ホムンクルスについて-⑤
「サーヨコ」
「ぎゃあ!!」
背中をドーンと叩かれて、小夜子は飛びあがった。
シェリーは両手を腰にあてて、いかにも怒ったふうに吐いてみせる。
「あなた当の本人の前で、よくもまあ堂々とホムンクルスについてあれこれ調べる気になれたわねえ」
「うう……失礼を働いたのは申し訳ないです。けど、知らないんですもの。許してください」
「んー、どーしよっかなー」
「ううう……」
シェリーが気を悪くするのは正当だ。誰だって自分の存在を定義されるのはイヤだし、その定義を他者に確認されるのも腹立たしい。
うじうじ首から吊ったペンダントをいじっていると、シェリーが表情をゆるめた。
「ウソよ。気にしてないから本気にしないでちょうだい。ビクトールもそんな感じのヒトだったし」
「ビクトール、さん?」
「そう。この店の名前にもなってる、私の主様のことよ。彼も錬金術師だったけど、まあ腕前はビミョーだったわね。私を買いつけた時にはヨボヨボのおじいちゃんで、店の手伝いがほしいって、それだけだったわ」
「……そのかたは?」
店の中に老人らしい人はいない。ひょっとすると、階上の部屋にいるのかもしれないが。
電話の前から階段をのぞき込む小夜子に、シェリーは首を振った。
「五年前に他界したわ。以来、私はビクトールの言いつけを守って、定休日以外は決まった時間に店をあけ、レコードを回し、商品の管理をして、ときどきやってくるお客さんと交渉をしている。そうして彼の店を維持しつづけている」
シェリーは「機械的でしょう?」といって微笑んだ。
小夜子はとても人間らしいと思った。
つづく




