生まれてきた意味について
フィーロゾーフィア王国、王都にある雑貨屋。
店主の名を取って『エチカ商店』というその建物には、二人の女性が住んでいた。
一人はエチカ。十八才の錬金術師である。
長い金髪に金色の眼。クセのある前髪を、ヘアワックスと細いヘアピンで格闘した結果、大きく分けることに成功している。
肩や脚を惜しみなく出したのスリーブとミニスカといった格好がいつもの服装で、それは今日も変わらなかった。
なんなら冬もかわらずそのルックスでいそうなものだ。今は夏だが。夏休みだが。
「たまに思うんですよねー」
店一階のリビングダイニングで少女は言った。
朝食の席である。
少女の名前は不知火 小夜子。
雑貨屋の二階に住む、もう一人の住人である。
長い黒髪に大きな眼の、日本出身の十四才。
かつていた国には、フィーロゾーフィアをはじめとする、空に浮かぶ島や大陸なんてなかったので、最初は仰天したものの、もうすっかり慣れたものだ。
世話になっているエチカの家で、朝食のサンドイッチをついばみながら、小夜子は嘆息した。アンニュイに。
「わたしが生まれてきた意味って、なんなんでしょう。蓮の家まで振り捨ててきて……」
「あんたさあ」
蓮の家は極楽浄土にあるという。
極楽は平和で苦しみのない世界。そんなものを退けてまで、ふたたび穢土にやって来た意味はなんなのか。
実際に小夜子が極楽にいたわけではないので、比喩的な表現にすぎないが。
エチカもそれは分かっていたが、よもや目の前の少女が言葉通りの内容について思いを馳せているとも思えず、言った。
「『蓮の家を振り捨てて』ってフレーズを使いたかっただけでしょ」
「はい♡ きのう覚えたばかりなんです」
小夜子は答えて、サンドイッチに齧りついた。




