観察について-④
『5月×日(土曜日) 晴れ 定休日。
AM7:02
サヨコ、二度寝。
寝言多し』
「こいっつやすみの日はいっつも寝てるわねー。飽きないのかしら?」
エチカは庭のチェアに腰掛けて、杖の先端にくっついた赤い〈エーテル石〉を眺めていた。
赤のエーテル石には、サラマンダーが見ている光景が映っている。
エチカの手には『サヨコの観察日記』と題されたノートがあり、小夜子のこれまでの行動が記録されていた。
彼女の寝言や独り言、エチカの部屋から勝手に持っていって未返却の雑誌やゲーム機、ゲームソフトなどが列記されている。
テーブルに立てかけた杖の先端の丸い石をテレビジョンにして、小夜子のアホな寝顔を見やり、あらかたメモを取る。
パチン。
エチカは指を鳴らした。
小気味の良い音と共に通信が切れる。
サラマンダーはほどなく二階から戻ってくるだろう。
研究の息抜きに始めた居候の観察だが、思いの外気分転換になる。
小夜子が来てからずいぶんな量になったデータをパラパラめくって見返しながら、
「なんでこんなに寝てばっかいられんのかしら。逆に疲れそうなもんだけど……別の世界から来たヤツ特有のリズムってわけ?」
パタンとノートを閉じる。
小夜子の寝室から失敬した抜け毛や、食器に付着していた唾液は既に王立研究所の器材で解析済みだった。
結果はフィーロゾーフィア国民や周辺諸国の者とほぼ同質。
しかしエチカの知る限りで、一日の半分を睡眠で消費するヤツはいない。それこそナマケモノ以外では。
「さすがに無断で麻酔かけて解剖とかするのはマズイわよね。回復薬で無傷の状態に戻せるとは言え……」
ドアと床のすき間からサラマンダーが出て来る。
思考を中断して、エチカは芝生を這うトカゲに金色の眼を向けた。
「ごくろうさま、サラマンダー」
ためらうように身動ぎする赤いトカゲを――実際サラマンダーはエチカの脳内に『もうやめないか』と直接思念を送っていた――しかしエチカは気にも留めない。
身体を傾けて、チビのトカゲを掌に収める。
軽く握り込み、結晶化させる。
弾丸状の飾りとなった彼を腰のホルダーに吊り直して、赤くて他より暖かい火の精霊の結晶をポンと叩いた。
「アイツの親父さんがあんたの声に似てるってことは、相当ダンディなバリトンだったんでしょうね」
小夜子がサラマンダーをやけに気に入っているのはエチカも知っていた。
その理由がまさか、親の声とそっくりだったからとは夢にも思わなかったが。
「……」
エチカはイスに座り直す。
「よっぽど良い親の元に生まれたのね。サヨコは」
開けている資料とメモ帳の横にあるカップを取って、茶を飲もうとした。が、カラになっているのに気が付く。
淹れ直そうかとも思ったが、たった一杯の為だけに腰を上げるのもかったるく、これからはティーポットも持って来ようかしらと思案しながら、エチカは朝のデスクワークを再開した。




