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告白!?

 次の日、私とジョセフは街中の小さなボルディ商社が国王陛下の庇護を受けてしっかりと営業できているかを確認しに出かけた。季節は春から初夏にさしかかる頃で、エルダーフワラーがクリーム色の小花を美しく咲かせていた。ピンク色のシャクヤクの花が大輪の花を咲き誇り、真っ赤なヒナゲシの花も可憐に咲いている。


 私の心は浮き立ち、一瞬自分が前回処刑された事を忘れかけていた。


 サミュエルが御者を務める馬車がバリドン公爵家の広大な領地を抜けて色とりどりの花が咲き乱れる野を通っている時、ジョセフはふと私の顔を真顔で見て言った。


「とみちゃんってさ、にぶいよな」


「え?」


 16歳の公爵令嬢の中に入っているのは、確かに18歳で断罪されたヴァイオレットと、20歳の富子だが、いきなりなんだろう。


「何が鈍いのかな。ヴァイオレットは確かに前回はお人好し過ぎたと思うけど」

「ふーん」


 純斗ことジョセフは私の顔をじっくりと眺めた後、腕組みをしてソッポを向いた。ボルディ商社に到着するまで、ジョセフはずっと馬車の外を眺めていて、私の方を見ようともしなかった。



 ボルディ商社はちゃんと繁盛しているようだった。ダイヤモンド鉱山で採れたダイヤモンドも、諸外国から仕入れた絹も、香辛料もちゃんと彼らの商社を介しているようだった。私は自分が死ぬ直前、この商社が実に堅実で手堅く商売を広げていたのを知っている。彼らは信用できる。国益を損なわないように我が国の資源を守ることもちゃんと考えることができる商人たちで構成されている。


 私は砂糖とカカオとバニラとコーヒー豆を注文して、ジョセフと帰路についた。


「チョコレートでも作る気なの?」


 ジョセフは聞いてきた。


「そうね。こっちでも欲しい時があるでしょう?」

「まあね」


 私たちの間に数分無言が続いた。


「さっきの私がにぶい話だけれど、どこがどうと指摘してくれないと分からないのだけれど」


 私は揺れる馬車の中でジョセフを見た。


「あっちに帰ったら」


 それだけそっけなく言うと、ジョセフは黙り込んでまた外を見始めた。今回はアルフレッド王子までは会えなかったけれど、マルグリッドの動きは封じ込めたので私たちは満足していた。次の戻りは18歳まで飛ぶはずだ。



 私はそんなことを考えながら、サミュエルの馬車で安心してバリドン公爵家への帰路に着いた。父のバリドン公爵は結婚式の延期を陛下に伝えたはずだ。ヒューはそのことを了承するだろう。


 私は日記に心の鍛錬に励む目標と共に、チョコレートの作り方、コーヒーの淹れ方、バニラを使った焼き菓子の作り方について記した。料理人ベスにも同じレシピを伝えて、チョコレートや焼き菓子の販売についても考えていると伝えたのだ。


 私は純斗に感謝していた。一緒に行くと言われた時は唖然としたが、純斗がいなかったら死亡フラグが立ったまま、うまく立ち回れなかった可能性があったのだから。


 帰ったら、お礼をしなければと私は思ったまま、馬車の揺れが気持ちよくなって私は眠ってしまった。ゴツンと馬車のドアにぶつける前に、ジョセフの肩にそっと自分の頭が優しく倒されたのを感じた。


 『純斗は優しい』と思いながら私は意識を手放した。






◆◆◆


 目を開けると、潤斗の肩に寄りかかったまま、私はフードコートのソファ席で寝入っているところだった。ハッとした。戻ってきたようだ。


 午後の授業には間に合う時間だろうか。私は目の前で心配そうに私たちを見つめているヒューと魔導師ジーニンを見つめた。魔導師ジーニンは16歳の時に宮殿で見たままの紫のマントを羽織っている。ヒューはポロシャツにスラックスというリラックスした出立で、相変わらずの美男子っぷりだった。


「マルグリッドはもう大丈夫よ。彼女は黒だった」


 私は2人に開口一番宣言した。その時、純斗は目を覚ました。隣の純斗の顔を見上げた私はハッとした。彼は明らかに泣いていたから。


「どうしたの?何かあった?」


 私とヒューと魔導師ジーニンが純斗の顔を覗きこむと、彼はゆっくりと目をしばたいた。放心状態のようだ。


「いや……初めての経験だったからさ。なんかこう……」


 純斗は戸惑ったように話した。


「わかるっ!その感じ私も分かる」


 私は大きくうなずいた。涙は流さなかったけれど、私も最初はかなり戸惑った。ただ、私は元々あっちの世界の住人だ。戸惑いは少ない方だと思う。純斗は慣れない中世の従者をやらされて、思いの外大変だったのではないだろうか。


「まあ……そうだね」


 純斗は言葉少なにぼそぼそと話した。純斗らしくなかったが、こんな経験は普通はしないだろうから、私たちはあまり気に止めなかった。


「次は18歳でいいかもしれない。ほら、この写真を見て」


 私はスマホで撮った写真を見せて、大量の矢で殺される寸前だったことと、泥だらけのマルグリッドと、子ブタになったマルグリッドの写真を見せた。


「鉄製フライパンで撃退したんですか?マルグリッド伯爵令嬢は大量の矢をお嬢様とジョセフに放った?」

「嘘でしょう?」


 ヒューと魔導師ジーニンは吹き出したり、恐れをなした様子で私と純斗を見つめたり、青くなったり赤くなったりしていた。


「私はもう昔のヴァイオレットじゃない」


 私は2人に説明した。


 その時、私の古いスマホが午後の講義の時間が近づいていることを教えてくれた。純斗もちょうど同じ時間の講義があると言う。私たちは連れ立って足早にフードコートを後にした。


 ヒューと魔導師ジーニンは、マルグリッドが私に矢を大量に放ち、負けずに私が彼女を子ブタにしたショックから抜け出せないようだった。2人はそのままそこに残してきた。彼女が反省すれば元の姿に戻るし、3日すれば、恐ろしい強烈な犯罪を含む悪巧みを考えるたびにウサギになるだけだと説明した。


 スキルが使えない状態で、炎の中で焼け死ぬはめになった私の記憶力は健在だ。あの苦しみを二度と受けるような事があってはならない。恋敵を処刑させて、自分が王子と婚約するマルグリッドの所業は許せるものではない。私と純斗は、彼女を生かしただけ私たちは甘いかもしれないとは話し合っていた。


 走るようにして大学の構内を急いで移動しながら、純斗が私の腕をつかんだ。


「待って、今言うよ」


 私は振り返って純斗を見た。純斗が眼鏡を外した。


「ね、やっぱ似ているよね!?髪の毛が金髪じゃないけどさ」

「だよねー!?本人じゃない?うわっ、うちらと同じ大学だったの?」


 周りの女子が騒いでいる声が耳に入った。純斗はハッとした様子でメガネをかけなおした。


「とみちゃん、にぶいよ、俺が好きだって気づかないの?」


 純斗は周りの女子が騒いでいる様子にイライラとした表情を浮かべて、私を追い越して通りすぎる瞬間に小さな声でそっけなく私に言った。


 後に残された私は、急ぎ足で構内を歩いて行く純斗の後ろ姿を動揺しながら見送った。


「ほらー、金髪にしたらさ、今人気出てきているあの俳優の……」

「いや、歌も上手いよ。俳優だけじゃないよね、最近……」



 ――え……純斗が誰ですって?それより今、私は純斗に告白された!?


 私は呆然と立ち尽くした。今日の午後は必修のフランス語だ。大塚教授がフランスからまだ戻ってきていないから、臨時講師が組んだ授業だ。


 私は慌てて構内を走りながら、頭の中がパニックになっていた。顔が火照る。


 ――純斗が私のことを好き?


 数ヶ月前、毎晩のようにファーストフード店に通ってきてくれていた時期が確かにあった。純斗に声をかけられたこともある。最近は純斗は忙しいみたいで、滅多に私のバイト先には来なくなった。


 ――そんなの気づかない。気づかないよ……。


 私は急に純斗を意識し始めて、勝手に心臓がバクバクしてきていた。


 爽やかな青色が特徴のブルーサルビアがあちこちに咲いている中、薄紫色のアバガンサスの可憐な花が目に入った。花言葉は「恋の訪れ」「恋の季節」だ。


 ちりめん状のピンクや白のサルスベリの花が鮮やかに咲く木陰を純斗は周囲の女の子たちにキャアキャア騒がれながら、歩いて去って行った。サインを頼まれて、仕方なく肩をすくめて断っている。


 桔梗の鮮やかな紫の花が目に入った。花言葉は「永遠の愛」「変わらぬ愛」だ。花言葉を思うと、ヒューではなく、なぜか純斗の顔が頭に浮かんだ。それとレキュール辺境伯の地で迷子になり、レキュール辺境伯と夜空を見上げた夜を思い出した。エリオット・アクレサンデル・レキュールと焚き火越しに夜空を見上げた夜だ。



 ――永遠の愛で、なぜ彼らが頭に浮かぶの?


 私はフランス語の授業に遅れる事にハッとして気づいて、また走り始めた。


「恋の季節」であることには間違いない。私は人生最大のモテ期到来なのだろうかと思った。





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