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フィーロゾーフィア  作者: とり
第12話 時計について
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時計について

 



 三枚の羽根(はね)をつけた風車(ふうしゃ)が、町の外周(がいしゅう)でゴンゴンと回っている。


 フィーロゾーフィア国の王都に小夜子(さよこ)はいた。


 黒い両目に、赤系統のカチューシャをつけた黒いストレートなロングヘア、いかにも世間(せけん)知らずのお(じょう)さんといったワンピースドレスに、教育関係者が(この)みそうな、(かざ)り気のないローファーをつけている。

 胸元(むなもと)には台座になにもないペンダントをぶら()げていた。


 『エチカ商店(しょうてん)』の看板(かんばん)がかかった雑貨(ざっか)屋の軒下(のきした)で、小夜子(さよこ)は両脚を投げだした格好でイスに座っていた。


 ミーン、ミーン。


 セミが鳴いている。


 (いえ)――エチカ商店の二階(にかい)小夜子(さよこ)下宿(げしゅく)している――から持ち出してきたチョコアイスが、朝九時の日差(ひざ)しにやんわりと溶けていく。


 (そら)は快晴。


 雲の上に浮かぶ世界で、小夜子(さよこ)は青い上空(じょうくう)にたゆたう(みどり)の石たちの(かがや)きを見つめながら、アイスを食べていた。


「おや、サヨコ殿(どの)。立ち()いとは感心しませんな」

「座り食いです」


 店の前にかようメインストリートから、ひょっと(すべ)り込んできた声に小夜子(さよこ)は答えた。


 声のぬし)は、目元まで金属部分のある(かぶと)と、フィーロゾーフィア王国の徽章(きしょう)をつけた鉄の甲冑(かっちゅう)、紋章()りの(はた)を巻いたショート・スピアで武装していた。


 王国(おうこく)騎士(きし)である。


 小夜子(さよこ)の知っている王国騎士は、みんな(はん)で押したような(もしくは工場で鋳型(いがた)にはめて量産されたような)同じ背丈(せたけ)、同じ体格、同じ()()だが、この男だけはちがった。


 (ほか)の兵士たちの身長を、ヌッと頭(ひと)つ分()えた上背(うわぜい)に、ゴリラみたいな肉付き。

 王国支給(しきゅう)の武具で(さら)にふくれあがった図体(ずうたい)をさらす彼は、騎士のなかでも〈警邏(けいら)隊〉という部署に所属しており、こうして朝から(ばん)まで町をねり歩いている。


 もちろん、休憩(きゅうけい)や交代は(はさ)むだろうが。


 見まわりの偉丈夫(いじょうふ)快活(かいかつ)に笑った。


「ははは、そーか、座っているから立ち()いではないのか」


 とはいえカブトのせいで見えるのはケツアゴと口元(くちもと)だけなので、本気でおかしくて笑っているのかは不明だが。


「兵隊さんは、なんの用ですか? いつもはアイサツだけして(とお)りすぎるのに」


 小夜子(さよこ)はアイスの(ぼう)にチョコが落ちてきたのに(あわ)てた。

 もうあと少しだったし、一口(ひとくち)で食べてしまう。


 ベトベトの手を、ワンピースのポケットからつまんでだしたハンカチでぬぐう。


 足元(あしもと)にアリがたかってきやしないかが心配だった。

 石畳(いしだたみ)の上に少しだけ()れたのだ。


「ああ、(きみ)んとこの時計(とけい)が動いていないんでね、ちょっと寄らせてもらったのさ」

「時計?」


 (やり)穂先(ほさき)で示されて、小夜子(さよこ)は見上げた。


 店の玄関屋根(ポーチ)には電池(でんち)式の()け時計を()るしている。


 これはフィーロゾーフィアでは義務化されていることだった。

 国内にある建物は、必ずアナログ式の時計を(おもて)に出していなければならない。


 国が強制する装飾(そうしょく)だから、時計の購入(こうにゅう)や電池は国家が負担(ふたん)する。

 また、バッテリーやネジが切れていないかの確認は、こうして警邏(けいら)の兵士が()()っていた。


「どれ、私が(はず)して電池を()れかえてあげよう。単三(たんさん)のアルカリでいいかな」

「はい」


 兵士は槍を外壁(がいへき)に立てかけると、つま(さき)立ちをすることなく丸い()け時計を(はず)した。

 うら(がわ)のフタを取る。


「ちょっと持っててくれるかい」

「いいですよ」

「ありがとう」


 フタを小夜子(さよこ)にあずけると、腰のポシェットから()えのバッテリーを出して、カチ、カチ、とはめていく。


 この乾電池(かんでんち)()れかえる時の音が小夜子(さよこ)は好きだった。


「さて、今は何時(なんじ)かな――おお、九時二十(にじゅっ)分か」


 兵士は別のポケットから出した懐中(かいちゅう)時計(どけい)を見て、()け時計の(はり)を合わせていく。


「あの、この世界って、デジタル時計や電波(でんぱ)時計もありますよね? それを(そと)に出すんじゃダメなんですか? アナログって、不便(ふべん)じゃあ?」


 小夜子(さよこ)は疑問を(くち)にした。


 警邏(けいら)の兵士は、動き(はじ)めた時計を玄関屋根からせり出している(ぼう)につるしなおし、小夜子(さよこ)にウインクをした――らしかった。

 目元がカブトにかくれているので、気配(けはい)と動きで、彼が片目(かため)()じたと思ったのだ。


「不便であってもね。存外(ぞんがい)、この時計の(はり)の音が、わたしたちに(おだ)やかな時間を提供(ていきょう)してくれている、なんてこともあるものさ」


 ビシッと兵士は敬礼(けいれい)をして、小夜子(さよこ)の前から立ち去っていった。


 カチ、コチ。


 いつの()にか止まっていて、さきほど(いき)を吹きかえした時計の秒針(びょうしん)が、かすかな音を伝えてくる。


 小夜子(さよこ)はなんとなく、兵士の言っていることがわかる()がした。






 

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