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フィーロゾーフィア  作者: とり
第29話 錬金術師(れんきんじゅつし)の杖(つえ)について
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錬金術師の杖について-③

 



 エチカの家のまえに浮遊(アンチグラビティ)キックボードを()めて、小夜子(さよこ)はなかに(はい)った。


(つえ)もらってきましたよー」

「おおっ、来たわね」

「なんでエチカがうれしそうなんですか」

「いいじゃないの。それで、むこうでためしに使ってみたの?」

「いえ……はやく帰りたかったんで、(はこ)もあけてないんですよ」

「なーんだ。じゃあデザインの説明(せつめい)もなしってわけね。ランボーのやつ、さぼりやがって……」

「デザイン?」


 小夜子(さよこ)はせおっていた杖の箱をおろした。カウンターテーブルに(よこ)たえる。


「デザインなんてなんでもいいですよ。使えれば」

「とはいってもね」


 エチカは外箱(そとばこ)をあけにかかる少女をそばでながめた。

 テープをはずして、ボール(がみ)のふたをかぱっとあける。


 透明(とうめい)(まる)い石――〈エーテル(せき)〉を先端にのせた、青銅(せいどう)(つえ)がすがたをあらわす。


「おおー。やっぱあたらしい杖ってなあテンション()がるわね」

「エチカだけなんじゃないですか?」


 まんざらでもないようすで小夜子(さよこ)錬金術師(れんきんじゅつし)の杖を手に取った。

 (なが)()をながめる。と、いくつかの彫刻(ちょうこく)()にとまる。


「これは? (すな)時計(どけい)……と、数字(すうじ)がいっぱい書いてる……。こっちは天秤(てんびん)?」

「ほらいわんこっちゃない。そーゆー(かお)するでしょ」


 青銅の杖には、まず中央(ちゅうおう)あたりに乳白色(にゅうはくしょく)の砂の砂時計があった。

 ほかはすべて彫刻で、魔方陣(まほうじん)や天秤、立方体(りっぽうたい)がえがかれている。


「そいつは大昔(おおむかし)偉大(いだい)錬金術師(れんきんじゅつし)工房(こうぼう)にあったとされるアイテムを()したものでね。といっても、象徴(しょうちょう)表現(ひょうげん)でしかないんだけど。工房の再現度(さいげんど)が高ければ高いほど、術者(じゅつしゃ)能力(のうりょく)を引き出しやすいっていわれてる」

「そうなんですか。……で、この絵はどういう意味(いみ)で?」

「砂時計は時間を、天秤は(おも)さをはかるものとして、錬金術師にとって必須(ひっす)とされているわ」

「へえー。……あれ? でも、エチカの杖は砂時計しかないですよね? ってゆーか、砂時計以外なにも装飾(そうしょく)はなかったような……」

「――で、立方体(キューブ)なんだけど。これは哲学者(てつがくしゃ)の石……〈賢者(けんじゃ)(いし)〉をあらわしてるの。ほんとに古代の錬金術師が持ってたかはわかんないけど、ね」

「じゃ、ここの数字がいっぱいの……」

「魔方陣ね」

「――魔方陣は、どういう意味?」

「さあ?」

「さあって……」

(わたし)もぜんぶを熟知(じゅくち)してるわけじゃないもの」

「そーゆーもんですか」


 小夜子(さよこ)は杖を両手(りょうて)でにぎりしめた。

 (ゆか)板材(いたざい)をトントンと足でふむ。

 木彫(きぼ)りの人形(にんぎょう)くらいなら作れそうだ。


「ちょっとためしてみていいですか?」

「いいわよ」


 (ゆか)を差し(しめ)小夜子(さよこ)にエチカはうなずいた。


「えーい!」

 (つえ)の先をかるく床に打ちつける。


 ぼん!!


 小気味(こきみ)よい音をたてて、変成(へんせい)(けむり)が出た。

 木彫(きぼ)りの(くま)置物(おきもの)が出現する。

 (さけ)をくちにくわえた、みやげもの()()にでもありそうな。


「できたー! なんか、思ったよりすっごいかんたんでしたよ!」

「そう。――ねえ、サヨコ。エーテル(せき)を見てみなさい。〈哲学者(てつがくしゃ)(たまご)〉を」


 術者(じゅつしゃ)の精神と変成を連絡(れんらく)する神秘(しんぴ)の石〈エーテル石〉もまた、錬金術師(れんきんじゅつし)工房(こうぼう)における象徴(しょうちょう)のひとつなのだと理解して、小夜子は上を()た。


 透明(とうめい)だった球形(きゅうけい)の石が、白色に変わっている。


(しろ)……」

「アルベドね」

「ってことは、まえが黒だったから、一歩(いっぽ)前進ってことですね!」

「そうね」


 エーテル石は、(くろ)(しろ)()(あか)四色(よんしょく)術者(じゅつしゃ)力量(りきりょう)(しめ)す。

 黒はもっとも低い(くらい)で、白はそのつぎの段階だ。もっと小夜子(さよこ)がちからをつければ、こんどは黄色に変わるだろう。

 ちなみにエチカは最上位の赤である。


 小夜子はいつのまにか(かく)()がっていたことに、歓喜(かんき)するのをおさえきれない。


「なんだかんだいって、ちゃんとわたしも上達(じょうたつ)してるんですね。さっき錬金術(れんきんじゅつ)使ったときにやりやすかったのも、レベルアップのなせるわざだったんですねー!」

「そうね……。…………」


 ぽん。

 エチカは小夜子の両肩(りょうかた)にかたほうずつ手をおいた。


「ごめんね、いままでやりづらい思いさせて……」

「はあ……?」


 よくわからなかったが、小夜子はエチカの謝罪(しゃざい)を受けとっておくことにした。


「ともあれ、自分の(つえ)ってやっぱいいもんでしょ。もっとはやく買ってやるべきだったわね」

「えへへ、そうかもですね。でも――ありがとうございます」


 小夜子は破顔(はがん)したまま言った。

 エチカが気まずそうに視線をそらす。

「そうすなおに(れい)を言われるとね……」


 そのままエチカは研究(けんきゅう)室のほうに去っていった。

 小夜子はよくわからないものの、気にすることもない。


(なんにせよ――)

 小夜子(さよこ)はポーズを取るように、青銅(せいどう)のロッドを天井(てんじょう)にかかげてみた。


「小夜子は錬金術師(れんきんじゅつし)(つえ)をてにいれた! なーんてねっ」





 

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