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フィーロゾーフィア  作者: とり
第15話 怒(いか)りについて
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怒りについて

 




「ちょわー! たあっ! やあー!」


 (そら)の上の王国フィーロゾーフィア。

 (どく)の雲の上に浮かぶ島にある王都で、小夜子(さよこ)はさけんでいた。


 錬金術師(れんきんじゅつし)(いとな)雑貨(ざっか)屋『エチカ商店(しょうてん)』の庭である。

 空飛ぶバイクや浮遊(ふゆう)するキックボードを()めた芝生(しばふ)(はし)で、小夜子は()()りをしたり正拳突(せいけんづ)きをくり出したりしていた。


 不知火(しらぬい) 小夜子(さよこ)――十四才の女の子でる。

 長い黒髪に白いカチューシャをつけた、黒い()の日本人。


 フィーロゾーフィアにはちょっとしたハプニングによって流れつき、国王のはからいで『エチカ商店』に住まわせてもらうことになった。

 また、店主のエチカの厚意(こうい)(?)で従業員(じゅうぎょういん)として(やと)われている身でもある。


 ただ現在は夏休み期間中で、店は長い休暇(きゅうか)にはいっているため、開店時刻(じこく)の午前九時をすぎても、こうして庭でヒマをもてあますことができている。


「どおおりゃあー!」

 ワンピースドレスのスカートがひるがえるのもかまわず(レギンスをはいてるから()ずかしくないのだ)小夜子(さよこ)は空中で二回(にかい)連続蹴りを放つ。


「あんたさー」


 研究室のドアが()いて、たまりかねたといった塩梅(あんばい)でエチカが言った。


「さっきからドッスンバッタンなにやってるわけ? 格闘技(かくとうぎ)にでも目覚めたの?」

「なに言ってるんですかエチカ! 見てわかりませんか?」


 小夜子は「ほわちゃー!」と気合(きあい)()いて、アッパーカットした。


 エチカ――長い金髪に気丈(きじょう)な金色の()の若い女性だ。


 前髪をいくつかの(ほそ)いヘアピンで()きあげて、ものがよく見えるようにしている。

 (そで)なしのシャツにミニスカート、薬品をいじっていたらしく、その上から白衣(はくい)をひっかけている。


 両手には作業用の手袋(てぶくろ)をつけていて、ところどころ焼けたり()けたりしていた。

 片手には自分の身長ほどもある長い(つえ)を持っていて、その先端(せんたん)には最高位の錬金術師であることを(しめ)す〈(ルベド)〉の丸い石がおさまっていた。


 エチカはあいかわらず虚空(こくう)に向かって(こぶし)を打ちつづける少女をながめる。


「わっかんないわねー。格闘ゴッコじゃないなら(なに)よ? ケンカの練習?」


「ちがいますー。(おこ)る練習ですよ、怒る練習!」


「また(みょう)なことやってるわね」


「なに言ってるんですか、大事(だいじ)なことなんですよ。こーやってたまに理由もなく(おこ)っとかないと、いざって時に(こま)るんですから」


「あんたいっつも怒ってるじゃない」


「訓練の甲斐(かい)ありというわけですね。わたしだっていつでもニコニコしてるのではないということです。笑って(ゆる)す日もあれば、怒って(いまし)めることもあるという、そのキレイなお手本ですよ」


「決して見習(みなら)いたいとは思わないけどね」


「そーやって(しゃ)にかまえてられるのも今の内ですよ。エチカもほら、たまには皮肉(ひにく)るのをやめて、ちょっとは素直(すなお)に怒る練習をしてみたらどうですか。じゃなきゃいま以上に根性(こんじょう)ねじくれて取り返しのつかないことになりますよ。破綻済(はたんず)みの性格が崩壊済(ほうかいず)みになるまえに――」


 ボコバキグシャドゴッ!!


 エチカはトクイ()に胸を張る小夜子(さよこ)を持っていた杖で(なぐ)った。


 星のまたたき。

 血の味。

 頭からネジの取れる感覚――もしくは衝撃(しょうげき)


「なるほど、たしかにたまには怒ってみるもんね。スッキリしたわ」


 パンパン、と手をたたいて、エチカは研究室に引っ込んでいった。

 あとにはボッコボコになった小夜子(さよこ)が、庭の芝生(しばふ)にうつぶせになって倒れているだけで。


 小夜子はこれからは(ぎゃく)ギレする練習もしておこうと(おも)った。





 

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