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フィーロゾーフィア  作者: とり
第20話 夏休みについて
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夏休みについて-④

 




「ったく、こんなトコおったらこっちまでノーミソ(くさ)ってまうで」

 ミルは半眼(はんがん)になってエチカに吐き捨てた。


「じゃあ来ないでよ。こちとらお呼びじゃないんだから」


「ケッ! ほら帰んぞアリサ、テレサ!」

 うしろを向いて、背後(はいご)の子供たちを(なわ)を引っぱってうながす。


「うっ……うっ……か、帰りたくないよう……」


「男がそんなことで泣くな! おまえ今年で大人(おとな)なんやぞ! 誰からそんな(なさ)けない性格もろたんや」


「お父さまが若いころは、泣き虫の弱虫だったとお母さまが……」


「なんか言うたかあ? アリサ」


「いえ、べつに……」

 アリサは赤いポニーテールを揺らしてそっぽをむいた。


 ミルが黒いヒゲの中で息を鳴らし、二人(ふたり)を引っ立ててエチカの部屋を出る。


 はずれたドアの外――二階(にかい)廊下(ろうか)から、三人は階下に消えた。


 無人(むじん)になった空間をポカンとながめて、小夜子(さよこ)がエチカに問う。


「……大丈夫なんでしょうか、アリサとテレサ」


「さあね。でも、いーじゃないの。やっとこさ静かになったんだから」


 エチカはせっかく作った荷物を、「ムダになっちゃったわね」と足で小突いた。

 もう旅に出る予定はない。キャリーケースを床に倒して、バンドをほどきにかかる。


 ダンダンダンダン!


 足音が戻ってきた。

 アリサ、テレサ、ついでにミルが再びやってくる。


 足音はミルのものだが。


「ゴルアあ! インチキ錬金術師い!!」


「今度はなんなのよ」

 うんざりとエチカ。


「おまえに仕事くれたらあ! ワシのホバービークル修理したらんかい!」


「イヤよ」


(まあそうなりますよね……)


 ミルの横柄(おうへい)物言(ものい)いでは、エチカでなくとも(ことわ)りたくなる。


 ぼんやりと小夜子(さよこ)傍観(ぼうかん)するそばで、エチカが荷解(にほど)きの手を止めて立ち上がった。

 傲然(ごうぜん)と目線を高くする。相手をしっかり見下(みくだ)す姿勢。


「人にものを(たの)むなら、それ相応(そうおう)礼儀(レーギ)ってもんがあるわよねえ?」


 まっすぐに(さげす)みの視線を向けられて、(ひたい)青筋(あおすじ)を浮かべるミル。

 指輪をゴテゴテ()めた太い手を、(かた)(こぶし)にしてブルブル戦慄(わなな)かせる。


「うククぅッ……このっ……こんガキャあ……」


 しかし豪商(ごうしょう)の名はダテではないのか、彼は思い留まった。

 帽子(ぼうし)()せた頭を下げる。ひざまずきこそしなかったが。


「わ、分かった。この通りや。オモテに来てくれ、ほんで乗りもんなおしてくれや」


「最初っからスナオにそーしてりゃいいのよ」


 ハンッと勝ち(ほこ)ったようにエチカが鼻で笑う。

 ミルの血管は今にも切れそうなほどにふくらみ、震えていた。


「おんどれ……い、いつか殺す」


 彼の剣呑(けんのん)さに(あや)ういものを感じたわけではないものの――そもそもエチカは殺したって死にそうにない――小夜子(さよこ)はチョイチョイ家主(やぬし)のシャツを引っぱって中天(ちゅうてん)の外にうながした。


「早く行きましょうよ。アリサとテレサも、あんまり身動き取れないままでいるのは、キュウクツでしょうし」


 しっかり父親にロープを握られたままの、(あわ)れな子供たち――全身をグルグル巻きにされているのが、(なみだ)をさそう――を横目にして、


「それもそうね」

 エチカはさっさと移動(いどう)した。




 

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