ホムンクルスについて-②
(なーんかメンドウなことになってるなー)
アイマスクの下で、小夜子は小さくまばたきした。
エチカが電話をしているのを、最初から最後まで聞いていたのだ。
(このまま黙ってたら仕事を押しつけられそうだし、ここらへんで『わたしは行きませんよ』って意思表示をしとかないと)
小夜子はアイマスクを押し上げた。
うーんと、わざとらしく伸びをする。あくびも。
「ふわ~あ。あれ、エチカ、なにかあったんですか?」
「あんたが昼寝してるあいだにね。ネズミの駆除を頼まれたのよ」
「へー。それは大変ですねー」
「まるで他人事ね」
「だってエチカが行くんでしょ」
「テメエが行くのよ、サヨコ」
アイマスクを目元から外し、カウンターテーブルに頬杖をついて小夜子は拒否する。
「えー、イヤですよー。エチカが行ってきてください。わたしはここでお昼寝してますから。ってなんですかこれは!」
小夜子は激怒した。
彼のじゃちぼーぎゃくな(あと忘れた)エチカの悪行に。
「変な顔のアイマスクじゃないですか! なんで毎度毎度こーゆーしょーもないことするんですか! つけるなら無地のフツーのにして下さいよ!!」
「たわけ! 寝てんな! 起きてちったあ仕事しろ!」
カウンターの向こうから、エチカは怒鳴る。
小夜子は泣く。
「えーん! しょうがないじゃないですか育ち盛りなんだから朝から晩まで眠いんです!!」
「妙な理屈こねるな! いいことサヨコ、下層にある三番街の骨董品屋に行って、この薬をバラまいてきなさい。もし現場にネズミが出たら、腕力でも錬金術でもいいから殺すか追い出すかしてくること。いいわね、分かった?」
「よくないです、分かりませんって言ったらわたしが行かなくてもよくなりそうなので『よくないです、分かりません』って言います」
無敵の返しやぞ! どやあ!
とキリッと表情をキメてみせるものの、ブラウスの襟首をつかまれて軽々カウンターテーブルから玄関側に引きずり出された。
「これ地図ね。ハイ薬。じゃあアディオス、頑張って」
ドゲッ!
小夜子はサッカーボールみたいに尻を蹴っとばされた。
せめてもの慈悲か、単に渡す予定だったのをものぐさな形で体現したのか。
往来にアゴから着地した小夜子の横に、青銅の長杖が後を追うように飛んできて、ころがった。
つづく




