ホムンクルスについて-③
◇
とぼとぼと小夜子は下層に向かった。
突然外にほっぽり出されたものだから、愛用の電動キックボードも無しだ。
骨董品店は三番街の大通りから細道に入ってすぐの所にあった。
『ビクトール』と店名の看板が掛かっている。
木の扉をあけると、カランとベルの音がする。
「ごめんくださーい」
「はーい。あらあら、どうしたのかしら? かわいいお客さんがいらしたわねえ」
振り返って答えたのは二十代後半ほどの婦人だった。
ゆったりと一房に結って肩から流した金髪に、中背の痩身を包むドレス。寒さよけのストールを上掛けにしている。
商品の位置を直していたところのようだった。
小夜子は青銅のロッドを握りしめた。いくらか他人と接するのには慣れてきたとはいえ、やはり初めての人と話すのは緊張する。
「ネズミ駆除をしてほしいとのことで来ました」
「ホントは来たくなかったですけど。オニみたいな店主がうるさいもので」という言葉は辛うじて呑みこんだ。
「ええー、あなたがやっつけにきたの? 失礼だけど、おじょうさんおいくつ? お名前は? まだ雇用許可が出る年齢ではないんじゃなあい?」
にわかに身をかがめて目線の高さを合わせる女性。
貴婦人めいた品の良い美貌を正面に見据えて、小夜子は言った。
「としは十四歳です。名前はサヨコといいます。これ、エチカから預かってきたお薬です。念のため」
「あらー、まちがいなくあの店のだわね。風の便りには聞いてたけど、あのコ本当にヒト雇ったのねえ」
右に左に位置を変えて、まじまじ観察してくる女性に、小夜子は居心地がわるくなる。
「あなたは――えっと、ソクラさんとお呼びしたらいいですか?」
女性は噴き出した。壺や絵皿、古びた蓄音機などがならぶ店内に、彼女の笑い声が満ちる。
「あはは! いいえ。私はシェリーよ。初めてあの錬金術師さんの店に電話した時に、まちがえられちゃったんだけど、いったいどういうヒトと勘ちがいされたのかは知らないわ」
自分の早とちりと判り、「すみません……」と名前をまちがえた非礼を詫びる。
「いいのいいの」と手でさえぎられ、顔を上げる。
「えっと、その、それでは、シェリーさん。さっそくネズミを退治したいんですけど――ギャッ!?」
骨董品店の女主人――シェリーは、小夜子のうしろにまわってブラウスの襟首をひっぱった。
ついで無遠慮に黒い髪を掻き上げて、小夜子のうなじと背中を交互に見る。
「な、なにするんですか!?」
「うふふ、ごめんなさいね。製造番号が打ってあるんじゃないかと思って」
「はあ?」
小夜子は跳ねるようにしてシェリーから距離を取った。
シェリーは両手を「もう何もしないわよお」とばかりに肩の高さでヒラヒラさせて、弁解する。
「だってえ、愛するものと言ったら読書か薬いじるか遺跡の調査くらいしかないあの錬金術師が、ふつうの人間を雇うだなんて信じられないんだもの」
「シェリーさんが何を言ってるのか分かりません」
「そう? 私にはあるのよ」
「なにが――」
小夜子が問い終わるより先に、シェリーはクルリと背を向けた。自分の金色の髪を首から横に押しよけて、白い肌をさらす。
数列の刺青がある。
「〈ホムンクルス〉と言ってね、聞いたことくらいはあるんじゃないかしら。錬金術によって作られた、いわゆる人造人間。私はそれなのよ」
「えっ!?」
小夜子は驚いた。
つづく




