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フィーロゾーフィア  作者: とり
第11話 エルフについて
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エルフについて-①

 




「ふざっけんじゃねえぞゴルあ!!」


 昼下(ひるさ)がりの冒険者(ぼうけんしゃ)ギルドに男の胴間声(どうまごえ)がひびきわたる。

 受付に立っていた女性はビクリと(かた)をふるわせた。


 女性――おそらくは人間ではない。

 若葉(わかば)をそのまま頭髪(とうはつ)にしたようなグリーンの髪。肩の上で()たれたセミロングの左右(さゆう)から、ピョコリと(とが)った長い耳がのぞいている。


 ギルドの職員には制服がなく、それでもひとつの組織(そしき)であるがためか、「無難(ぶなん)な服装」をえらぶ者は多い。この女性もそうだった。

 フォーマルなブラウスにベスト、タイトなスカートに夏場(なつば)でありながら黒いストッキングをはいている。


 都会に森精霊(エルフ)がいるのはめずらしかった。彼女たちは人里(ひとざと)はなれた小さな浮島(うきしま)に、ひっそりと独自の集落を持ち独自の価値観のもと、閉鎖(へいさ)的な生活を送っている。

 しかし彼女はどう見てもエルフだった。


 ドカン!


 ()()づく女性――それも若く見目(みめ)よい、「かよわい」と表記されるエルフの(むすめ)がおびえるのに気を大きくしてか、調子にのって、日に焼けた筋肉質な身体に鋼鉄製の(よろい)をまとった男が、(さら)にさけぶ。


「こちとられっきとしたD(ディー)ランク冒険者だぞ! なんで地下遺跡(いせき)にもぐっちゃならねえんだ!!」

「そ……そんなこと(もう)されましても……」


 男のうしろには鉄カブトに頭部(とうぶ)から顔面を(おお)った偉丈夫(いじょうふ)と、辮髪(べんぱつ)にレザーメイルをつけただけの年配(ねんぱい)の男がいた。

 いかにも悪者(ぜん)とした人相(にんそう)で、エルフの女性に食ってかかっている無頼漢(ぶらいかん)もまた、ねらったようにモヒカンの悪党面(あくとうづら)だが、犯罪歴はない。

 ただの迷惑(めいわく)クレーマーである。


 エルフの女はくすんと涙目(なみだめ)をぬぐった。


「地下遺跡(いせき)で新種のモンスターが発見されまして、現在フィーロゾーフィア騎士団が調査中なんです。どんなランクの(かた)であれ、規則(きそく)として立ち入り禁止の区画に、()れるわけにはいかないんです――よっ?!」


 ガンッ!


 男の(こぶし)が再び受付テーブルに(たた)きつけられた。

 ギルド内の待合席(まちあいせき)や、換金(かんきん)用テーブル、()てはカウンター奥の事務所から、「気の毒に……」といった視線が、受付テーブルのほうに(そそ)がれる。


「バアカかおめーはっ!! こちとらキケンは承知(しょうち)だ!! あぶないのが怖くて冒険者がやってられっか!! テメーおれたちが田舎(いなか)の出身だからって、バカにしてんのか!? バカにしてんだるお! ああ!?」


「ううう……かく言う私もけっこーなイナカの出身なのですが……」


「マジ? ――っじゃ、ない! と、とにかくテメー、いいかげん立ち入り許可(きょか)を出しやがれ――!!」

 似たような境遇(きょうぐう)と知った瞬間、男は気のゆるんだ()みを見せたものの、気を取り直して(なお)も食いさがった。


 ――ははあ、あの一隊(パーティー)、フィーロゾーフィア王国の冒険者ギルド本部は(はじ)めてきたんだな。


 と、建物内にいた他の戦士たち――むろん彼ら彼女らも〈冒険者〉である――は、それぞれの仲間らと目配(めくば)せをしてなっとくする。


 その気配(けはい)が。動きが。イナカ出身であるらしいモヒカンの男をことさらに激昂(げっこう)させた。


「――――!!」

 (つくえ)を何度も(なぐ)りつけ、男はヒートアップした口調(くちょう)際限(さいげん)なくエルフの女性に要求をわめきつづける。


 ギャンギャンとひびくモヒカン戦士の大声に、エルフの女性は両目に(なみだ)をためて、身をすくませ、ギュッと目を()じた。


(だれか……だれか助けて――!!)


 心のなかで、(いの)りにも似た悲鳴(ひめい)をあげる。


 そして彼女は、近くにあったものを(つか)んだ。




 

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