幸せについて
いつものようにカチューシャをつけた、いつものように黒髪ストレートロングの小夜子(十四才の女の子。本作の主人公)が、いつものようにワンピースを着て、居候している家の庭のデッキチェアに寝そべっていた。
雲の上の国であるフィーロゾーフィアは、本日も快晴だ。
はじめは「雲の上なんだから雨になるわけないじゃないか」と決め込んでいた小夜子だが、実際はさにあらず。
雨の時もある。
朝からギンギラギンで気温三十度越えで、庭に干した洗濯物がカラッカラに乾くな。うれしいな。といった蒼穹の下、あお向けに寝て、やることもなくダラダラ無為に時間を空費している小夜子は独りごちた。
「今日はこんなにお天気で、やることもなく、特にだれか来ることもなく、ただ漫然とダラダラごろごろしてるだけなんて……最高ですよね~」
「……あのさあ」
うろんな顔が小夜子を見下ろす。家主のエチカだ。
金色の長髪と金色の眼。手には作業用のグローブをはめた十八才の女錬金術師。学者だが、遊んでいても結果を出せるタイプの人らしく、服装は肩や脚をさらした、ハデ目の色彩のものである。
エチカは外で読書でもと思って持ってきた資料を一冊肩にかつぐようにして、ふぬけたツラをさらす小夜子をながめているのだった。
「あんたって、幸せ者よね」
「えへへ。うらやましいでしょー」
「ええ」
ドヤっと破顔する小夜子を、ドゲッとエチカは蹴り落とす。
デッキチェアからあっけなく小柄な身体がころがって、芝生にひっくり返った。
「痛っ! なにするんですか!」
「なにもへったくれもないでしょーが。ここは私の特等席よ。なに勝手に占領してんのよ」
入れ替わるようにエチカはデッキチェアにもたれて、本をひらいた。
小夜子は座席の縁にしがみついて不服を訴える。
「理不尽です。せっかく気分はパラダイスだったのに……一気に不幸のどん底ですよ……」
科学史のページをめくり、持ってきていたペットボトルのミルクティーを一口飲んで、エチカは半ば呆れながら小夜子に言い返した。
「そんなことも言えるなら、あんたはやっぱり幸せよね」




