純斗Side エリオット・アクレサンデル・レキュールSide
ジョセフから戻ってくる時、俺は分かった。
俺の名前はエリオット・アクレサンデル・レキュールだった。
一気に俺の記憶が蘇ったのだ。レキュールの辺境の地で、カール大帝の弟の中年貴族が18歳ぐらいのマルグリッドと密会している場面を思い出した。2人が会話していたこともだ。
俺の中で吐き気を催すほど思い出したくもない記憶だった。
なぜ、アパートの上の階に住むヴァイオレットの彼女に強烈に惹かれたのか、やっと納得ができた。最初からどうしようもなく好きだった。なぜか強烈に心惹かれて彼女がバイトをしているファーストフード店に通い詰めた。その理由がわかった。
俺は前世でヴァイオレットに惹かれていた。彼女を見るなり恋をしたのは、きっとそういうことなのだ。声なのか、仕草なのか、笑顔なのか、俺は彼女に会うと胸が温かくなってただただ幸せを感じた。
仕事で忙しくなってからはなかなか彼女のバイト先には行けなくなったが。ドラマの撮影中も、何気ない拍子に彼女のことを考えている自分に気づいた。しかし、俺が仕事で忙しくしている間に、彼女はあっという間に奇妙なバイトの雇い主に惹かれ始めた。確かにとんでもなく魅力的な男だということは分かる。でも、ヒューという名の彼の何かが、俺を不安にさせた。信じられないほど美男子で高身長で仕草も洗練されていて、紳士的だ。それなのに彼女のそばにバイトの雇い主として彼がいると俺はとても不安になった。
認めよう、単なる嫉妬もあるだろう。
何より、彼女が取られたのは悔しかった。でも、彼女が幸せならと自分を納得させようとした。しかし、無性に彼女を守りたかった。だから、考察会にも積極的に参加したし、彼女が聖女だというのも無条件に受け入れた。
俺は一緒に彼女の過去の人生に戻ってみて、信じ難いほど楽しかった。そもそも、あの世界のことを非常によく理解している自分に驚いた。夢のように楽しい時間だった。しかし、衝撃的なことが起きた。ジョセフから純斗に戻る瞬間、多くの記憶が俺の頭の中に蘇った。
俺はエリオット・アクレサンデル・レキュールの記憶を受け入れた。なぜ、ヒューにいつも苛立ちを覚えるのか、ようやく理解した。
俺は隣国の貴族であるルノー・ガクセン・ハンリヒの本性を知っている。あいつが本当に欲しかったのは、ヴァイオレット自身だ。自分の妻か愛人としてヴァイオレットをとらえようとしていたはずだ。
ヴァイオレットが処刑された後、辺境の地は豊かになり、隣国のルノーに取られた。
そしてある日、ルノーがレキュールの地でマルグリッドと密会をして、マルグリッドに狂ったように怒り狂っている現場を偶然俺は目撃してしまった。
「殺すまでは望んでなかったんだ!」
「またその話?何回繰り返すのよっ!」
ルノーは髭を震わせ、顔を引き攣らせてマルグリッドを殺しかねない勢いで怒っていた。
俺はこの時、ルノーに見つかった。追いかけてきたルノーに、秘密の密会を目撃したとして刺された。マルグリッドはヒュー王子の婚約者になっていた。だから、髭面のルノーは全てを理解した俺が邪魔だったのだ。死んだから異世界転生できたようだ。魔導師ジーニンはレキュール辺境伯にも異世界転生アルゴリズムを使ったのだろうか。
俺は悲しみの辺境伯と呼ばれていた。ルノーに刺された時、地面に倒れて仰向けになると、灰色の空が広がっているのが見えた。俺の最後の記憶はどこまでも広がるその灰色の空だ。聖女のヴァイオレットの声がふわりと聞こえた気がした。
悲しみの辺境伯よ、さようなら。
秋の一陣の風に混じって聖女の声が聞こえたような気がした。
最愛の人、また会えたなら、今度こそ君を救おう。
俺は大好きな人を救おうと決めた。国王陛下が俺から買い上げて聖女にくださった領地はとてつもない資源が埋まっていた土地だったのだ。一国の富を遥かに凌ぐ富が生み出される土地だった。
戻ったら、エリオットに教えたい。まだ間に合うなら、ノー・ガクセン・ハンリヒの悪事を早めに教えよう。エリオットも聖女ヴァイオレットも多分ヒューも救えるだろう。




