エルフについて-①
「ふざっけんじゃねえぞゴルあ!!」
昼下がりの冒険者ギルドに男の胴間声がひびきわたる。
受付に立っていた女性はビクリと肩をふるわせた。
女性――おそらくは人間ではない。
若葉をそのまま頭髪にしたようなグリーンの髪。肩の上で断たれたセミロングの左右から、ピョコリと尖った長い耳がのぞいている。
ギルドの職員には制服がなく、それでもひとつの組織であるがためか、「無難な服装」をえらぶ者は多い。この女性もそうだった。
フォーマルなブラウスにベスト、タイトなスカートに夏場でありながら黒いストッキングをはいている。
都会に森精霊がいるのはめずらしかった。彼女たちは人里はなれた小さな浮島に、ひっそりと独自の集落を持ち独自の価値観のもと、閉鎖的な生活を送っている。
しかし彼女はどう見てもエルフだった。
ドカン!
怖じ気づく女性――それも若く見目よい、「かよわい」と表記されるエルフの娘がおびえるのに気を大きくしてか、調子にのって、日に焼けた筋肉質な身体に鋼鉄製の鎧をまとった男が、更にさけぶ。
「こちとられっきとしたDランク冒険者だぞ! なんで地下遺跡にもぐっちゃならねえんだ!!」
「そ……そんなこと申されましても……」
男のうしろには鉄カブトに頭部から顔面を覆った偉丈夫と、辮髪にレザーメイルをつけただけの年配の男がいた。
いかにも悪者然とした人相で、エルフの女性に食ってかかっている無頼漢もまた、ねらったようにモヒカンの悪党面だが、犯罪歴はない。
ただの迷惑クレーマーである。
エルフの女はくすんと涙目をぬぐった。
「地下遺跡で新種のモンスターが発見されまして、現在フィーロゾーフィア騎士団が調査中なんです。どんなランクの方であれ、規則として立ち入り禁止の区画に、入れるわけにはいかないんです――よっ?!」
ガンッ!
男の拳が再び受付テーブルに叩きつけられた。
ギルド内の待合席や、換金用テーブル、果てはカウンター奥の事務所から、「気の毒に……」といった視線が、受付テーブルのほうに注がれる。
「バアカかおめーはっ!! こちとらキケンは承知だ!! あぶないのが怖くて冒険者がやってられっか!! テメーおれたちが田舎の出身だからって、バカにしてんのか!? バカにしてんだるお! ああ!?」
「ううう……かく言う私もけっこーなイナカの出身なのですが……」
「マジ? ――っじゃ、ない! と、とにかくテメー、いいかげん立ち入り許可を出しやがれ――!!」
似たような境遇と知った瞬間、男は気のゆるんだ笑みを見せたものの、気を取り直して尚も食いさがった。
――ははあ、あの一隊、フィーロゾーフィア王国の冒険者ギルド本部は初めてきたんだな。
と、建物内にいた他の戦士たち――むろん彼ら彼女らも〈冒険者〉である――は、それぞれの仲間らと目配せをしてなっとくする。
その気配が。動きが。イナカ出身であるらしいモヒカンの男をことさらに激昂させた。
「――――!!」
机を何度も殴りつけ、男はヒートアップした口調で際限なくエルフの女性に要求をわめきつづける。
ギャンギャンとひびくモヒカン戦士の大声に、エルフの女性は両目に涙をためて、身をすくませ、ギュッと目を閉じた。
(だれか……だれか助けて――!!)
心のなかで、祈りにも似た悲鳴をあげる。
そして彼女は、近くにあったものを掴んだ。




