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フィーロゾーフィア  作者: とり
第48話 自由研究について
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自由研究について-⑤

 


(ねえ)さん?」

 コギトはひきつった笑いと共に言った。


 ローブのフードを脱いだ少女が、エチカをそう呼んだのだ。


 エチカは金髪に金目だが、占い師の少女は銀髪に赤い目。おそらくはアルビノだろうが、顔色は快活で体は発育がよく頑健そうだった。立ったすがたは、十四歳の小夜子よりいくらか高いくらいだ。


「あのさあユーリ」


 エチカは占い師の少女に言った。


 ユーリ。それが彼女の本名、またはニックネームなのだろう。

 小夜子(さよこ)はなりゆきをエチカのうしろからながめて言った。


「エチカの妹さんだったんですね」


 昼二時(にじ)の住宅街の炎天下でアイサツを()わしたユーリとエチカは、それとなく(した)しそうだった。

 エチカが自分のこめかみを人差し指で押さえる。


「んなわけないでしょ。私のことを『(あね)』と呼んでいいのは、今も昔も未来永劫(えいごう)、全宇宙に一人(ひとり)だけよ」


 うんざりと、(たずさ)えてきた錬金術師の長杖(ロッド)に寄りかかる。

 熱気にうなだれるようなエチカに、暑さも相手の気もそしらぬ風で、ユーリが両手をグーにしてまくしたてる。


「いいじゃない。いずれはわたしのおねえちゃんになるんでしょ? 大兄(おおにい)さんはそう言ってるもの。だからエチカのことは『ねえさん』って呼びなさいって。わたしも大歓迎なのよ。おねえちゃんって欲しかったんだあ」


「ねえ」


 コギトがトンガリ帽子の広い(つば)を軽く持ちあげて、エチカに()いた。


「この()ってあなたのなんなの? コレ?」


「小指を立てんな。あんたジョーダンでもそんなことばっか言ってっと、友だちなくすわよ!」


「そーよねー」


 コギトのトビ色の目が、どこか遠く、緑の小さな宝石がらせんの軌跡を描く空をながめる。

 ユーリが思い出したようにポンと手をたたく。


「そうだっ。エチカねえさん。何か占ってほしいことがあって来たんでしょ? 何を()てほしいの? っていうか、占いって信じないんじゃなかったっけ」


「その呼び方あらためなきゃまともに答えてやんない」


「えーっ。……わかったわよう。じゃあ、エチカは何を占うの?」


「なんにも。そこのメガネが、あんたがよく当たる占いを安価で提供するばっかりに、客が来なくて大迷惑ってさわいでてね。どーせ王の許可なんて取ってないんでしょ? 怒られるまえに店じまいにしたら?」


「イヤよ。ねえ兄さんたちには黙ってて。自由研究のための資金あつめなの。わたし、今年こそは自分のちからだけで宿題全部やりとげたいんだあ」


 両手を合わせてエチカに詰め寄るユーリに、小夜子(さよこ)は感心に目を丸くする。


「かなり殊勝(しゅしょう)な心掛けですよね」


「まあ……彼女の宿題に税金つぎ込まれるよりかは、だんぜんいいわよね」


(税金?)


 小夜子は胸中で首をかしげた。


 次の瞬間には合点(がてん)がいきかけたが、それを確認する間もなく、ユーリがやって来て両手で小夜子(さよこ)の右手をギュッと握る。


「えへへー、あなたはサヨコちゃんだよね。はじめまして。わたし、ユーリっていうの。兄さんたちから色々と聞いています」


「はじめまして。サヨコ・シラヌイです」


 自己紹介してから、小夜子はちゃんとこうして自分のフルネームを名乗ったのは初めてなのではないかと気付いた。


 ユーリは小夜子より長身で、明るく、こまかいことなど気にしない性格みたいだが、なんとなく、『まとも』にアイサツしなければならないと思ったのだ。

 大人(おとな)が、小さな子どもに反射的に手本を示そうとする心境に近いだろうか。


 ユーリの赤い瞳が、パアアと輝いた。

 にーっこり。嬉しそうに破顔(はがん)している。


「よろしく、サヨコちゃん。ねえ、エチカに師事して錬金術の修業をしているんでしょ? すごいよねー。だってエチカって、他人と一定(いってい)時間以上、同じ空間にいるのが()えられないヒトなのに」


「そこまでヒドかないわよ。あと、サヨコは弟子じゃなくてただの従業員」


 第五等級街区の住宅の外装を、漫然(まんぜん)とながめていたエチカが聞き(とが)めた。


 ユーリは(くち)をとがらせる。


「でも、一緒(いっしょ)に暮らしてるんでしょ?」


「なりゆきでね」


「すごーいっ! いいなあー、わたしもお泊まりしたーい!」


 最後のセリフは小夜子(さよこ)を振り返って、ユーリは言った。


 エチカがうめく。そろそろ切り上げようと、錬金術師の(つえ)で長い金髪のかかった肩をトントン(たた)く。


「んじゃ、ユーリ。ほどほどにしとくのよ。あと熱中症でぶったおれないようにね」


「はーい」


 ユーリは元気よく手を上げて返事した。


「はあ!?」


 カヤの外だったコギトが、竹箒(たけぼうき)を振り上げて抗議する。





                  つづく




 

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