アニメについて-①
夏休み中のフィーロゾーフィア市である。
フィーロゾーフィア王国の太宰府に、『エチカ商店』という一軒の雑貨屋があった。
稀代の天才錬金術師が経営している店である。 しかし今は休暇中だった。
従業員兼居候の小夜子は、大通りの坂道をウキウキと歩いていた。
十四歳の、長い黒髪に黒い瞳の女の子だ。白いワンピースに、白のカチューシャでそろえ、首には父親の形見のペンダントを吊っている。
肩には自然界を司る四精霊が一柱、火の小トカゲ〈サラマンダー〉がチョコナンと乗っていた。
小夜子の手にはレンタルビデオ店のロゴの入った、小さな手提げ袋がにぎられて、腕をうごかす度に大きくゆれた。
「はやく家に帰って観ましょーっと」
「映画でも借りてきたの?」
上空から、声。
聞き慣れた少年のソプラノに、小夜子はクイと首を仰がせた。
短く結ったダークブラウンの髪に、飛行用のゴーグル。パーカーに盾のマークのバッジをつけて、薄い生地のロングパンツを穿いている。
フィーロゾーフィア王家の次男、マグナだ。
十二歳の寄宿学生だが、夏休みのため王都に帰省している。
「こんにちは、マグナ」
エアボード(空とぶスケートボード、またはスノーボードみたいな乗り物だ)で空中遊泳していたところから、地上に滑り降りてきて、マグナは小夜子の横に立った。
詰めれば二人乗りもできるボードを脇にかかえて、小夜子について歩く。
「こんにちは。今から帰るの?」
「そうです。それからは忙しいんで、マグナとは遊べませんよ。ビデオ観るんです」
「べつにいいよ。俺もおつかいでキミん家いくとこだった」
張り合うように言って、マグナは通学にもつかえそうなショルダーバッグに捻じこんでいた新聞を取った。
小夜子の目の前に突きつける。
「これは?」
「新聞。ってのは見りゃ分かるよな……。俺もくわしいことは教えられてないんだけどさ、兄貴がエチカに渡して来いって」
マグナは言うと、新聞をカバンに直した。
「外国の新聞なんだけどな。兄貴は購読してるんだ」
「はあ……いちおう為政者らしいことしてるんですね」
「そうなのかな。うーん、そうなのかも」
マグナは首をかしげながらも同意した。
二人は坂なりになったメインストリートを、白い雲のたゆたう外縁をながめつつ歩く。
昼下がりの、うだるような暑さの中だった。
雲だけでなく、なにもかもが白く感じる。
「もしよかったら、サヨコが渡してくれよ。俺もめんどくさくってさ」
「イヤです。自分のことは自分でやってください」
「キッパリ言うなあ……」
マグナは項垂れた。
小夜子は小さな手提げを振りふり、ビデオ鑑賞したさに道を急いだ。
つづく




