アニメについて-②
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フィーロゾーフィア王国は、毒の雲の上にある。
とは言え人間に有害な部分ははるか叢雲の下に滞留し、天空に浮かぶ島や大陸のある部分に見えるのは、白く洗浄された無害な気体の塊である。
その中のひとつである、王都フィーロゾーフィア市は、全体的に独楽のようなシルエットをしていた。
町の下層から上層への大動脈を、空と陸を仕切る外縁部にめぐらせた、一本の巨大なストリートが担う。
街区は一から十の等級に区分され、数字が大きいほど上部に近づくといった具合だ。
『エチカ商店』は、第七等級街区にある店だった。
小夜子とマグナは、メインストリートに面したその小さな店舗に入り、売り場を素通りして、奥の庭へ出た。
家屋側にしか出入口のない、あとは完全にレンガの塀で囲った、どことなく刑務所めいた体裁の裏庭である。
広い芝生には、家主の使っているエアバイク(空飛ぶオートバイだ)と、小夜子のアンチグラビティ・キックボード(地面から少し浮いて滑走する、キックボード型の乗り物)が停めてある。
別の端には、別棟のように設けた浴室があって、そこと家屋のあいだにだけ、石の通路がわたっていた。
庭のほぼまんなかあたりに、屋外用のテーブルが出ている。
日除けのパラソルを地面に挿して、できた影の中、長い金髪の若い女性が、有線のヘッドホンをつけてビデオプレイヤーをながめている。
「あっはっはっはっ!」
バカ笑いをする。
肩を出したシャツに、ミニスカート、サンダルをつけてイスによりかかり、彼女は小夜子たちには背中を向けていた。
小夜子は声をかけた。
「エチカ、なに観てるんですか?」
「アンパンヒーロー」
キッパリ。
エチカは短く答えた。
また無言になる。
四角い画面の中では、アンパンの顔をした正義のヒーローと、ウイルスを様式化したフォルムの悪役が、熱戦をくりひろげている。
「どこに笑う要素があるんだよ」
マグナが問うも、金髪の女はフンと言っただけだった。
「エチカ、代わってくださいよー。わたしも自分で借りてきたの観たいです!」
「えー」
平生より『音は外で聴くものだ』と主張しているエチカである。
彼女は基本的に、音楽もビデオも建物の外で視聴する。視聴しながら本を読む。
屋内でゲームをしたり、読書をしたりすることもあるが、それはよほど余裕のある時だけだ。
いったいなんの余裕なのかは、小夜子も詰問したことはないが、まあそういうものらしい。
つづく




