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最悪の失態 ヒューSide

「ジーニン、ヴァイオレットがいなくなった!ヴァイレオットの電話が繋がらない。電源が切れているようだ」


 俺はパニックになって魔導師ジーニンに電話をしていた。胃の奥から真っ黒い恐怖の塊が込み上げてくる。不安だ。二度と彼女を失うわけにはいかない。


 レキュール辺境伯領の草原で彼女を見失った事があった。その時以来だ。馬に乗って何時間も探し回ったのに見つからなかった。


 あのラントナス家の最後の王位継承者になると噂される、くしゃくしゃのブロンドヘアの若い魅力的な辺境伯とヴァイオレットが二人で現れた時のことを思い出して、俺の胃はまたキリキリと痛んだ。彼は煌めく瞳でヴァイオレットを見つめていた。だから、俺は勘違いをした。それは彼が魅力的でとてつもない可能性を秘めている点を知っていたからであり、彼がヴァイオレットを好いていることにすぐに気づいたからだ。


 隣国のカール大帝に代わって、大国ハープスブートの王となる可能性を秘めた男と、美しくスキルがあり、心優しいヴァイオレットが一緒に並び立つさまは、俺の中で底知れぬ不安と嫉妬の感情を呼び起こすものだった。


 ボアルネハルトの王子の俺が嫉妬と無縁の人生を送っているかというと違う。ヴァイオレットに出会ってから、俺も普通の男だと思い知らされる日々だった。彼女に夢中だったから。


 少なくとも、前回ヴァイオレットの姿が見えなくなった時は、レキュール辺境伯が助けてくれた。しかし、今日は違う。ここにはあの若く魅力的なレキュール辺境伯はいない。


「だから、ヴァイオレットお嬢様に新しいスマホを買ってあげるべきだと言いましたよね?」

「あぁ、提案したが、断られたんだ。その……雇い主からそういった特別な贈り物はもらいたくないと。学費を納付して余裕が出たら自分で買うからと断られたんだ」


 電話の向こうでジーニンは烈火のごとく怒っていた。


「ヴァイオレットお嬢様の居場所が見えませんっ!私の魔石にも何も映りません」

「なんだって!?」


 俺はたじろいだ。そんなバカな……魔導師ジーニンに居場所が見えないなら、もっと力の強い誰かがヴァイオレットの居場所を隠していることになる。


「まずいですよっ!この世界で命を失うようなことがあってはならないのです!探してくださいっ!」


 俺は魔導師ジーニンに怒鳴られて、電話を切った。


 泣きたくなった。ヴァイオレットのことが心配で心配で気が狂いそうだ。またしても俺のすぐそばにいながらヴァイオレットが俺の前から消えてしまって、今まさに命の危険に晒されているかもしれない。



 俺は恐怖で震えが止まらなくなった。


 ――ヴァイオレットに何かあったらどうしよう?


 魔導師ジーニンからサミュエルの車でこちらに向かっているとラインで連絡があった。俺たちはわざわざヴァイオレットを守るためにやってきたのに、一体何をやっているのだろう。


 ガクガクと膝が震えてくるのを抑え切れなかった。バリドン公爵令嬢の学生は、跡形もなく俺の目の前から暗闇に消えた。


 俺はこんな夜更けに20歳の美しい女の子が消えて無事でいられると思うほど、世間知らずではない。



 頼む。ヴァイオレット。どうか無事でいて欲しい。神様、俺が悪かったんだ。罰すなら俺を罰して欲しい。彼女を守って欲しい。


 異世界転生なんて、どうでもいい。ひたすら彼女の無事を祈った。





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