表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィーロゾーフィア  作者: とり
第13話 音楽について
46/137

音楽について

 




 (そら)の王国〈フィーロゾーフィア〉の王都は、メインストリートこそ下層、中層、上層のエリアへスムーズに行くために、大きく一本道(いっぽんみち)で分かりやすいものの、横道(よこみち)にそれればその限りではない。


 街区(がいく)と街区のあいだに、スッポリとできた、めずらしく大きい広場。


 植木(うえき)や井戸で近所の人の(いこ)いの場となったスクエア型の公園に、小夜子(さよこ)は来てしまった。


 長いストレートの黒髪に、黒い両眼(りょうめ)の女の子である。

 (とし)は十四だが、小柄(こがら)な身体と(おさな)い子供がつけるようなワンピースドレス、リボン(かざ)りのついた白いカチューシャの服装が、必要以上に彼女を年下に見せる。


(家に帰ろうとしたのに)


 近道をしたのが迷子(まいご)への()(ぐち)だった。


 こことは(こと)なる世界の、日本(にほん)という国からやってきた小夜子(さよこ)だが、フィーロゾーフィアでもうだいぶと()ごしているし、たまには冒険心にまかせて()り道をしてもよかろうと、大通(おおどお)りを(わき)へそれてしまったのだ。


 広場にはいくつかのベンチが出ていた。

 楽器を手にした若者が四人、なにやら準備をしている。


 ベンチにはすでに何人もの人が着席していた。

 老人や子供が多いが、()()の人たちもいて、そちらは圧倒的に、十代から三十代ほどまでの若年層(じゃくねんそう)が多かった。


(ここで(なに)が?)


 雑談(ざつだん)でにぎわう広場の中心を、小夜子(さよこ)は人だかりのうしろからのぞき込んだ。

 と、(かた)をたたかれる。


「このわたしになにをするんですかこの狼藉者(ろうぜきもの)おー!!」


 相手の手を(はら)いざま、振り返ってポケットにたまたま(しの)ばせていたハサミを閉じたまま()きを放つ。


 ――()だ! 目をねらうんだ!!


 脳裏(のうり)にまたたく必殺の声の(みちび)くまま、小夜子は(やいば)(てき)の眼球に肉薄(にくはく)させた。


「殺し屋かなんかかアンタは」


 コンッ。

 ハサミの()(さき)(つえ)先端(せんたん)が当てられる。


 赤い丸い宝石が、()(ぬし)である〈錬金術師(れんきんじゅつし)〉の意を(かい)して、ステンレスの刃を()けさせる。


 ボン!


 ハサミは鋼鉄(こうてつ)製のハンコになった。

 把手(とって)はハサミの形のままなので、シルエットだけならまるでウサギの()きものだ。


「ああっ!」

 小夜子(さよこ)は相手の顔を見て悲鳴(ひめい)をあげた。


 ぐいっ。

 鉄の部分をひねられ、あっけなく(もと)ハサミ((げん)スタンプ)を取りあげられる。


 無防備(むぼうび)にあいたおデコに、ポンッ! と金属のつめたい感触(かんしょく)がぶつかった。


 『バカ』


 と見る人の(がわ)からは読める。

 小夜子(さよこ)にはむろん見えない。カガミでもないかぎりは。


「エチカ!」

「はあい」


 スタンプをベルのように振って、長い金髪(きんぱつ)に金色の()の、若い女錬金術師が(かる)いアイサツをした。

 小夜子の下宿(げしゅく)先の家主(やぬし)であり、(やと)い主のエチカだ。


「なあんだ、おどかさないでくださいよ~」

「そりゃこっちのセリフだっつーの。まさか(かた)たたいてハサミが飛んでくるとは思わなかったわよ」


 変形させてハンコになった(もと)ハサミを横目(よこめ)にやって、エチカは小夜子(さよこ)に返す。


「だってエチカは〈地上(ちじょう)〉に行って、一週間(いっしゅうかん)も帰ってこなかったんですもん。てっきりもう死んじゃって、あなたの所有する物件(ぶっけん)も財産もぜんぶわたしのものになってるつもりでいましたよ」

「うかうか()(みち)もしてらんないわね」


 エチカはもう片方(かたほう)に持っていた杖でトントン自分の肩をたたいた。


調査(ちょうさ)から帰ったついでで、よその町を旅行してたのよ。王都に(もど)ってきたのはついさっき。地上に行くのに使ったバイクと荷物(にもつ)は、ぜんぶ王立(おうりつ)研究所の連中に持ってかれちゃった。あいつら、いつも()ちぶせしてんのよね」


「はー。あ、それでエチカもここに(まよ)い込んじゃったんですね。近道しようとして」


「なワケないでしょ、今日は前から野外(やがい)ライブやるってビラが(くば)られてたから、ついでに()いてこうってなっただけよ」


「はあ……」

 小夜子(さよこ)はギターやドラム、アンプをいじっている面々(めんめん)をながめた。


上手(じょうず)だったらいいですけど、そうじゃなかったらわたしは帰りたいです。(みち)(おし)えてくださいよ」

「そこそこうまいわよ。ところでタイヤキ食べる?」

「カスタードなら食べます」


 エチカは(つえ)の先にぶらさげていた、手提(てさ)げタイプの紙袋(かみぶくろ)を下ろした。


「残念ね。(くろ)あんと(しろ)あんしかないわ」

「じゃあ白あんだけ食べます」

「『じゃあいりません』とはならないわけね」


 エチカはタイヤキを出して、()ってなかを見てから小夜子(さよこ)にわたす。


 ギュイーン!

 エレキギターの音がひびく。


 なんの口上(こうじょう)もなく音楽がはじまった。

 ドラムの正確なリズムと、ギター、ベースの明確な音階(おんかい)。三人のクセをカバーするエレクトーン。


「エレクトーンだけレベルちがいません?」

「いやー、ギターも相当(そうとう)なもんよ。てか全体的にレベル高いし。(まえ)より格段にうまくなってる」


 ()いている人たちは、口々(くちぐち)にエチカと小夜子(さよこ)と似たようなことをささやき合う。


 小夜子は白あんのタイヤキをまくまく()べながら、アップテンポな、流行風(りゅうこうふう)の曲のいくつかに聴き()った。


 すこしでもイヤ()がさしたら帰ろうと決めていたが、結局(けっきょく)は最後まで四人のバンドを聴いていた。


 ほとんどの(きゃく)が、彼らの演奏(えんそう)をアンコールまで鑑賞(かんしょう)して、拍手(はくしゅ)喝采(かっさい)(まく)を閉じた。


 四人の演奏家(えんそうか)は、終了のアイサツとお(れい)だけをして、片付けに取りかかる。


 ぞろぞろと、人が建物や道のほうに移動をはじめる。

 エチカもくるりと(きびす)をかえした。


「じゃ、私たちも帰りましょうか」

「そうですね」


 また迷子(まいご)にならないよう、小夜子(さよこ)はエチカにくっついて歩く。

 で? とエチカの金色の()が動いた。


「どーだった? 少しでもあんたの琴線(きんせん)には()れたのかしら?」


 さっきのライブのことを言っているのだと小夜子(さよこ)は分かった。


 それゆえに、これは彼らの(きょく)を聞いた気持ちとしてどうなんだろうと(まよ)う。

 しかしこれ以外に出せる意見がなかったため、小夜子は言った。


「タイヤキがおいしかったです」





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ