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フィーロゾーフィア  作者: とり
第20話 夏休みについて
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夏休みについて-①

 




「じゃ、またあとでなー、テレサ」

「またあとで会おうね、アリサちゃん」


 王都の学校から生徒たちが()き出されていく。

 フィーロゾーフィア王国の紋章(もんしょう)を胸に刺繍(ししゅう)した、ブレザーの制服。


 手を振る同学年の少年、少女たちに、テレサとアリサは手を振りかえした。


「うん、またねアーネスト」

「まちあわせ場所、まちがえないようにしてくださいまし、クリスティ」


 生徒用の駐輪場(ちゅうりんじょう)に、よく似た顔をふたつならべて、アリサとテレサは向かっていく。


 それもそのはず、二人(ふたり)は双子だった。

 二卵性(にらんせい)双生児(そうせいじ)なので、うりふたつになるのが絶対というわけではないが、二人(ふたり)はよく似ていた。


 フィーロゾーフィアでは主流の、電動浮遊キックボードを専用のラックからはずし、ハンドル部分のスターターを回して起動する。


 テレサ――キャスケット(ぼう)をのせた、赤い短髪に愛嬌(あいきょう)のある顔の少年は、待ちきれないとばかりにスピードを上げてせまい駐輪場から校庭におどり出た。

 律儀(りちぎ)(あね)のアリサは、ボードを押して校庭に出てからホバー起動させる。


 風切(かぜき)る音をヒュンヒュンいわせて、校門まで飛ばした。

 すれちがう生徒たちのなかには、徒歩(とほ)での通学もおり、それが大多数だが、みな一様(いちよう)にうき足立っている。


「夏休みだー!」


 何百年かまえまで王国の伯爵(はくしゃく)が住んでいたという大邸宅(だいていたく)――というか城だ――をそのまま校舎として再利用したスクールから出てくるなり、テレサは快哉(かいさい)をさけんだ。


「夏休みですわー!」

 アリサもピッタリハモるかたちでさけんでいた。


 王城(おうじょう)のほぼとなりにある学校から、城下町へとつづく(さか)なりの大通りを一気(いっき)に下りていく。


 落下(らっか)防止用にそなわっている鉄の(さく)の下は、ひたすらまっ白な雲海(うんかい)

 ここフィーロゾーフィア王国は、(どく)の雲の上にある。


 フィーロゾーフィアだけではない。天上(てんじょう)の世界〈ユックリッド〉は、雲の上に錬金(れんきん)技術によって人工的に浮かびつづける、島々と大陸によって構成された世界なのだ。


 通行人のめいわくもよそに、スピードを出したまま中層の自宅をめざすアリサとテレサ。

 二人(ふたり)はこれからの予定を、どちらからともなく確認していた。


「とりあえず(いえ)帰ってー、着替(きが)えてー、アーネストたちと旅行の準備にいかなきゃなんだよね。アリサはどっかいくの?」


「クリスティたちと海に。水着(みずぎ)を買いたいからついてきてと言われたので、デパートに見にいくのですわ」


「げっ、じゃあボクたちと会っちゃうかも。ってゆーか海って、それもボクらと同じとこなんじゃないの?」


「かもね。フツーに海水浴で有名な〈ケーショウ・シティ〉に行きますから。わたくしは山でもよかったのですけれど」


「やっぱボクらと同じだ! 向こうで会ってもジャマしないでよ? 男だけで遊ぼーって約束なんだから」


「そりゃこっちのセリフですわ。わたくしたちだって女だけで遊ぼうって話なんですから。あとデパートで見かけても声かけないで」


「分かってるよ」


 休暇中(きゅうかちゅう)の旅行の目的地がかぶってしまい、アリサとテレサのテンションが若干(じゃっかん)さがる。


「ねえ」

 とテレサが横のアリサにささやくように()いた。


「今年も実家(じっか)に帰らなくていいの? 成人式だってあるんだしさー、お父さん、うるさいんじゃないかなあ」


「まあまあ! じゃあ、テレサは帰ればよろしいじゃありませんの。わたくしは式になんて出席するつもりはこれっぽっちもありませんわ。永遠に子どもでいるのです」


「それ聞いたらお父さん絶対キレるよね」


 トホホとうな()れるテレサ。しかし姉の(げん)は、そのまま自分の意見でもあった。


 テレサも成人式には出たくないのだ。市長のタイクツな話を聞いて、地元のかつてのクラスメイトと顔を合わせるかもとなれば、出ないほうがいいに決まっている。


(そうでなくても、家に帰ると……)


 ピピピピピ。

 二人(ふたり)異口(いく)同音に懸念(けねん)しているとき、二人(ふたり)の上空で、あやしげなセンサーが目を光らせていた。


 ――発射。


 アリサとテレサの視界のおよばぬところ――うしろの上空から、グンと()びる金属の腕がある。


「えっ!」

「きゃあっ!?」


 がし!

 ぐわしっ!!


 空から伸びた二本(にほん)鋼鉄(こうてつ)のアームが、アリサとテレサの(どう)を、それぞれわし(づか)みにする。


「ぎーやあああ!!」

「でええええ!? エチカ(さま)ー!!」


 テレサはシンプルに悲鳴(ひめい)をあげ、アリサは初見(しょけん)の人なら「だれやねんそれ」となりそうな人名(じんめい)をつけ足した


 キックボードを残して、双子の姉弟(してい)(そら)につり上げられる。

 多くの通行人が、「なんだなんだ」とザワつき、見上げるなか、(ふた)つのアームは一体(いったい)の乗りもののそばに、(てい)よくおさまった。


 それはUFOだった。

 土管(どかん)を短く切った本体に、ガラスのドームをくっつけたフォルムの。


 そして透明な(おお)いのなかに――操縦(そうじゅう)席には、あやしいかげが一人分(ひとりぶん)、おさまっていた。





 

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