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フィーロゾーフィア  作者: とり
第52話 ホムンクルスについて
113/144

ホムンクルスについて-③

 



   ◇



 とぼとぼと小夜子さよこは下層に向かった。

 突然(そと)にほっぽり出されたものだから、愛用の電動キックボードも無しだ。


 骨董品(こっとうひん)店は三番街の大通(おおどお)りから細道(ほそみち)に入ってすぐの所にあった。

 『ビクトール』と店名の看板(かんばん)()かっている。


 木の(とびら)をあけると、カランとベルの音がする。


「ごめんくださーい」


「はーい。あらあら、どうしたのかしら? かわいいお客さんがいらしたわねえ」


 振り返って答えたのは二十代後半ほどの婦人だった。

 ゆったりと一房(ひとふさ)に結って(かた)から流した金髪に、中背の痩身(そうしん)(つつ)むドレス。(さむ)さよけのストールを上掛(うわが)けにしている。

 商品の位置を直していたところのようだった。


 小夜子(さよこ)は青銅のロッドを(にぎ)りしめた。いくらか他人と(せっ)するのには()れてきたとはいえ、やはり初めての人と話すのは緊張(きんちょう)する。


「ネズミ駆除をしてほしいとのことで来ました」


 「ホントは来たくなかったですけど。オニみたいな店主がうるさいもので」という言葉は(かろ)うじて()みこんだ。


「ええー、あなたがやっつけにきたの? 失礼だけど、おじょうさんおいくつ? お名前は? まだ雇用こよう許可が出る年齢ではないんじゃなあい?」


 にわかに身をかがめて目線の高さを合わせる女性。

 貴婦人めいた品の良い美貌(びぼう)を正面に見据(みす)えて、小夜子は言った。


「としは十四歳です。名前はサヨコといいます。これ、エチカから預かってきたおくすりです。念のため」


「あらー、まちがいなくあの店のだわね。風の便たよりには聞いてたけど、あのコ本当にヒト(やと)ったのねえ」


 右に左に位置を変えて、まじまじ観察してくる女性に、小夜子は居心地(いごこち)がわるくなる。


「あなたは――えっと、ソクラさんとお呼びしたらいいですか?」


 女性はき出した。(ツボ)絵皿(えざら)、古びた蓄音機(ちくおんき)などがならぶ店内に、彼女の笑い声が満ちる。


「あはは! いいえ。私はシェリーよ。初めてあの錬金術師さんの店に電話した時に、まちがえられちゃったんだけど、いったいどういうヒトと(かん)ちがいされたのかは知らないわ」


 自分のはやとちりとわかり、「すみません……」と名前をまちがえた非礼をびる。

 「いいのいいの」と手でさえぎられ、顔を上げる。


「えっと、その、それでは、シェリーさん。さっそくネズミを退治したいんですけど――ギャッ!?」


 骨董品(こっとうひん)店の女主人――シェリーは、小夜子さよこのうしろにまわってブラウスの襟首えりくびをひっぱった。

 ついで無遠慮(ぶえんりょ)に黒い髪を()()げて、小夜子(さよこ)のうなじと背中を交互(こうご)に見る。


「な、なにするんですか!?」


「うふふ、ごめんなさいね。製造せいぞう番号ばんごうが打ってあるんじゃないかと思って」


「はあ?」


 小夜子さよこねるようにしてシェリーから距離を取った。

 シェリーは両手を「もう何もしないわよお」とばかりに(かた)の高さでヒラヒラさせて、弁解する。


「だってえ、愛するものと言ったら読書か薬いじるか遺跡の調査くらいしかないあの錬金術師が、ふつうの人間をやとうだなんて信じられないんだもの」


「シェリーさんが何を言ってるのか分かりません」


「そう? 私にはあるのよ」


「なにが――」


 小夜子さよこが問い終わるより先に、シェリーはクルリと背を向けた。自分の金色の髪を首から横に押しよけて、白い(はだ)をさらす。


 数列(すうれつ)刺青(いれずみ)がある。


「〈ホムンクルス〉と言ってね、聞いたことくらいはあるんじゃないかしら。錬金術によって作られた、いわゆる人造(じんぞう)人間(にんげん)。私はそれなのよ」


「えっ!?」


 小夜子(さよこ)(おどろ)いた。





                つづく





 

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