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フィーロゾーフィア  作者: とり
第8話 報酬(ほうしゅう)について
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報酬について-③

 


「ああっ!」


 店の庭に見知らぬ少年が一人(ひとり)いるのを(みと)めて、小夜子(さよこ)は悲鳴をあげた。


 驚愕(きょうがく)と大声は、小夜子が人見知りのためという理由(わけ)だけではない。彼女の性格の所為(せい)も多分にあったが。

 店の商品棚の(ほう)へと駆け(もど)る。


 (とし)(ころ)十才くらいの、エチカとテーブルを(はさ)んで向かい()って座る男の子は、(ほこり)っぽい茶褐色(ちゃかっしょく)の目をパチクリさせていた。


「わっ、わかっ、わかり、分かりました!」

 売り場から今この場に必要な物を取ってきた小夜子(さよこ)は、気の()くまま気の向くままに(まか)せて、エチカと少年(しょうねん)に手を突き出す。


 冷静に! という意味である。


(なに)が分かったのよ」


 小夜子(さよこ)の右手に握られている物に金色の瞳をやって、エチカが問う。

 答えは行動で返って来た。


「たあーーっ!!」


 小夜子は店から持って来た(くぎ)バットを思いきりエチカの脳天に(たた)きつけた。左手の親指に今朝(けさ)作ってしまった切り傷が痛むが、構っていられない。


 これは正義の鉄槌(てっつい)なのだ。


 メキョッ。


 頭上からの縦一閃(いっせん)を、サッとイスからどいて半歩(はんぽ)引くことで()けたエチカのそばで、木製の背もたれつきのチェアが不快な音をたててひしゃげた。


 背もたれをかすめて、座席(ざせき)部分がキッパリ(ブイ)の字に折れたのだ。

 小夜子(さよこ)追撃(ついげき)する。


「ついにやってしまったんですねーエチカ!!」


 ぶおんっ!


 渾身(こんしん)のスイングをお見舞(みま)いする。

 エチカのこめかみを(ねら)ったものだが、これもしゃがむことで(かわ)された。


 一人(ひとり)流れについていけてない――というか小夜子(さよこ)以外(だれ)もこの流れがよく分からない――少年が、ガクガク震えているが構わない。


 エチカは大罪(たいざい)を犯したのだ!


「いつかやると思っていました! だってこんなみすぼらくてエチカなんかが主人のちっぽけな店がいつまでも黒字(くろじ)経営なわけがないんだもの!」

「あんたが何を言ってるのか分からないわ。失礼なことを言われたってのは分かったけど。この私が店主なんだから(もう)かるのは()たり前でしょ」

「しらばっくれないで下さい!」


 反駁(はんばく)と共に、息()ぎのために芝生(しばふ)に先端を()せていた釘バットを()り上げる。

 エチカはこれも軽く首をひねることで回避(かいひ)した。


(にく)たらしい……!)

 ぜえぜえ、小夜子(さよこ)は肩で息をする。

「くうっ……」

 黒い目から(なみだ)が落ちる。


 キレイな涙。

 その名は(ティア)


「こんな小さな子供を誘拐(ゆうかい)して……身代金(みのしろきん)を要求しようなんて見下(みさ)げ果てました! いくらわたしだって、そんな犯罪をさせてまで居候(いそうろう)をつづけようなんて思いません。悪いことは言いませんから、すぐにお城のほうへ自首(じしゅ)しに行きましょう。安心して下さい、エチカがキレイな心になって帰ってくるまで、わたしがこの店と家を守りつつ快適な一人(ひとり)暮らしを謳歌(おうか)して幸せな余生(よせい)を過ごしていてあげますから。(たと)えあなたの刑期が何年、何十年――いえ何百年になろうとも!」

「たわけ」


 (こぶし)を握りしめて熱く語る小夜子のまっ(くろ)な頭にエチカのカカト落としが()まる。


 ぷくう。

 小夜子の頭頂(とうちょう)部にタンコブができた。


 (つえ)の先端を(こわ)れたイスに当て、エチカが錬金術を行使(こうし)すると、元の――よりはるかにしっかりした、新品の状態に戻る。


「ったく、(なに)をカンチガイしてるかと思えば、そんなしょーもない」

「だってえ~」


 イスに座り(なお)すエチカに、(なお)もバットを握りしめたまま、唇を(とが)らせる。

 また(なぐ)りかかられる前に、エチカは対面に座る男の子を紹介した。


「この子は店に(くすり)を買いに来たお客さん。コジマ(くん)よ。あんたがのんきに鼻提灯(はなちょうちん)作って寝てたからまごついてたところを、私が出てきて用件を(うかが)ったってわけ」

「なあんだ、そうだったんですか。わたしとしたことがうっかり」


 安心して小夜子(さよこ)は釘バットを地に下ろした。


「うっかりで殺されかけてりゃ世話ないわね」


 背中まである金髪をゾンザイに(はら)って、エチカは金色の目をすがめる。

 小夜子(さよこ)往生際(おうじょうぎわ)悪く、


「だったら店にこんなもの()いとかないで下さいよ。(なん)だってこんな、目についたら一度(いちど)は人を撲殺(ぼくさつ)したくなること必至(ひっし)のアイテムがあるんですか? 武器屋でもスポーツ用品店でもあるまいし」

需要(じゅよう)があるからよ」

「へえ~? どんな(そう)になのか、ぜひともお(うかが)いしたいものですねー」

「客の対応を寝過ごしてやり(そこ)なうバカな部下のフォローをしてやった無辜(むこ)の上司に対して誘拐(ゆうかい)嫌疑(けんぎ)をかけた挙句(あげく)問答無用で(なぐ)りかかる暴走機関車(むすめ)とかにかしらね」

「その(せつ)はたいへん申しわけなく……」


 皮肉に皮肉で返されて、小夜子(さよこ)は素直に(あやま)った。


 気を取り(なお)して、コジマという少年の方を見る。

 エチカがコソッと「女の子みたいなファーストネームよね」と言ったが、小夜子はむしろ苗字(みょうじ)っぽい名前だなと思う。


「えっと、それで、コジマ君? レジカウンターが機能するまで、ここでお茶でもしてようって、このお(ねえ)さんに提案でもされたんですか?」

「えっ、あのっ、いえ……」


 血の気の()せた蒼白(そうはく)な顔を、コジマは横に振った。

 肩より少し上くらいで切った――のか、もしくはもっと(みじか)かった頭髪が、そこまで伸びてしまったのか――茶褐色(ちゃかっしょく)の髪がハラハラ揺れる。


 大皿に山と()られたドーナッツの(ひと)つをエチカが取る。


「べつにそんな緊張するこたないわよ。このちっこいお(ねえ)ちゃんは、ちょっと頭がおかしくて時々死ぬような攻撃をしてくるけど、()ければ無事ですむし遠くに逃げれば聞くに()えない罵詈雑言(ばりぞうごん)を喚いてくるだけで無害だから」

「それはフツウに有害なのでは……」

 とコジマ。


 (よご)れた半袖(はんそで)から伸びるやせた両腕と、(すそ)のすり切れた半ズボンからのぞく骨っぽいヒザ小僧。くつ(した)の無い足には、ところどころ破れた(くつ)

 いかにも生活に(めぐ)まれていなさそうだ。


 建物の外壁(がいへき)に置いてある、予備の折り(たた)みスツールを取ってきて、エチカの(よこ)に座りながら小声で問う。


「買い物に来たって言ってましたけど、エチカの(くすり)って結構()が張りますよね。お(かね)はちゃんともらえるんですか?」


 このヒソヒソに不穏(ふおん)なものを()ぎ取ったのか、コジマは小夜子(さよこ)に説明した。

 ここにいる経緯(けいい)を。




 

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