好きな日について
こんな日は好きだ。
毒の雲の上の国フィーロゾーフィアは、本日夏のさなかにあってすずしかった。
王国や、天空にあるそのほかの島々、大陸を保護する大気の被膜。内部に擁する生きものを、強烈な日差しから守る保護膜が、少々厚く設定されたのだ。
これは担当する技術者――錬金術師のオゾン調整の差異によるものである。
正常稼動範囲内での誤差ではあるものの、明日までには復旧されることになるだろう。それまでは真夏にありながら秋に突入したような気候のもとですごすこととなる。
王都の上層――七等級街区にある『エチカ商店』もまた、ぽっかりとできた熱波の休日めいた時間のなかにあった。
ホログラムのテレビを、2Dモードにして古いRPGで遊んでいたエチカは、座椅子の外にリモコンと手をほうりだして、すやすやと寝息をたてていた。
とちゅうでおそわれた眠気にまけてしまったのだ。
いつもはつけているアイマスクも忘れて、ふだん燠のように知的好奇心のたぎる金色の瞳は、白いまぶたと長い睫毛のしたにねむっている。長い金色の髪はシャツから剥き出した肩にちからなく垂れ、窓からときおり吹きこむ風にエナメル線のようなきらめきをちらつかせてゆれていた。
ベッドのうえには小夜子がいる。
小夜子――黒くつややかな長い髪に、白いカチューシャをのせている、十四才の少女である。白一色の夏用ワンピースをまとい、うつぶせに横たわるすがたは深層の令嬢もかくやという可憐さだが、足にはショートブーツを履きっぱなし。ほっぺのしたには読んでいたマンガ雑誌がひらいていた。
彼女もまた、くーくーちいさな寝息をたてていた。
古いゲーム機のなかで、RPGのソフトであるディスクが高速で回転する音が、二人のいる空間――エチカの部屋である――にかすかにひびく。
さあっと風がふく。
カーテンがゆれる。
テレビのなかで、プレイヤーの操作をなくしたデフォルメのキャラクターたちが、同じ場所で足踏みをくりかえす。
すやすや。
くーくー。
エチカも、小夜子も、ねこのようにねむりつづける。
なにもない。
ただおだやかな時間だけがある。
こんな日が好きだ。




