夏休みについて-④
「ったく、こんなトコおったらこっちまでノーミソ腐ってまうで」
ミルは半眼になってエチカに吐き捨てた。
「じゃあ来ないでよ。こちとらお呼びじゃないんだから」
「ケッ! ほら帰んぞアリサ、テレサ!」
うしろを向いて、背後の子供たちを縄を引っぱってうながす。
「うっ……うっ……か、帰りたくないよう……」
「男がそんなことで泣くな! おまえ今年で大人なんやぞ! 誰からそんな情けない性格もろたんや」
「お父さまが若いころは、泣き虫の弱虫だったとお母さまが……」
「なんか言うたかあ? アリサ」
「いえ、べつに……」
アリサは赤いポニーテールを揺らしてそっぽをむいた。
ミルが黒いヒゲの中で息を鳴らし、二人を引っ立ててエチカの部屋を出る。
はずれたドアの外――二階の廊下から、三人は階下に消えた。
無人になった空間をポカンとながめて、小夜子がエチカに問う。
「……大丈夫なんでしょうか、アリサとテレサ」
「さあね。でも、いーじゃないの。やっとこさ静かになったんだから」
エチカはせっかく作った荷物を、「ムダになっちゃったわね」と足で小突いた。
もう旅に出る予定はない。キャリーケースを床に倒して、バンドをほどきにかかる。
ダンダンダンダン!
足音が戻ってきた。
アリサ、テレサ、ついでにミルが再びやってくる。
足音はミルのものだが。
「ゴルアあ! インチキ錬金術師い!!」
「今度はなんなのよ」
うんざりとエチカ。
「おまえに仕事くれたらあ! ワシのホバービークル修理したらんかい!」
「イヤよ」
(まあそうなりますよね……)
ミルの横柄な物言いでは、エチカでなくとも断りたくなる。
ぼんやりと小夜子が傍観するそばで、エチカが荷解きの手を止めて立ち上がった。
傲然と目線を高くする。相手をしっかり見下す姿勢。
「人にものを頼むなら、それ相応の礼儀ってもんがあるわよねえ?」
まっすぐに蔑みの視線を向けられて、額に青筋を浮かべるミル。
指輪をゴテゴテ嵌めた太い手を、硬い拳にしてブルブル戦慄かせる。
「うククぅッ……このっ……こんガキャあ……」
しかし豪商の名はダテではないのか、彼は思い留まった。
帽子を載せた頭を下げる。ひざまずきこそしなかったが。
「わ、分かった。この通りや。オモテに来てくれ、ほんで乗りもんなおしてくれや」
「最初っからスナオにそーしてりゃいいのよ」
ハンッと勝ち誇ったようにエチカが鼻で笑う。
ミルの血管は今にも切れそうなほどにふくらみ、震えていた。
「おんどれ……い、いつか殺す」
彼の剣呑さに危ういものを感じたわけではないものの――そもそもエチカは殺したって死にそうにない――小夜子はチョイチョイ家主のシャツを引っぱって中天の外にうながした。
「早く行きましょうよ。アリサとテレサも、あんまり身動き取れないままでいるのは、キュウクツでしょうし」
しっかり父親にロープを握られたままの、哀れな子供たち――全身をグルグル巻きにされているのが、涙をさそう――を横目にして、
「それもそうね」
エチカはさっさと移動した。




