夏休みについて-①
「じゃ、またあとでなー、テレサ」
「またあとで会おうね、アリサちゃん」
王都の学校から生徒たちが吐き出されていく。
フィーロゾーフィア王国の紋章を胸に刺繍した、ブレザーの制服。
手を振る同学年の少年、少女たちに、テレサとアリサは手を振りかえした。
「うん、またねアーネスト」
「まちあわせ場所、まちがえないようにしてくださいまし、クリスティ」
生徒用の駐輪場に、よく似た顔をふたつならべて、アリサとテレサは向かっていく。
それもそのはず、二人は双子だった。
二卵性の双生児なので、うりふたつになるのが絶対というわけではないが、二人はよく似ていた。
フィーロゾーフィアでは主流の、電動浮遊キックボードを専用のラックからはずし、ハンドル部分のスターターを回して起動する。
テレサ――キャスケット帽をのせた、赤い短髪に愛嬌のある顔の少年は、待ちきれないとばかりにスピードを上げてせまい駐輪場から校庭におどり出た。
律儀な姉のアリサは、ボードを押して校庭に出てからホバー起動させる。
風切る音をヒュンヒュンいわせて、校門まで飛ばした。
すれちがう生徒たちのなかには、徒歩での通学もおり、それが大多数だが、みな一様にうき足立っている。
「夏休みだー!」
何百年かまえまで王国の伯爵が住んでいたという大邸宅――というか城だ――をそのまま校舎として再利用したスクールから出てくるなり、テレサは快哉をさけんだ。
「夏休みですわー!」
アリサもピッタリハモるかたちでさけんでいた。
王城のほぼとなりにある学校から、城下町へとつづく坂なりの大通りを一気に下りていく。
落下防止用にそなわっている鉄の柵の下は、ひたすらまっ白な雲海。
ここフィーロゾーフィア王国は、毒の雲の上にある。
フィーロゾーフィアだけではない。天上の世界〈ユックリッド〉は、雲の上に錬金技術によって人工的に浮かびつづける、島々と大陸によって構成された世界なのだ。
通行人のめいわくもよそに、スピードを出したまま中層の自宅をめざすアリサとテレサ。
二人はこれからの予定を、どちらからともなく確認していた。
「とりあえず家帰ってー、着替えてー、アーネストたちと旅行の準備にいかなきゃなんだよね。アリサはどっかいくの?」
「クリスティたちと海に。水着を買いたいからついてきてと言われたので、デパートに見にいくのですわ」
「げっ、じゃあボクたちと会っちゃうかも。ってゆーか海って、それもボクらと同じとこなんじゃないの?」
「かもね。フツーに海水浴で有名な〈ケーショウ・シティ〉に行きますから。わたくしは山でもよかったのですけれど」
「やっぱボクらと同じだ! 向こうで会ってもジャマしないでよ? 男だけで遊ぼーって約束なんだから」
「そりゃこっちのセリフですわ。わたくしたちだって女だけで遊ぼうって話なんですから。あとデパートで見かけても声かけないで」
「分かってるよ」
休暇中の旅行の目的地がかぶってしまい、アリサとテレサのテンションが若干さがる。
「ねえ」
とテレサが横のアリサにささやくように訊いた。
「今年も実家に帰らなくていいの? 成人式だってあるんだしさー、お父さん、うるさいんじゃないかなあ」
「まあまあ! じゃあ、テレサは帰ればよろしいじゃありませんの。わたくしは式になんて出席するつもりはこれっぽっちもありませんわ。永遠に子どもでいるのです」
「それ聞いたらお父さん絶対キレるよね」
トホホとうな垂れるテレサ。しかし姉の言は、そのまま自分の意見でもあった。
テレサも成人式には出たくないのだ。市長のタイクツな話を聞いて、地元のかつてのクラスメイトと顔を合わせるかもとなれば、出ないほうがいいに決まっている。
(そうでなくても、家に帰ると……)
ピピピピピ。
二人が異口同音に懸念しているとき、二人の上空で、あやしげなセンサーが目を光らせていた。
――発射。
アリサとテレサの視界のおよばぬところ――うしろの上空から、グンと伸びる金属の腕がある。
「えっ!」
「きゃあっ!?」
がし!
ぐわしっ!!
空から伸びた二本の鋼鉄のアームが、アリサとテレサの胴を、それぞれわし摑みにする。
「ぎーやあああ!!」
「でええええ!? エチカ様ー!!」
テレサはシンプルに悲鳴をあげ、アリサは初見の人なら「だれやねんそれ」となりそうな人名をつけ足した
キックボードを残して、双子の姉弟は空につり上げられる。
多くの通行人が、「なんだなんだ」とザワつき、見上げるなか、二つのアームは一体の乗りもののそばに、体よくおさまった。
それはUFOだった。
土管を短く切った本体に、ガラスのドームをくっつけたフォルムの。
そして透明な覆いのなかに――操縦席には、あやしいかげが一人分、おさまっていた。




