たまごかけごはんについて
カチャカチャカチャカチャ。
生卵を溶く音がする。醤油はすでに投下済み。
日本ではなくフィーロゾーフィアという空の上の西洋風王国の食卓だが、小夜子の朝食は本日てんこ盛りのごはんに生卵といったものだった。
みそ汁もある。作った。
みそは市販のものだが。
あったかごはんに、溶いた卵をかける。それを均等に黄金色になるまで箸でかき混ぜて、小夜子は対面の席でトーストをかじっている若い女に見せた。家主のエチカである。
「じゃーん。見て下さいエチカ。これ、何だと思いますか?」
「山盛りごはんに生卵をぶっかけただけの何かね」
「ふふーん。これはねー、『黄金のごはん』っていうんですよ。あんまり知られてないでしょうけど、すっごい高級な料理なんです。いーでしょー」
小夜子は元の世界で通っていた中学校では一度も見せなかった笑顔でドヤッと胸を張る。
エチカは金色の目を半眼にして、ハッと息を吐いた。
「んなわけないでしょ。なーにがゴールデンライスよ。ただの卵かけごはんでしょ」
「知ってたならそう言って下さいよっ。なんで一回知らないムーブかましたんですか! いやらしい!!」
「サヨコのことだからまたしょーもないマネするんだろーなって思ったからカマかけてみたのよ。期待以上にしょーもなかったわ」
「くううっ……」
あっけなく看破され、小夜子は悔しがった。
ハンカチがあったら噛んでいただろう。しかし無いからテーブルクロスを噛むしかないのだ。
「はあ……そーです。ただの卵かけごはんですよ。いつも安価で手軽においしい、庶民の味方です」
「とは言え今より米や卵の価格が2.5倍に跳ね上がり、食べざかりの幼気な少年少女紳士淑女にごはんのおかわりをやめさせるような事態にでもなれば、高級品にもなるんだろうけど」
「やだなあエチカ、そんな日が来るわけないじゃないですか」
「来たらどうする?」
「えー」
小夜子はエチカの質問に少し考えた。
拳を固めて答える。
「二度とそんな日が来ないことを願うばかりですね」




