのうえには小夜子がいる。


 小夜子(さよこ)――黒くつややかな長い髪に、白いカチューシャをのせている、十四才の少女である。白一色(いっしょく)の夏用ワンピースをまとい、うつぶせに横たわるすがたは深層(しんそう)令嬢(れいじょう)もかくやという可憐(かれん)さだが、足にはショートブーツを()きっぱなし。ほっぺのしたには読んでいたマンガ雑誌がひらいていた。


 彼女もまた、くーくーちいさな寝息をたてていた。


 古いゲーム機のなかで、RPGのソフトであるディスクが高速で回転する音が、二人(ふたり)のいる空間――エチカの部屋である――にかすかにひびく。


 さあっと風がふく。

 カーテンがゆれる。

 テレビのなかで、プレイヤーの操作(そうさ)をなくしたデフォルメのキャラクターたちが、同じ場所で足踏(あしぶ)みをくりかえす。


 すやすや。

 くーくー。


 エチカも、小夜子(さよこ)も、ねこのようにねむりつづける。


 なにもない。

 ただおだやかな時間だけがある。


 こんな日が()きだ。




 

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