表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィーロゾーフィア  作者: とり
第29話 錬金術師(れんきんじゅつし)の杖(つえ)について
69/138

錬金術師の杖について-①

 



 小夜子(さよこ)は三時のおやつを食べていた。


 雲の上の錬金大国(れんきんたいこく)フィーロゾーフィア。

 その王都にある雑貨屋(ざっかや)に、小夜子は住んでいる。


 小夜子――十四才の女の子である。

 黒い長髪に黒い両目。頭にはカチューシャをつけて、おとなしめのワンピースドレスを着ている。


 夏場の王都は(あつ)かったが、ふしぎと『エチカ商店(しょうてん)』(小夜子が住み、かつはたらいている雑貨屋の名前だ。なお、今は休業中)の(にわ)はすずしかった。

 テーブル上の小型扇風機(せんぷうき)()いているのだろうか。それにしてもこの居心地のよさはなんだろうと、小夜子は思いつつシュークリームをほおばる。


 ――あっはっはっはっは!

 店のほうからエチカの笑い声が聞こえてくる。

 さきほど電話がかかってきて、彼女はそれを取りに(はい)っていったのだが、いったいだれと話しているのか。


(えらく()りあがってるなあ……)

 とは言え(なが)電話とよぶようなものでもなく、一分(いっぷん)とたたずして彼女はもどってきた。


 ガチャッ。

 ドアをあけるなり、庭のテーブルでおやつを食べている小夜子のもとにやってくる。


「サヨコ、きたわよ。やっと入荷(にゅうか)したって」

「わたし? なにがですか?」

(つえ)よ杖。このまえたのんだやつよ。私のじゃ使(つか)いにくいからって」


 エチカ――金のロングヘアに金色の双眸(そうぼう)、ティーシャツにミニスカートの若い女錬金術師(れんきんじゅつし)だ――は、何本(なんぼん)かのほそいヘアピンで大きく分けた前髪(まえがみ)のしたから、ハツラツとした笑顔で小夜子を見た。


 小夜子(さよこ)は「そういえば」と、数日前のことを思い出す。うだつのあがらない錬金術師がエチカの店にきた時に、彼女の杖を使って(おも)いとかなんとか言っていた。

 そして、自分の杖を持っていない小夜子が、ふだんエチカの杖を使って錬金術をおこなっていると知るなり、『マジか』とびっくりしていたのだ。


「わたしはべつに使いにくいって思わないんですけどー」

「いいから行ってきなさいって。ほら、これお(かね)

「わかりましたよ。でも、行くってどこに?」

「『フラメル』っていう杖屋(つえや)よ。ナマイキにも、〈フラメルの十字架(じゅうじか)にかけられたヘビ〉っていう紋章(もんしょう)看板(かんばん)にしているわ。こう……十字架にヘビがからまってて、てっぺんに(かんむり)(いただ)いているマーク」


 エチカは作業用のグローブをはめた手で、器用(きよう)にサラサラと自前の研究手帳(てちょう)に絵を()いた。


 ビリッ。

 ページを切り取って小夜子(さよこ)(わた)す。紙面(しめん)には住所も()()きされていた。


(あ、マンガで見たことあるマークだ)


 小夜子は『日本(にほん)』から、地球とは(こと)なる法則(ほうそく)(ことわり)のはたらく世界――〈ユックリッド〉に転移してしまった迷子(まいご)である。

 フィーロゾーフィア王国(おうこく)にもマンガやビデオゲーム、インターネットというサブカルチャーや設備は存在し、日本にあったものと酷似(こくじ)した作品も多々(たた)あるが、フラメルの十字架にかけられたヘビは、小夜子の記憶(きおく)では日本で読んだマンガの印象(いんしょう)がつよい。

 もっとも、故郷(こきょう)の記憶があれば送り帰されることができてしまうので、実家(じっか)に帰りたくない小夜子は、必死に前の世界での記憶がないフリをしているのだった。


 メモと、お(かね)の入った封筒(ふうとう)をポケットにしまい、エチカに確認する。


「下層の職人街(しょくにんがい)ですよね?」

「ええ。いいかげんこの(まち)の地理にもくわしくなってきたみたいね」

「まあ、()れてきた感はあります」


 エチカにてきとうに返して、小夜子(さよこ)は庭に()めている浮遊(アンチグラビティ)キックボードを取り、ドアから屋内(おくない)に移動して、玄関(げんかん)から町の大通(おおどお)りへと出ていった。


 キックボードを起動(きどう)させて、ふわりと浮かびあがる。

 最大速度20km/h、最高高度50センチメートルの乗りものをブイブイ言わせて、鼻歌(はなうた)まじりに、小夜子(さよこ)は下層の街区(がいく)目指(めざ)していった。






 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ