アニメについて-③
エチカはポータブルプレイヤーのボタンを押してビデオを出した。
チップ状の、指先ほどのサイズしかないソフトを、プレイヤーの側面から引っこ抜く。
細いヘアピンをいくつも挿した前髪と、金色の両目が、エチカの振り返るのに応じて覗いた。
「マグナもアニメ見にきたの?」
「おじゃましまーす。アニメは見ないけど」
「へえ。なら、邪魔しに来ただけってわけ。だったら早く帰ってほしいとこよねー」
「つめてーっ。なるべくさっさと帰るようにはするけどさー」
マグナは「ほい」とエチカの前に、丸めた新聞紙を振り下ろした。
「なにこれ?」
「新聞。兄貴から」
「この国のじゃないわね」
――この世界、〈ユックリッド〉の公用語はひとつだけだ。
それは、エチカや小夜子のいる〈フィーロゾーフィア王国〉も、その他の国も、同じ言語で読み書きし、同じ言語で喋り、聴くということである。
マグナは、細長く丸めたまま新聞をためつすがめつするエチカをただながめていた。
小夜子もマグナと同じように、何もしなかった。
――どこの国のですか?
と訊きたい気持ちはあったのだが、それはしてはいけない気がした。
エチカの動きが止まる。
長い脚を組み直して、モノクロの記事から目を離さないまま、
「読めって?」
「うん……。まあ、そう言ってたかな」
「なぜ?」
「そこまでは聞いてないよ。あいつだって、俺に説明する気はなさそうだった」
「そう」
エチカはそこで、やっと肩の力を抜いた。ように小夜子には見えた。
「まあ、ご苦労様。ちゃんと受け取ったって伝えておいて」
「読んだかどうかは?」
マグナが訊いた。
エチカがあいまいに笑った。
「気が向いたらね。さあ、もういいでしょ。それとも、やっぱりあんたもビデオ観てく?」
「帰るよ。ユーリと買い物に行くんだ」
マグナは気持ちあせって言って、脇にかかえていたエアボードを地面に置いた。
ピョイと飛び乗って、靴でスイッチを踏む。浮遊のカラクリが起動して、あれよあれよという間に空へと上昇させていく。
つづく




