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フィーロゾーフィア  作者: とり
第6話 観察について
24/137

観察について-④

 




 『5月×日(土曜日) 晴れ 定休日。

 AM7:02

 サヨコ、二度寝(にどね)

 寝言(ねごと)多し』


「こいっつやすみの日はいっつも寝てるわねー。()きないのかしら?」


 エチカは庭のチェアに腰掛けて、(つえ)の先端にくっついた赤い〈エーテル(せき)〉を(なが)めていた。

 (ルベド)のエーテル石には、サラマンダーが見ている光景が(うつ)っている。


 エチカの手には『サヨコの観察日記』と題されたノートがあり、小夜子(さよこ)のこれまでの行動が記録されていた。

 彼女の寝言や(ひと)(ごと)、エチカの部屋から勝手に持っていって未返却(みへんきゃく)の雑誌やゲーム機、ゲームソフトなどが列記されている。


 テーブルに立てかけた杖の先端(せんたん)の丸い石をテレビジョンにして、小夜子(さよこ)のアホな寝顔を見やり、あらかたメモを取る。


 パチン。


 エチカは指を鳴らした。

 小気味(こきみ)の良い音と共に通信が切れる。


 サラマンダーはほどなく二階(にかい)から戻ってくるだろう。

 研究の息抜きに始めた居候(いそうろう)の観察だが、思いの(ほか)気分転換になる。


 小夜子が来てからずいぶんな量になったデータをパラパラめくって見返しながら、

「なんでこんなに寝てばっかいられんのかしら。逆に疲れそうなもんだけど……別の世界から来たヤツ特有のリズムってわけ?」

 パタンとノートを閉じる。


 小夜子(さよこ)の寝室から失敬(しっけい)した抜け毛や、食器に付着していた唾液(だえき)(すで)に王立研究所の器材で解析(かいせき)済みだった。

 結果はフィーロゾーフィア国民や周辺諸国の者とほぼ同質。


 しかしエチカの知る限りで、一日(いちにち)の半分を睡眠(すいみん)で消費するヤツはいない。それこそナマケモノ以外では。


「さすがに無断で麻酔(ますい)かけて解剖(かいぼう)とかするのはマズイわよね。回復薬で無傷の状態に戻せるとは言え……」


 ドアと床のすき()からサラマンダーが出て来る。

 思考を中断して、エチカは芝生(しばふ)()うトカゲに金色の()を向けた。


「ごくろうさま、サラマンダー」


 ためらうように身動(みじろ)ぎする赤いトカゲを――実際サラマンダーはエチカの脳内に『もうやめないか』と直接思念(しねん)を送っていた――しかしエチカは気にも留めない。


 身体を(かたむ)けて、チビのトカゲを(てのひら)(おさ)める。

 軽く握り込み、結晶化させる。

 弾丸(だんがん)状の飾りとなった彼を腰のホルダーに()り直して、赤くて他より(あたた)かい火の精霊の結晶をポンと(たた)いた。


「アイツの親父さんがあんたの声に似てるってことは、相当ダンディなバリトンだったんでしょうね」


 小夜子(さよこ)がサラマンダーをやけに気に()っているのはエチカも知っていた。

 その理由がまさか、親の声とそっくりだったからとは夢にも思わなかったが。


「……」

 エチカはイスに座り直す。

「よっぽど良い親の元に()まれたのね。サヨコは」


 開けている資料とメモ帳の横にあるカップを取って、茶を飲もうとした。が、カラになっているのに気が付く。


 ()れ直そうかとも思ったが、たった一杯(いっぱい)の為だけに腰を上げるのもかったるく、これからはティーポットも持って来ようかしらと思案(しあん)しながら、エチカは朝のデスクワークを再開(さいかい)した。




 

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