人混みについて
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※注意です。
・本作品は、【ガソリン】、【火炎放射器】、【焼き払う】などの表現をふくみます。すこしでも抵抗のあるかたは、読まないことをおすすめします。
ある毒の雲の上の国フィーロゾーフィアの都に、一人の小夜子と一人のエチカがいた。
二人は昼食を食べに商店街へ出てきたのだった。
「うわっ……ひどい人混み……」
「日曜日だしねえ……こりゃ日を見誤ったかな」
エチカは額に手をかざして、道路に行き来する人の波をながめた。
長い金髪に金色の目の、十八才の女錬金術師である。まだ若いながら、錬金術大国であるフィーロゾーフィア国内でも随一の知と技を誇る英才だ。
肩を出した赤色のシャツにミニスカートといった出で立ちで、小さなショルダーバッグをぶらさげた様は年相応に遊んでいそうな雰囲気だが、両手に嵌めた白い作業用のグローブが、どこかしら彼女を職人風に仕立て上げている。
そんなエチカの横で、小夜子は頭一つ分低い位置から抗議の声を上げた。黒くて長い髪に、黒い両目、夏用のワンピースにカチューシャすがたの、十四才の少女である。
「えーっ。じゃあ今から帰って大人しく自分で作ったごじ飯でも食らってろって言うんですかっ」
「そこまでは言ってないけど」
「はあ……」
小夜子はガックリとうなだれた。
「沢山の人がいるってのは、ただその場に立ってるってだけで体力使いますよね……」
「そういやサヨコは人の多いトコ苦手なんだっけ」
「はい……」
「私も賑やかなのは苦手だけどさ、そこまでグッタリするってのはほとんどないのよね。どんな感じなの?」
「どうって……フツーに近くにいる人の後頭部に灯油でもぶっかけて火炎放射器で何十人かもろともその辺を焼き払ってしまいたいと思うくらいですけど」
「ふーん。じゃあ同じように考えている人がこの人いきれの中にもう二、三十人はいてもフシギはないってわけね」
「そうですね」
エチカも小夜子も、道路を闊歩する老若男女を同時にながめた。
「そう考えると、混雑ってのはわりと頻繁に起こってるのになんの事件も起きないってのは、あんたみたいな犯罪的思考者でもちゃんと自制心を働かせてて、平和を維持するのに貢献してるからってことなのね」
「あっ、そうですね。というわけでエチカ、わたしに盛大な感謝をささげてください。エンリョはいりません。この平和の使者に、ドーンと食べ放題の焼き肉おごるなり、高級料理店のメニューを全制覇させてあげるなり、それはもう豪快に」
「いやよ。しっかしサヨコ、あんたヤケ起こすだけなら灯油とマッチでもうええやろってところを、わざわざ火炎放射器まで持って来たいってあたりに察するものがあるわね。あとガソリンじゃなくて灯油っていうチョイスになけなしの理性を感じる」
「わかっていただけてなによりです」
二人は通行人の脇を通りぬけて、ビル二階のファミリーレストランに上がっていった。
そんな感じで、フィーロゾーフィアは今日もなにごともなかった。
読んでいただいて、ありがとうございました。
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