吸血鬼について-③
「はあ……。とんでもないもん飲まされた」
少女はムックリと立ち上がった。コキコキと首を左右に振る。銀色のツインテールが頼りなく揺れる。
小夜子はカウンターテーブルの奥にうずくまっていた。
咄嗟の判断だ。
なぜ少女から隠れようと思ったのかは、自分でも説明ができなかった。
フィーロゾーフィアの国王や、エチカが警戒を滲ませる存在であるというのは理解している。だが覚醒した銀髪の少女からは、そうした理屈では通らない、本能的な――危うさがあった。
生物としての格が違う。
食物連鎖の頂点が実はあの銀髪ゴスロリの少女――〈吸血鬼〉で、人間はすべからく彼女ら種族の遥か下位にいる。
そんな幻覚さえ確信めく、閾下の警鐘。
抱えていた杖の先端――白色に輝く〈エーテル石〉が天板より高い位置にあるのに気付いて、あわてて横たわらせる。
商品棚の前にいたシェリーが少女の注意を引いた。
「失礼ねー。文句言いたいのはこっちだわ。あなたが吸血鬼だって分かってたら助けてなかったわよ」
「だから他の連中は近寄らなかったってワケだ。こんなに可憐な幼子が弱っているというのに、薄情な国民性だな」
「自衛のためよ」
「脆弱だな」
嘆かわしい。と肩をすくめて、銀髪の少女はあたりを見回す。
くんくん。小さな鼻をひくつかせる。
「それより、なんだか美味そうな匂いがするぞ」
「これの匂いでしょ」
シェリーは棚の中段から取り出したパウチを見せる。
少女は忌々しい物を提示されたように目をすがめ、首を横に振った。
「まさか。生きている者の血だ。どこかに隠してるんじゃないのか?」
「そうだとしても、教えるつもりはないわよ」
「自分で見つけるさ」
少女はチラ、とカウンターテーブルの方を見た。まっ白な掌を向ける。
バガン!!
丈夫な会計用のテーブルが破裂した。
物陰にしゃがみ込んで気配を殺していた小夜子が、こまかな破片の混ざる白煙の奥から赤い視界に引きずり出される。
「気付いてないとでも思ったか? とはいえこんな小娘だったとは、こちらとしても驚きだ。嬉しい驚愕だ」
「はは……。どーも」
まぬけにかがみ込んでいた格好から、小夜子はスカートをはたいて立ち上がった。
自分の背丈ほどもある杖を握りしめる。
つづく




