表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィーロゾーフィア  作者: とり
第24話  フリス〇ーについて
63/137

フリ〇ビーについて

 




 がさごそ。


「……はっ!」


 小夜子(さよこ)はエチカの部屋で、あるものを発見した。


 小夜子――十四才の女の子である。黒い長髪に黒い()、あたまにはカチューシャをセットしている。ワンピース姿(すがた)小柄(こがら)な少女だ。


 日本(にほん)からここ――雲の上の王国(おうこく)フィーロゾーフィアにやって来た。一度(いちど)不審者(ふしんしゃ)として(しろ)(とら)われたものの、いろいろあって(いま)はこうしてエチカという人物の家に世話になっている。


「……こっ、これはあっ!」


 一階(いっかい)商店(しょうてん)をやっている――といっても今は休業中(きゅうぎょうちゅう)だが――家の二階(にかい)

 家主(やぬし)であり店主であり錬金術師(れんきんじゅつし)であるエチカの部屋をあさっている時だった。


 雑然(ざつぜん)とした整理(だな)足元(あしもと)に、閉じた(だん)ボール(ばこ)を発見し、勝手にガムテープをはがして物色(ぶっしょく)すると、それは出てきたのだった。


 小夜子(さよこ)はさっそくそれを持って、一階(いっかい)()りて行った。


 エチカは庭で(ほん)でも読んでいるはずだ。

 この真夏(まなつ)真昼(まひる)(あつ)いなか、よくやるものである。



   ◇



「エチカー、見てください。これ、なんだと思います?」


 いましがた二階(にかい)の彼女の部屋から取ってきた、蛍光(けいこう)グリーンのひらべったい円盤(えんばん)を両手に持って、小夜子(さよこ)は得意満面(まんめん)()く。


 エチカはサングラスを(ひたい)まで()げて、デッキチェアから()も起こさずに少女のほうを横目(よこめ)に見た。


 金色の長い髪、金色の両眼(りょうめ)。クセのある前髪(まえがみ)をヘアピンで大きく分けているせいか、元よりハデな顔が(さら)にハデに見える。そのためか、まだ十八才と、国によっては『少女』で通用する年齢(ねんれい)なのに、もういくらか大人(おとな)びた印象(いんしょう)を見る人に(あた)えていた。


 それは彼女が長身であることも手伝っている。タンクトップにミニスカート、サンダルをつけた身体は、ハイスクールの男子生徒と(なら)んで立っても同等か、少し上くらいの高さがある。事実、小夜子(さよこ)の友人の一人(ひとり)にテレサ・スピノザという十七才の男の子がいるが、彼はエチカよりいくらか背が低い。彼が同世代の少年の中でも、小柄(こがら)だということもあるけれど。


 エチカは小夜子の持っている円盤(えんばん)をながめて、息を()いた。


「フリ〇ビーね。フリス〇ーって商標(しょうひょう)だから、もろもろの都合で伏字(ふせじ)になるけど。ちなみに一般名(いっぱんめい)はフライングディスク」


「そうです。どこにあったか分かりますか?」


「私の部屋でしょ」


(じつ)はそうなんですよ」


 (わる)びれたふうなく小夜子(さよこ)はうなずく。エチカは非難(ひなん)がましく彼女を睥睨(へいげい)している。


「なんかおもしろいマンガとかゲームないかなーって探してたら、これが出てきたんです」


「あんたまた他人(ヒト)のものを勝手にさあ……」


「で、持って来たはいいんですけど、コレってどうやって(あそ)ぶんです?」


「ウソッ!? フライングディスク(フリ〇ビー)ってのはこうやって――」


 エチカは()そべっていたチェアから起き上がり、本とサングラスを(わき)にやって小夜子からフリスビーを取りあげた。


 庭の芝生(しばふ)()り立って、手首を引くように(かま)える。

 ――と、ある(ひらめ)きが(はし)った。


 ニーッコリ笑って、エチカは小夜子をやさしく見下(みお)ろす。


「いーい? サヨコ。ほーら、よーく見て。私がこれを()げたら、ちゃんと(はし)って、取ってくるのよ。わかった?」


「あははっ。(コロ)ス」


 ヒザを()げて視線の高さを()わせ、頭まで()でてばかにやさしい声で言い聞かせてくるエチカに、小夜子(さよこ)は笑顔で殺意を(くち)にした。


 どー考えても(いぬ)に対する態度(たいど)だからだ。


「チッ。フライングディスクの遊びかたも知らないクセに、自分が犬あつかいされていることだけはキッチリ理解しやがる」


「あたりまえじゃないですかっ。それより、どうやって遊ぶんです? フザけないで(おし)えてくださいよお!」


 舌打(したう)ちして悪態(あくたい)をつくエチカに、小夜子は肩をいからせた。もう笑顔ではなく、表情もフツーに(おこ)っている。


真剣(しんけん)に教えるほどのものでもないけどね」


 長い髪をうっとうしそうにうしろに()いやって、エチカは庭を(かこ)(へい)のほうにねらいを(さだ)めた。


「だからさ、これはこーやって、水平(すいへい)に持って、引いて、ぱっと投げる――」


 エチカが説明しながら動き、フライングディスクを(はな)す。

 蛍光(けいこう)グリーンの円盤は、クルクル回転して空中(くうちゅう)をすべるように飛んだ。


「わあー! すごい! 飛んだ! おもしろそう! わたしもやっていいですか!?」


「べつにいいけど……」


 パタパタ走って()ちたフライングディスクを(ひろ)いに行く黒髪(くろかみ)の少女の背中を、あきれるやら微笑(ほほえ)ましいやら、複雑な微笑(びしょう)で見やって、


「あんた、けっきょく走って追い駆けてったわね」


「いいじゃないですか。あ、エチカはそこに立ってて。わたしが投げるから、キャッチしたら返してくださいっ。いきますよー」


 小夜子(さよこ)はさっき見た手本(てほん)通りにフライングディスクを引いて、投げた。

 まっすぐに円盤が飛んでいき、エチカがキャッチする。


「公園でこうやってあそんでるガキがいるけどさ。これっていつ()わりにするの? 私、そろそろ読書にもどりたいんだけど」


「もーちょっとっ! もうちょっとだけ! わたしが()きるまでは付き()ってくださいよ! いいでしょ普段(フダン)あんだけコキ使ってるんだからたまには」


人聞(ひとぎ)(わる)いわねー」


「わーっ! いきなり投げないでくださいよおっ!」


 ヒュウンと頭上(ずじょう)に飛んできたフライングディスクを、小夜子はジャンプして受け止めた。


 小夜子(さよこ)はそうして人生(はつ)のフライングディスクを、心ゆくまで堪能(たんのう)した。


 気がつけば夕方(ゆうがた)になっていた。






 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ