アニメについて-⑤
(そういえば父さんが子供のころって、紙芝居があったって言ってたなー)
思い出し笑いの内容は、エチカには言わなかった。
エチカには、ここに来る前の世界――『日本』にいた時の記憶は、『忘れてしまった』と伝えている。
そうしなければ日本に送り返されてしまうからだ。
といっても、この前閻魔大王が小夜子を〈ユックリッド〉に移住させる手続きをしておくと言っていたから、ひょっとすると、もう帰還する心配も望みもないのかもしれない。
小夜子は庭のテーブルでアニメを見ながら、思い返してまた笑った。
今は亡き父が幼いころ、公園に紙芝居屋が来ていたという。
幼少期の父は、毎日のように紙芝居を聞きにいっていたらしいのだが、年の離れた母にこの話は通じず、「これがジェネレーション・ギャップか」とガッカリしていたのを覚えている。
ふと思って、小夜子は口にした。
「こうして外で観るアニメって、現代の紙芝居って感じですよね」
「サヨコ……」
同意を求めたわけではなかったが。
エチカから返ってきたのは、どこかしら感慨深げな声だった――。
「紙芝居ってなに?」
ガチャン。
小夜子はニコニコしたままフリーズした。
エチカはフッと鼻で笑う。
視線は小夜子と同じ方角、『ボールペン芯ちゃん』を再生しているビデオプレーヤーを眺めたまま。
「じょうだんよ。あの国も、半世紀ほど前くらいまでは、手描きの絵をめくって裏面のセリフを語り部が読み聴かせる、紙芝居屋ってのがあったんだって」
エチカは黒い炭となったものを一瞥した。
小夜子はエチカが『あの国』を想っているのだと直感した。
「エチカ」
「なに?」
「エチカにも、秘密ってあるんですね」
「あんたと同じていどにはね」
エチカはソーダ水を飲んだ。
小夜子も飲んだ。
そうして百二十分のアニメを、二人で最後まで鑑賞した。
小夜子の十四年ほどの人生で、最も哲学的な時間だった。
おわり




