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フィーロゾーフィア  作者: とり
第29話 錬金術師(れんきんじゅつし)の杖(つえ)について
70/137

錬金術師の杖について-②

 



   ◇



 小夜子(さよこ)は下層の杖屋(つえや)に到着した。

 キックボードを(みち)から(すう)センチ浮いた状態(じょうたい)から、接地させる。


 杖屋はぼろっちい建物(たてもの)だった。ほかの(みせ)のあいまにひっそり建っている、日陰者(ひかげもの)のような、小暗(おぐら)いところにかたむいていた。


 看板(かんばん)には、十字架(じゅうじか)にヘビのからまったロゴがペイントされている。

 ドアをあけて、なかに(はい)る。


「ごめんくださーい」

 小夜子が声をかけると、()りぐちから真向(まむ)かいにあるテーブルからあいさつがかえってくる。


「いらっしゃーい。って、きみかあ」

「あ、ランボーさん」

 小夜子は数日(すうじつ)(まえ)に見た(かお)に声をあげた。


「ランボーでいいよ。(つえ)を取りに来たのかい?」


 ランボーは店番(みせばん)がてらやっていた読書(どくしょ)をやめて、椅子(いす)から立ちあがった。

 小麦(こむぎ)色のやや(なが)めの短髪(たんぱつ)に、ブラウンの(ひとみ)。ハイネックの黒いシャツを着て、手首にはアナログの腕時計(うでどけい)()いている。十八才の青年(せいねん)だ。


 一度(いちど)しかあったことのない――つまりはよく知らない人なのだが、小夜子(さよこ)は彼がここにいるのが信じられなかった。

 それにはちゃんとした理由(わけ)がある。


宮廷(きゅうてい)錬金術師(れんきんじゅつし)になったんじゃなかったんですか? 試験(しけん)は?」

()ちました」


 ばんざーい。

 というよりは「まいりました―」の調子(ちょうし)両手(りょうて)をあげて、ランボーはうなだれる。


「あちゃー」

「きみの師匠(ししょう)には笑われたよ。さっき入荷(にゅうか)の電話をした時になんだけどさ。落ちて杖屋ではたらいてるって言ったら、そっちのほうがだんぜんいいって」

「はあ……。ところでわたしはエチカの弟子(でし)ではありませんが」

「そうなのかい? まあなんでもいいよ」


 おちこんだようすでランボーは店の奥に(はい)っていった。

 きょろりと小夜子はあたりを見回(みまわ)す。

 せまい店内(てんない)には、数点(すうてん)だけ術者用の長杖(ロッド)やステッキが展示され、値札(ねふだ)のついた籐編(とうあ)みのかごには、歩行補助用杖(ケーン)が大量につっこまれていた。


「ほら、これがサヨコの杖だよ」

 ランボーがもどってきて、カウンターテーブルに大きな(はこ)()く。

 ほそながい矩形(くけい)――小夜子(さよこ)の身長ほどの(なが)さがある。


「ここでためしに使っていくかい? かんたんなものなら作れる材料(ざいりょう)はあるし、提供(ていきょう)するけど」

「いえ、すぐに帰ります。あ、代金(だいきん)はこれで」

「わかった。おつりが……一三〇(ひゃくさんじゅう)グロリスだね。まいどあり」


 小夜子(さよこ)は小銭をもらって、ポケットに()れた。

 きれいな(はこ)におさめられたそのままを、ランボーから受け()る。

 キックボードで来たというと、杖の箱の左右(さゆう)に出ている(ひも)調節(ちょうせつ)して、せおえるようにしてくれる。


「ほら、これでよし。気をつけてね」

「はーい。ランボーも、いねむりとかしちゃだめですよ」

「しないよ。それじゃ、今後ともごひいきに」

(いねむりしないんだ……えらいなあ……)


 店番(みせばん)をまかされているときは、もれなくおひるねしている小夜子はすこし自分がなさけなくなった。

 ランボーのあいさつに会釈(えしゃく)をして、(みせ)をあとにする。


 キックボードに()って、来た(みち)をもどっていく。

 王都(おうと)の、坂なりになった大通(おおどお)りを、(うえ)へ――。






 

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