錬金術師の杖について-②
◇
小夜子は下層の杖屋に到着した。
キックボードを道から数センチ浮いた状態から、接地させる。
杖屋はぼろっちい建物だった。ほかの店のあいまにひっそり建っている、日陰者のような、小暗いところにかたむいていた。
看板には、十字架にヘビのからまったロゴがペイントされている。
ドアをあけて、なかに入る。
「ごめんくださーい」
小夜子が声をかけると、入りぐちから真向かいにあるテーブルからあいさつがかえってくる。
「いらっしゃーい。って、きみかあ」
「あ、ランボーさん」
小夜子は数日前に見た顔に声をあげた。
「ランボーでいいよ。杖を取りに来たのかい?」
ランボーは店番がてらやっていた読書をやめて、椅子から立ちあがった。
小麦色のやや長めの短髪に、ブラウンの瞳。ハイネックの黒いシャツを着て、手首にはアナログの腕時計を巻いている。十八才の青年だ。
一度しかあったことのない――つまりはよく知らない人なのだが、小夜子は彼がここにいるのが信じられなかった。
それにはちゃんとした理由がある。
「宮廷錬金術師になったんじゃなかったんですか? 試験は?」
「落ちました」
ばんざーい。
というよりは「まいりました―」の調子で両手をあげて、ランボーはうなだれる。
「あちゃー」
「きみの師匠には笑われたよ。さっき入荷の電話をした時になんだけどさ。落ちて杖屋ではたらいてるって言ったら、そっちのほうがだんぜんいいって」
「はあ……。ところでわたしはエチカの弟子ではありませんが」
「そうなのかい? まあなんでもいいよ」
おちこんだようすでランボーは店の奥に入っていった。
きょろりと小夜子はあたりを見回す。
せまい店内には、数点だけ術者用の長杖やステッキが展示され、値札のついた籐編みのかごには、歩行補助用杖が大量につっこまれていた。
「ほら、これがサヨコの杖だよ」
ランボーがもどってきて、カウンターテーブルに大きな箱を置く。
ほそながい矩形――小夜子の身長ほどの長さがある。
「ここでためしに使っていくかい? かんたんなものなら作れる材料はあるし、提供するけど」
「いえ、すぐに帰ります。あ、代金はこれで」
「わかった。おつりが……一三〇グロリスだね。まいどあり」
小夜子は小銭をもらって、ポケットに入れた。
きれいな箱におさめられたそのままを、ランボーから受け取る。
キックボードで来たというと、杖の箱の左右に出ている紐を調節して、せおえるようにしてくれる。
「ほら、これでよし。気をつけてね」
「はーい。ランボーも、いねむりとかしちゃだめですよ」
「しないよ。それじゃ、今後ともごひいきに」
(いねむりしないんだ……えらいなあ……)
店番をまかされているときは、もれなくおひるねしている小夜子はすこし自分がなさけなくなった。
ランボーのあいさつに会釈をして、店をあとにする。
キックボードに乗って、来た道をもどっていく。
王都の、坂なりになった大通りを、上へ――。




